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#恋愛
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「待て!この泥棒!」
「さぁ…丁か半か。」
「兄ちゃん。5グラムロクゴーのとこヨンゴーに負けとくよ…どう?」
…相変わらずだな、ここは。喧騒、悲鳴、泣き声、欲望
が絶え間なく渦巻いている。45度に曲がった薄暗い外套やガリガリに痩せたガキ、充満する排泄物の臭い…意外と慣れるもんだが、こんな所に住む人間の気が知れない。人間ではないのではないか。まぁオレも「普通の人間」じゃないが。おっ、着いたな。剥き出しの屋台に、小汚い中年オヤジが麻薬を売っている。
「オヤジ、これ10グラムでいくら?」
「おぉ〜あんちゃん若けぇが”ビルティス”の人だろ?安くしとくぜ〜ゴーサンでどうだ?」
オヤジはカサカサの右の指を5本と左の指3本をピンっと立てた。
「へぇ、いい商売だなオヤジ。……西のヤクザもんにはゴーゼロで売ってるくせによぉ!」
「ッ……!何故それを!」
“ザシュッ”
少し口角を上げ、オレは焦るオヤジの左の人差し指と中指の第一関節を担いでいた大鎌で切り飛ばす。
「ギャァッッ!」
「ギャアじゃねんだよ。誰に商売させて頂いてるか忘れたのかぁオヤジ?落とし前は必要だよなぁ…?」
「すっ…すまないすまなかった!ここにあるもん全部持ってっていい!命は…命だけは勘弁してくれ!」
オヤジは涙を浮かべ必死に訴える。
「話が早くて助かるぜ、悪いな乱暴しちまって。」
オレは素早くブツをありったけポケットに突っ込み店を後にする。オヤジの悲鳴で周りの人間が俺を見ているが気にせず、来た道をまっすぐ戻る。
「ふぅ、ふぅぅぅっ、クソっ!こっちが下手に出てりゃあ舐めやがってあのガキャ〜」
男が居なくなったのを確認し、オヤジが愚痴をこぼしつつ酒缶に手をやると、切られた指が激しく痛み、急に呼吸ができなくなった。
「がっ…!?がぁぁぁ!苦しっ…」
“バタン”
オヤジは七日目の蝉のようにジタバタと倒れたまま暴れ、やがて動かなくなった。
「悪いな、こっちも仕事なもんでね。」
男はそう言ってポケットのブツを確認しながら路地の闇に消えていった――――
「おいっ!見ろよ見ろよ!期待の新人、卯月さんだぜ!」
「美人だなぁ〜そんでもって強い!こないだだってB級悪魔道士を魔素の許容限界にして勝ったそうだぜ!」
「17歳で成績はトップクラスだってよぉ!若いのにすげぇよなぁ〜」
先程まで飯を食っていた2人の中年平隊員が恍惚した表情で私を見る。そんな事をしている暇があるなら武器のメンテナンスでもすればいいのに…と思う気持ちを抑え、笑顔で会釈する。
それに、魔素の許容限界、我々異能力者が能力を使うための元素である魔素。人によって1日の魔素使用量は決まっているため、それを超えて能力を使うことで起こるのが魔素の許容限界。
正直、死闘をすれば何度か見る現象だ。まぁ窓際部署であるがために昼間から酒を交わす隊員には分からないことだろう。
“ジリリリリリリリリリ!”
バックルの中の通信機が振動する。どうやら任務のようだ。……私今帰ってきたところなんだけど?
だが、任務だし、悪人が近くにいる以上放ってはおけないのが私の質だ。
「はい、こちら卯月」
「任務だ。場所は本部から南西に2キロ、歌実地区のさびれた酒場だ。」
この声は隊長だ。私が任務終わりなの知ってて通達してきやがったなあのドSやろー
「至急、向かいます。」
“ブツッ”
私は足早に通信を切り、バックルに通信機を直すと、反対側のバックルから青いガラス細工のような石、転移石を取り出した。
「ハッ!」
勢いよく地面に転移石を叩きつけると、辺りが白く光り、さびれた店の並ぶ場所に移動していた。
「ここ…か。」
目を瞑り、息を吸い、大きく見開く…!
“バゴォ!”
