美月と海斗は手を繋いで裏通りを歩いていた。
海斗の手をギュッと強く握っていた美月は、少しホッとしたのか手の力を緩めた。
それに気づいた海斗が優しく言った。
「よく頑張ったね」
「うん」
美月は返事をした後海斗に聞く。
「知ってたの?」
「大体の事はこの前亜矢子さんから聞いた」
美月はそれを聞いて納得したようだ。
「さっきの彼女が不倫相手だったんだろう?」
「うん」
「気の強そうな人だったね。でも美月の方が全然可愛いよ」
海斗がさらっと言ったので美月は頬を赤く染める。
「さーて、仕切り直しでランチデートをするとしますか。でもね、休憩時間が一時間半しかないんだよ。慌ただしくて本当にご
めんね」
「ううん、忙しいのに来てくれてありがとう」
「どういたしまして」
そこで二人は見つめ合ってフフッと笑う。
しばらく歩くと、小さなイタリアンレストランの前に到着した。
「ここでいい?」
海斗が聞いたので美月は頷く。
レストランはイタリアの片田舎にでもありそうな可愛らしくて素朴な外観だった。
窓辺のフラワーボックスには青と黄色の花が植えられていた。
「こういう店、美月好きかなと思って」
「うん、こういう雰囲気好きよ」
と美月が嬉しそうな笑顔で言ったので、海斗は微笑んでから店に入って行った。
店のカウンターの奥には大きな石窯があった。
ピザがメインのイタリアンレストランのようで、店内に漂う香ばしい香りが食欲をそそる。
店内のテーブルには赤と白のチェックのテーブルクロスがかけられ、まるでおとぎ話に出てくるような可愛らしい雰囲気
の店だった。
海斗に気付いたスタッフからすぐに声が飛んで来た。
「海斗さん、いらっしゃい! 一番奥へどうぞ」
どうやら海斗はスタッフと顔なじみらしい。
一番奥の席は少し窪んだ場所にあり、他の席からも見えにくいので個室のようなプライベート感に溢れている。
二人が椅子に座ると早速料理が運ばれてきた。既に海斗が注文していてくれたようだ。
「ここのピザ美味いんだ。食べてごらん」
海斗は美月にピザを取り分けてくれた。
美月は早速一口食べてみる。
「おいしい! 生地がパリッパリで香ばしいわ」
薄めのピザ生地が石窯でパリッと焼かれ、上に載っている具材はシンプルだが厳選された素材ばかりでとても美味しかっ
た。
「ここはレコーディングの合間にメンバーとよく来るんだ」
「そうなんだ。レコーディングはいつも南青山なの?」
「そうだね、南青山が多いかな。たまに目黒でやる時もあるけれど」
「レコーディングは順調?」
「うん。喉の調子もいいし今のところ順調だよ」
海斗は穏やかに微笑んだ。
先ほどあれほどの『事件』があったにもかかわらず、あまり動揺していない自分に美月は驚いていた。
もちろん、元夫に声をかけられた時は心臓が止まるかと思った。愛美を見た時も不快感に押し潰されそうだった。
しかし辛い気持ちは一瞬にして消えた。
それは海斗が来てくれたからだ。
海斗が堂々と二人に対処してくれたので、とても心強かったし嬉しかった。
今回の件ではっきりわかった事は、自分は夫に対してもうなんの感情もないという事だった。
つまり愛情も未練も全くない。
離婚した時になんとなくわかっていた事だが、健太と再会してみてそれを確信した。
そして今美月は、目の前にいるいつも笑顔で果てしなく優しい男性と、ピザを頬張りながら楽しい時間を過ごす事に集中した。
海斗は美月に、また時間が出来たら亜矢子さん達と集まろうと言っている。
自分の親友の事を大切に思ってくれている海斗の笑顔を見ているだけで、美月はこの上ない幸福感に包まれていた。
楽しい会話と美味しい食事を終えた二人は、食後のコーヒーを飲みながら見つめ合っていた。
その時海斗がテーブルの上から美月の左手を握ると自分の方へと引き寄せた。
そして親指で美月の薬指を優しく撫でながら、申し訳なさそうに言った。
「指輪を選びに行くのはもうちょっと待ってね。時間ができたら必ず連れて行くからね」
「ううん、無理しないで。いつでも大丈夫だから」
その瞬間また二人の間に笑みがこぼれる。
それから二人は店を出た。
海斗は外に出るとサングラスをかけてから美月と手を繋いだ。
こんなに人が多い場所でも結構バレないのねと美月が言うと、「オーラを消しているからね」と海斗が冗談交じりに答える。
美月はこの後実家に寄ってから帰ると海斗に伝えた。海斗はお母さんと楽しい時間を過ごしておいでと言ってくれた。
そして二人は地下鉄の駅へ降りる階段の前で、名残惜しそうに手を離した。
海斗は美月が階段を降りて行くのを見送った後、スタジオへ戻って行った。
コメント
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海斗さん🥹✨堂々とした態度が素敵✨キュンキュン(*´艸`*)🩷🩷🩷 ランチデートも 「こういう店、美月 好きかなと思って」って🥹✨ 優しい🥹✨ 私そんなこと言われたことない(笑)😝
愛する人、大切にしてくれる人が傍にいてくれると強くなれるね🍀✨ 幸せそうな美月ちゃんと 彼女を優しく見守る海斗さん....💖 レコーディング、そして 指輪選びも楽しみですね✨💍✨
美月ちゃん堂々と強くいられたね❗️それは海斗さんからの愛を一身に受けて満たされてるから💗 親指で左薬指を優しく撫でるなんて…(*ノωノ)色っぽすぎます💖海斗さん…💖