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俺が言い訳すると、瑞希くんはさらに食い下がった。
「再会したってことは元々友達ってわけ?」
「いや、友達っていうか……元カレ…だけど」
その瞬間、瑞希くんの目が見開かれる。
「はっ、はあ?!元カレ?!」
彼の大きな声に、俺は慌てて周りを見渡した。
「ちょ、ちょっと声大きいって…!」
しかし元カレというワードを出したことによって
更に瑞希くんを興奮させたのか
「それで映画デート?絶対付き合ってんじゃん」
なんて断定してくる。
「いや、そういうんじゃなくて……!今日は友達として遊びに行っただけで…」
「友達とかうさんくさ~」
「あはは…でもまさか二人に見られてるとは思わなかったですよ……」
乾いた笑いしか出てこない俺を見て、仁さんが心配そうに呟いた。
「楓くん、なんか元気ないね」
仁さんの言葉にピクっと反応すると、将暉さんが言った。
「顔色も良くないし、何かあった?」
そう聞かれた瞬間、抑えていた感情が一気に爆発した。
乾いた笑いしか出てこない俺を見て、仁さんが心配そうに呟いた。
「楓くん、なんか元気ないね」
仁さんの言葉にピクっと反応すると、将暉さんが言った。
「顔色も良くないし、何かあったとか?」
そう聞かれた瞬間、抑えていた感情が一気に爆発しかけて
それを抑えるようにしながら、口を開いた。
「これは仁さんには話したんですけど、実は一週間前ぐらい前に、高校から仲のいい男友達…名前出すんですけど、健司に告白されて…」
3人とも、酒を飲みつつ、俺の話に静かに耳を傾けてくれていた。
「色々あって揉めたんですけど、俺は健司をそういう目で見れないし「友達でいたい」って言ったんで
す」
「…それで?」
俺の沈黙を破るかのように響いた。
その一言が、俺の心に渦巻く次の感情を促すトリガーとなる。
「結果的に「考えさせてくれ」って言われて」
「で、答えは?」
「いや、まだだけど…」
「1週間も前なら普通うんとかすんとか言うくない?なんかダサ」
「え……?」
「瑞希…!余計なこと言わないの」
瑞希の鋭い言葉に対し固まる俺と
そんな瑞希の頭を拳でコツンとやり、黙らす将暉さん。
俺は気を取り直して、言葉を続けた。
「それで、そのことを先週、朔久と夜に会って相談してたんですけど、気分転換に映画でも行かないかって誘われて、それで今日一緒に出かけただけなので」
「楓くんって…元カレとも普通に友達でいれる派なんだな」
仁さんがそう言ってきて、俺は少し考えて頷く。
「え?はい。でも…〝俺はデートの体で楓のこと誘ってるから〟って言われて……」
俺が言葉に詰まると、瑞希がまた言った。
「やっぱ色川って男、あんたのこと好きなんじゃないの?」
その言葉にドキッとしたが、すぐに首を振って否定する。
「好きとか、復縁したいとは言われてないし…!」
その言葉に
「じゃあなんでそんな暗い顔してんの?絶対復縁したら優良物件じゃん!」
と瑞希くんに聞かれると
「それは…何様だって思うかも知れないけど……好きとか、復縁とか無闇に言われたくないんだ」
そう、俺の口はぽろりと言葉を吐いていた。
「は?なにそれ」
もちろん瑞希くんが食いついてこないわけがなかった。
「俺…フェロモンブロッカー依存症なってから、好きとか、そういう恋心が分かんなくて…」
自分で言っておきながら、二人の視線に心が苦しくなった。
こんな暗い話…するんじゃなかったと後悔していると、仁さんが優しく言った。
「辛いな、それ」
「えっ」
「俺の好きな相手も無責任に好きとか言えるような
相手じゃないから」
その一言に俺は顔を上げて
「仁さんは…そういう人に恋してるんですか?」
見つめながらそう聞くと、どこか淋しそうに頷いて
仁さんはさらに続けた。
「…それに、好きが分かんないのに好意なんてぶつけられても楓くんは辛いだろうし」
その言葉に、俺は胸が熱くなった。
そんなとき
「うちの瑞希がごめんねー、気にしないでね」
心配そうな声を出したのは将暉さんだった。
彼は優しく微笑んでくれる。
その優しさに触れて、少し安心した。
「は、はあ?今の俺悪いの?」
「瑞希はいつも無神経にもの言い過ぎだよ」
三人の言葉に少し安心しながら、俺は心の中の重荷が少し軽くなった気がした。
と、そんなときだった
突然、ズボンのポケットに入れていたスマホに着信が入る。
俺はびっくりしてスマホを手に取ると
画面には確かに「健司」の文字が表示されていた。
その瞬間、心臓が高鳴る。
健司からの電話だ
「ん?誰から?」
「け、健司からです……!すみません、出てもいいですか…?」
「出な出な、返答かもよ」
「やっとじゃん」
俺は少し迷ってから、通話ボタンを押した。
《もしもし…健司?》
《楓…悪いなこんな時間に》
《うん…大丈夫だけどさ、どうしたの?》
俺の声は少し震えていた。
《俺…色々考えたんだけど、やっと結論が出た。お前の友達でいたい、に対する俺の結論が》
健司の声は少し寂しそうだった。
《そっか…教えて、くれるかな》
《ああ、俺……》
《うん》
健司は一呼吸置いてから、続けた。
《俺、お前のこと応援することにしたから》
《え……?》
予想外の言葉に、俺は目を丸くした。