「曙だ!両手を挙げて武器を捨てろ!」
扉を蹴り開けると同時に叫んだ。店の中には4人いた。
フードを被り、死神を彷彿とさせる大鎌を担いだ男が1人、顔のない人型のナニカが3体。
「げぇっ!もうバレたんかよ…しゃあねぇなぁー」
ゆっくりと男は私を見る。
「殺れ。」
男が指示した瞬間、人型達は持っていた麻薬の袋を放り投げ、私に向かってきた。…余り舐めるなよ。私はフゥっと息を吐き、走り出す。
「ハァァァッ!」
三十秒もしないうちに一体、二体、三体と人型を両手に持った刀で斬り倒していく。
「ウソーん」
並の人間なら余裕で殺せるのに…
「もしかしてあんた、強い人?」
私は男を睨みつけたまま端的に話した。
「二番隊所属、卯月弥生。説明終わり。」
「ツレないなぁ〜、そんなんじゃモテないぜ?」
男はニヤニヤしながら言う、気味が悪い。
「犯罪者なんかこっちから願い下げ!登録コード4680、嗤う死神!二番隊の名にかけて討伐する!」
私は構え直し、叫んだ。
「そっちではそんな大層なあだ名つけてもらってんのかよ〜そりゃ光えi…」
“ブンッ”
…すんでの所で躱された、身のこなしが軽いようだ。
「お〜怖っ!そんなんされたら俺も必死になるぜ?」
空気が変わり、男が私をキッと睨む。
「行くぜぇ?俺の必殺…!」
私は再び、身構える。
「”全速前進”!」
そう唱えた男は、何者かに引っ張られるように朽ちた木の壁をメキメキと背中で壊しながら後ろに吹っ飛んだ!……は?逃げた?
「バイビィー」
男はこっちを向き、ニヤニヤしながら距離をとる。
段々怒りが沸いてきた。
「バカにするなっ!」
外には4つの人影があったが、私は迷わず北東に走り、全速力で走っている奴を追いかける。
こんだけ距離にハンデがあるんだ…あの嬢ちゃんも諦めて帰るだろ。さて、物色の続きを…入れていたブツを出そうとポケットに手をかけた瞬間、後ろから”ヒュン”と鋭い音がした。まさかっ!
“ガキィン!”
オレは二振りの刀を大鎌で受け止めた。やはり!あの嬢ちゃんは追いついていた!それどころか、後ろから一撃入れようとしやがった!
「何でここが分かった!カモフラージュで魔法人形を数体、適当な方向に走らせてたんだぞ!?」
「私はこの”猫を模倣する能力”で目が利くの。魔力の流れ方や重心のブレ方で人間ではないとすぐ分かる!」
よく見たら目も猫目になってるし頭に猫耳生えてねぇか!?さっきまで無かったくせによぉ…!
「おわぁっ!」
こいつ…力強え!オレは馬乗りになるようにして嬢ちゃんに押し倒された。お互いに武器を持ってなけりゃあ、R-18的展開になったろうになぁ…なんて言ってる場合じゃねえ!
「おいおい!嫁入り前の娘がいいのかよぉはしたねぇなあ!」
オレはそんな軽口を叩くも、滅茶苦茶ギリだ。
ヤバいヤバいヤバい!ちょっとでも緩めたら死ぬ!
「お前の負けだ!大人しくお縄に…」
“バキィ”
瞬間、私は横から何かに殴られた。あの魔法人形だ…!呼び寄せていたのかっクソ、いいトコ当てられた!足に力が…!男は私を見下ろすとニヤけ面に表情を戻した。
「便利っしょ?俺の”卑怯を具現化する能力”。さっきみたいにすぐ逃げることも出来れば、人数有利もお手の物ってわけ。ほんじゃ、まぁ…」
オレは口角を吊り上げ満面の笑みで嬢ちゃんを見る。
「リンチされててちょーだいね!」
3体の魔法人形が一斉に私に襲いかかる。殺られる…!
なんてね
私に拳が当たる瞬間、魔法人形が”フッ”と消えた。
「ハァ!?んでだよ!魔力操作が効かねぇ…!?つか、体に力ぁ入んねえ…」
“ドサリ”と俺はその場に倒れ込んだ。んでだよ…こんなに早く魔素の許容限界になるわきゃねぇ!
