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処分場。それは焼却炉の隣にぽつんと建っており壊れた備品や不要になったものを置く場所になっている。

私はブルーノが壊したワレモノの処分や料理の仕事をしていたときによくきていた。だから迷うことなくここに来れた。


「よいしょっと」


私は建物に入り、破材を空いている場所に置いた。


(先輩とメイド長に報告しないとなあ……)


用事を終えた私は、次のことを考えていた。

事情を説明すれば、二人は「仕方がない」と納得してくれるはず。今の私がブルーノに嫌われていることは把握してるはずだし。


「ブルーノめ……!!」


私はブルーノに恨み節を呟く。

ここはめったに人が入らない場所。一人だから主人の悪態をついても誰も聞いていないと思っていたのにーー。


「やっほー、お疲れ!!」

「えっ!?」


後ろから声をかけられた。

ここで同僚に会うのは珍しい。

振り返ると、笑顔の服飾の先輩がいた。彼女は、大きな布袋を持っていて、それをここに置くために来たようだ。

六度【時戻り】しているが、服飾の先輩が処分場に現れるなんて知らなかった。彼女の下には三人のメイドがいるから、壊れた備品の処分や不用品の廃棄を自らやる必要が無いからだ。


「えーっと」

「半月前からここで働いています、新米のエレノアです」

「あー!」


この【時戻り】では初対面。

私はそれを忘れず、自分から名乗った。


「メイド長が心配してる子だ! 大丈夫? ブルーノさまとスティナさまのいびりが辛くなったら、私のところに来るんだよ!!」

「心遣いありがとうございます」


物覚えが悪い先輩が、私のことを知っていたのは、定期的に行われる報告会で私の名前が出ていたからか。


「あ、ここであったのも縁だし……」

「なんでしょう?」


先輩は自身が持っていた布袋を開く。

中身は宝飾品、衣類、化粧品など主にスティナが利用していそうなものだ。だけど、それらのデザインは彼女が気に入らないものばかり。

ここに持ってきたということは不用品だということは間違いない。


「気に入ったの持って行っていいよ」

「え!? いいんですか」

「うん!」

「これ……、スティナさまが処分したものですか?」

「違うよ。贈り物だね」

「おくり……もの?」


スティナが衝動買いしたものだと思ったが、そうではないらしい。

贈り物と聞き、ぴんときたのはスティナの愛人のグレンだ。彼が彼女に贈ったものだろうか。 いや、違う。スティナの好みを知り尽くしている彼がそんなミスをするはずがない。

グレンじゃなければ誰がーー。


「オリバーさまに取り入りたい貴族からだよ」


布袋の中身をあさり、贈り主を推測している私に、先輩が答えを出す。


「えっ、でもこれは女性用ですが」

「入ったばっかりのエレノアには難しい話なんだけど……」

「長くなっても構いません。お話してくださいませんか?」

「上手く説明できるかなあ……」

「お願いします!!」

「うーん、じゃあ話そうかな」


この話は今しか聞けない。

これがオリバーさまを救う手がかりになるとは思っていない。ここで話を聞くのは、掃除の仕事に就いている私が、服飾の先輩と接点持つためだ。

もったいぶった態度をとっていた服飾の先輩は私の押しに負け、スティナに贈り物をする貴族の話を始めた。


「オリバーさまって、私たちには気さくに話しかけてくれるけど、外では無口で誰とも仲良くしないの」

「えっ」

「先代と付き合いのある貴族とは交流あるんだけど……、まあ、そういうの王族とか公爵とか侯爵とか」

「位が高い人との繋がりが強いと」

「そうそうそれそれ」


オリバーが人見知りだというのは意外だ。

優しく話しかけやすいから、誰とでも打ち解ける社交的な性格だと思っていたのに。


「その人脈にあやかりたいって貴族がオリバーさまに取り入ろうとするのよね」

「なるほど」

「オリバーさま、そういうの好きじゃないから受け取らないのよ。だから、そういう人たちは親しい人間に取り入るわけ」

「スティナさまですか……」

「そゆこと!」


だから女性ものの贈り物なわけか。

スティナはこだわりが強いから、受け取りはするものの、好みではないものだと処分する。それを先輩たちはおこぼれとして貰っているのだ。


「警戒心が強いオリバーさまが繋がりがないエレノアを雇ったのはびっくりだったよ」

「繋がり?」

「私たちの家系、ずーっと昔からソルテラ伯爵家に仕えているんだよ」

「え!?」

「知らなかった?」


それは知らなかった。

繋がりというのは、代々ソルテラ伯爵家に仕えているということ。


「変な人が入っても困るじゃん。だからここってコネがないと入るのすんごく難しいのよ」

「……全く知りませんでした」


ソルテラ伯爵家はメイドと使用人も繋がりが強い。だから警戒心の強いオリバーが気を許しているのか。

だとすれば、繋がりがない私をメイドとして雇ったのは例外中の例外といえるだろう。


「話が長くなっちゃったね。そういうことだから、好きなの持って行って」

「はい」

「長居はしないでよ、私がメイド長に怒られちゃうから」


私にそう言って、服飾の先輩は処分場から出ていった。

一人になった私は、布袋をじっと見つめる。


(これは……、使えるわね)


私は布袋の中から化粧品を取り出し、それらをポケットの中に入れた。そして、自分の仕事へ戻る。








モブメイドは戦死する伯爵の運命を変えたい

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