《俺さ……お前のこと好きだって気持ちは本当だけど、お前のこと失いたくはない》
《健司……》
「だからさ……お前が本当に好きな人ができたら全力で応援する。それが俺の決断だ」
その言葉は意外だったけど、俺は健司の決断にホッとした。
《ありがと…健司……》
《こっちのセリフだ、なあ、楓さ…》
《なに……?》
《幸せになれよ》
《……っ!》
それだけだ。じゃあな」と言って電話を切った。
通話が終わると、俺はスマホを耳から離し
深く息を吐き出した。
瞬間、将暉さんが茶化すように尋ねてきた。
「その顔はいい答えだったってとこかな?」
彼の声は、どこかからかいを含んでいるけれど
同時に俺の気持ちを察しているような優しさも感じられた。
俺はただ頷くことしかできなかった。
「俺のこと…応援してくれるって、俺に好きな人が出来たら全力で応援するって……言ってくれました」
そう口にするだけで、また胸がいっぱいになる。
俺は目尻が熱くなるのを感じた。
健司とこれからも友達でいられることになった安心感からなのか
一度こらえようとした涙が、止めどなく頬を伝っていった。
こんなに人前で泣くなんて、いつぶりだろう。
自分でも驚くほど、心にたまっていた不安が一気に溶け出すのを感じた。
「なっ、泣くほど?!」
そんな俺を見て、瑞希くんは目を丸くして呆れにも似た驚いた声を上げた。
その声には、心配と同時に呆れも含まれている気がした。
「もっ…もうお前といたくないとか言われるんじゃないかと思ってたので……っ、安心したら…」
途切れ途切れに言葉を紡ぐのがやっとだった。
健司に拒絶されることが、どれほど怖かったか。
その恐怖から解放された安堵感が、涙となって溢れ出てくる。
「楓くん…」
仁さんが心配そうに俺の名前を呼んだ。
その声は、いつもよりもずっと柔らかく、俺の心にじんわりと染み渡るようだった。
仁さんは、何も言わずにそっと俺にハンカチを差し出してくれた。
その温かい心遣いが、さらに俺の涙腺を刺激する。
「楓くんが泣くとか珍しいけど…ちゃんとあっちも
ケジメついたんだろな」
仁さんの言葉には、俺への気遣いと同時に、健司に対する信頼も感じられた。
「……はい…ありがと、ございます」
俺は震える声でそう言い、差し出されたハンカチを受け取ると、溢れる涙を丁寧に拭った。
その時、仁さんが俺の頭をポンポンと優しく叩いた。
その手の温かさが、ダイレクトに俺の心に伝わってくる。
「良かったな、ちゃんと話せて」
たった一言。
でも、その言葉が俺の気持ちを全て肯定してくれているようで
また嬉しくてたまらなくなり、拭ったばかりの目から再び涙が溢れてきた。
こんなにも温かい言葉をかけてもらえるなんて、俺は本当に恵まれている。
そんな仁さんをからかうように将暉さんが声を上げた。
「うわー、じんが楓ちゃん泣かせてる〜」
「おい、バカ言うな」
将暉さんの軽口は、この場の重くなった空気を和ませてくれる。
俺は笑いながら残りの涙を拭い、大きく息を吐き出した。
◆◇◆◇
それから1時間後
「さっき聞きそびれたけど、夜に会って相談してたってどこで会ったわけ?」
酔っ払った瑞希くんに探るように聞かれて
「そりゃ俺の家だけど」
と当たり前のように言うと
瑞希くんがグラスの縁を円を描くように触る手を止めて、驚きの表情を浮かべた。
「元カレに夜来てもらって相談聞いてもらうとかべ夕すぎ、絶対ハプニングのひとつやふたつあったっしょ?」
「いや、ないって!俺が落ち込んでるの察して俺の好きなキムチ鍋の材料買ってきてくれて、一緒に料理して食べながら相談聞いてもらっただけで…」
事細かに説明してみると
「それだけぇ?目の前に好きな男いたら絶対なにかしらさー」
なんて言い出した瑞希くん
それを遮ったのは将暉さんだった。
「なりたくてもなれないんじゃない?関係が曖昧だとさ。ねえ、じん?」
「なんで俺に振るんだよ」
ふっと笑う仁さんが、目の前の透明な丸氷の入ったウイスキーをカランと鳴らし
俺に向けて言った。
「それに、楓くんのこと本当に好きな証拠だろ、簡単に手出せないって」
「…そういうもんー?」
「そうそう。っていうか、あの色川に気に入ってもらいたい女ってごまんといるって噂だけどオーバーキルされてるらしいし、相当楓ちゃんに本気ってことじゃない?」
「で、でも…それは……」
俺が言葉を濁すと、瑞希くんがまた切り込んできた。
「てか思ったんだけど!恋分かんないとか呑気なこと言ってる暇あったら試しに復縁してみれば良い
じゃん」
その言葉に驚きの声をあげる俺を見て、瑞希くんはさらに続けた。
「もしかしたらまた好きになるかもしんないじゃ
ん」
「それは……一理ある、けど」
「でしょ!?あんなイケメンα振る方が勿体ないって、人生の10割損してるって!」
「ぜ、全部……っ?!」
俺が困っていると、将暉さんが助け舟を出してくれた。
「瑞希、楓ちゃん困ってるって。無理強いは良くないよ、復縁するもしないも二人の問題なんだから
さ」
復縁するもしないも自分たちの問題
それはその通りだと思った。
俺はその言葉に強く納得した。
「あはは…まあ、そういうのもあって結構滅入ってたので…ありがとうございます。瑞希くんも、ありがとう」
俺の言葉に瑞希くんは頬杖をつきながら笑顔を浮かべる。
「もうっ、そーいうのむず痒いって」