「てめぇ…何か使ったなぁ?」
嬢ちゃんはニヤリと笑った
「呪詛返し 黒猫の横切り、面白い位くらいに食らってくれたわね。わざわざ人形に十字傷を付けたかいがあったというものよ。これで捕らえたぞ、犯罪者!」
「アンタも動けんだろ…これからどうすr…」
あ〜…最悪。ドタドタうるさくて妙に整った足音が聞こえた。援軍だろうな。
「よぉ卯月、バカみてぇな格好だな」
この声と目を引く青髪はまさか…
「来てくれたんですね、天鳴隊長。」
「そりゃ任務任せたのにお前がチンタラしてっからさ、様子見に来たんだよ。そしたら何だ?相手と同じ格好しやがって。おもしれぇから写真撮っといてやるよ。お前ら、確保だけしといてくれ」
部下に指揮を執ると隊長は面白そうに現代にそぐわないガラケーでカシャカシャと写真を撮り始めた…ほんと鬱陶しい。
「あ、そうだ。」
隊長は男の頭を乱暴に掴み、詰め寄った。
「お前にゃ聞きたいことがあるんだ。ご同行願おうか。」
だが、この男も負けじとペースを崩さない。
「いいぜぇ。別に話すことなんざ無いしな。お巡りに話すことなんてよ。」
こうして私は救護班に回復してもらい、男は連行された。そして後日、私は尋問部屋に呼び出された。
「失礼します。何かご用でしょうか?」
部屋の中にはあの男と天鳴隊長が対面で座っていた。
「来たか、卯月。お前はコイツの担当だからな、尋問を見学してもらうことにしたんだ。」
「はぁ、そうですか」
正直、気が進まない。何が楽しくて見知らぬ人間が悲鳴を上げている姿など見たいと思うのだろうか?
「気が進まない、って顔してんな。」
もう見透かされた、隊長は能力でもなくこう言う所があるからおっかない。
「いえ、そんなことは…」
「大丈夫だ。その辺はプロは連れてきてるからな。つー事だ、入ってくれ。」
“ガララッ”と戸が開くと紫髪で眠たそうな目をした青年が入ってきた。…この人は!
「お疲れ様です!法楽隊長!」
「ん。おつかれさーん。」
まさかの大物だった。普通、ほかの隊の隊長などめったにお目にかかれることはない。少し緊張する。
「しっかし天鳴隊長も人使い荒いっすよねぇ。オレ今日休みだったんすけど。」
「何が休みだ、部下に書類作業任せているだろう。少しは手伝ってやろうとかないのか?」
「人聞きの悪いこと言わないでよぉ、効率的にやってるんすよ。僕は書類作業が嫌いなんだから、好きな人にやらせときゃいいんすよぉ。」
別にその部下の人も好きでやってるんじゃ無いんだろうな、なんて口が裂けても言えない。
「んで?コイツが例の事件に関わりがあるって話でしたよねぇ?」
例の事件…?いったい何の話だろうか。男は何を考えているのだろうか。ずっと下を向いたままだ。
「あぁ。卯月にも説明しといてやるが、異能犯罪者ってのは大抵の人間が個人情報を消しておくもんだ。ビルティスみたいな組織に入ってるならなおさらな。」
「あ、知ってます。顔や能力の情報とかが探られる可能性があるから大体の異能犯罪者が親を殺してでも情報を絶つ傾向にある…でしたよね?」
「そのとぉり、賢いじゃないか卯月隊員。だがなぁコイツは少し特殊なんだ。」
「特殊?」
「あぁ。この男の情報を調べてみたんだがね、まぁ出てくる出てくる。名前や地元、住所から能力までぜぇんぶね。」
「…ッツ!」
男はバツが悪そうな怒っているような声で唸る。
「え…?そんな事って」
「あったようだな。そして、お前があの《P町全焼事件》の被害者だと言うことも目星が付いている。」
「え…!?それって町が全焼して、被害者が全員死亡したために迷宮入りとなったあの!?」
“ガシャン!”瞬間、男が椅子を蹴り倒した。
「知りませんねぇ!知ってたとして!お前らに話して何の徳があんだよ。」
「悪いけどぉ、知らないなんてことはありえないんだよ。嗤う死神…もとい、紫崎アサギくん?」
法楽隊長はニヤリと笑い、むりやり男の頭を掴んだ。
「やめろっ!離せぇ!」
「僕の能力は”あらゆるものを逆にする能力”。行動や攻撃の方向、思考さえもね。さぁこっちを見ろ。」
「洗脳 梟鳥の暗示梟鳥の暗示」
瞬間、紫崎が暴れるのをやめた。異様な空気に思わず生唾を飲む。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。」