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白湯
200
#しょしんしゃ🔰
李冬🍒♬@フォロバ💯
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#恋愛
n217(エヌ・ニイナ)
1,753
にここ
25
我が家の前に着いたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい、柚乃、詩乃」
振り返って視線を向けた先に、大股歩きで近づいてくる杉本碧斗の姿が見えた。
彼は同じ町内に住む幼なじみで、私たち双子とは幼稚園児からの付き合いだ。
「ちょうど良かった」
「何?」
訊き返す柚乃に碧斗は紙袋を差し出した。
「これ、家庭教師先のお宅からもらったんだけど、今、俺って一人暮らし状態だからさ。藤川家の女子たちみんなで食べてもらえないかと思って、持って来たんだ」
柚乃は納得顔をする。
「おじさん、転勤したんだったね。それで、おばさんも向こうに行ってるんだっけ?」
「あぁ。今月一杯は向こうにいるんだってさ」
「そうなんだ」
柚乃は相槌を打ちながら、碧斗から紙袋を受け取った。早速中を覗き込んで、目を輝かせる。
「詩乃、見て!」
「何?」
私は首を伸ばし、柚乃の手元に視線を落とした。
紙袋の中に入っていたのは白い長方形の箱だった。その上面には金文字のアルファベットが書かれている。
「これって、鈴川屋のロールケーキだよね!」
「そうだよね!」
私たちはにこにこしながら顔を見合わせた。
その様子を見て、碧斗が不思議な顔をする。
「それって、そんなにもらって嬉しいものなの?」
「もちろん!ここの、テレビでも紹介されたことがあってね。ついこの前、詩乃とお母さんと三人で、話していたばかりだったんだもの。ここのロールケーキ、食べたいね、って」
「へぇ……」
私たちの喜び方は想像以上だったのか、碧斗は戸惑い顔をしていたが、気を取り直したように言う。
「まぁ、それなら良かったよ。じゃ、俺、帰るわ。おばさんによろしく言っといて」
「あ、ちょっと待って!」
柚乃は碧斗を引き留めた。
「ね、碧斗。この後、特に用がないんだったら、ウチに寄っていかない?せっかくだから、このロールケーキ、一緒に食べようよ」
「いや、それはみんなで食べてもらっていいから」
碧斗はさらりと言って背中を向けようとした。
けれど柚乃がその腕を捉える。
「まぁ、そう言わずにさ。家庭教師してるお家から頂いたんだっけ?だったら、食べた感想くらいは伝えた方がいいんじゃない?それとね、実はレポートの書き方で、教えてほしいところがあるのよね」
「レポート?別にいいけど……」
碧斗は迷うような目で柚乃を見返す。
「俺が柚乃に教えられることなんて、何もないんじゃないの?」
「そんなことないよ。たくさんあるって!」
姉と碧斗は、学部は違うが同じ大学の学生だ。いくつか同じ講義を受けているらしいから、それに関係した話だろう。ちなみに私は二人とは別の私立の女子大に通っている。
「ね、いいよね?」
柚乃の強めの念押しに、碧斗の顔に苦笑が浮かぶ。
「まぁ、俺で分かることなら……」
「じゃ、決まり!家に入ろ」
「お、おう」
碧斗は柚乃に引っ張られるようにして、我が家の玄関に足を向けた。
二人の会話は弾んでいた。同じ大学の学生同士だから、共通の話題はたくさんあるだろう。
私だけが仲間外れにされているわけではないのだが、特にここ数年は、三人で一緒にいる時に、むずむずとした居心地の悪さを感じることが多くなっていた。
けれど、それも仕方がないと思っている。なぜなら、柚乃は明るくてはきはきした性格だから、碧斗だって、私と話すよりも姉と話した方が楽しいに決まっている。そもそも、姉と一緒にいて楽しくない人などいるかどうか疑問だ。
それに、と私は碧斗の背中を眺める。
私に対する時と、柚乃に対する時の彼の態度には違いがある。私に対しては、遠慮というか気遣いというか、ある種の壁のようなものを感じることがしばしばだったが、柚乃に対しては、素直に楽しそうで嬉しそうな上、顔つきだって違うように見えるのだ。
だから、そういうことかと私は密かに思っていた。碧斗は柚乃に対して恋愛感情を持っているに違いない、と。
「詩乃?どうしたの?」
私を呼ぶ柚乃の声に我に返った。
碧斗と柚乃の関係を考えることに集中しすぎて、門を入ってすぐの所で足が止まっていたようだ。
姉は玄関のドアを開けて私を待っている。
「なんでもない!」
私は笑顔を作って姉の元へと急いだ。
私が玄関に入った後、柚乃はドアを閉めて手早く靴を脱ぐ。
「先に行ってる。詩乃の荷物もいったんリビングに持って行くね」
「ありがとう」
礼を言う私ににこりと笑い、柚乃はすたすたと廊下の奥へと向かって行った。
私は姉の背中を見送ってから、まだそこに立ったままだった碧斗を促す。
「碧斗、どうぞ、上がって?」
「詩乃が先に上がりなよ」
「でも、碧斗、お客さんだから……」
「俺にそういう気遣いは無用だよ。ほら、先に行きな」
「そ、そう?それじゃあ……」
靴を脱ごうと軽く体をかがめた時だった。いつの間に外れていたのか、バッグに着けていたキーホルダーが落ちた。
「あ……」
拾おうとして、私は慌ててしゃがみこんだ。
碧斗が膝を折ってそれに手を伸ばしたのは、私とほぼ同時だった。そのため、私の頭と碧斗の頭がごつんと勢いよくぶつかり合ってしまう。
「いたっ!」
「いってぇ!」
二人して声を上げ、顔を見合わせた。
碧斗は苦笑しながら、私に手のひらを見せる。
「ほら、これ」
「あ、ありがとう」
受け取ったキーホルダーをワンピースのポケットに仕舞いこみ、私は碧斗の額に触れる。
「頭、大丈夫だった?」
それは全く無意識の動作だった。だから、碧斗が瞬時に表情を固まらせ、私の手をぱしっと払いのけた時はびっくりした。今まで誰かに手を振り払われたことなどない。私は急いで手を引っ込めた。
彼ははっとした顔をして、慌てて目を逸らす。
「だ、大丈夫だから」
「急に触ったりしてごめんね」
今の場面を柚乃に見られて誤解されたら困るとでも思ったのかもしれない。
そのことに思い至らなかった自分の軽率さを反省して、私は碧斗に謝った。
彼は焦りを帯びた声で弁解する。
「い、今のは、別に深い意味は全然なくて、急に触られてびっくりしただけだからな。詩乃に触られたくなかったとか、そういうことじゃないから……」
「大丈夫だよ。全然気にしていないから。それに分かってるし」
「分かってるって、何が?」
彼は眉をひそめて聞き返した。
けれどそれには答えず、私はにこりと彼に笑いかける。
「柚乃のレポートを見てあげるんだったよね?二人の勉強の邪魔になるといけないから、私、いったん、部屋に行くね」
「お、おいっ、詩乃っ?」
碧斗の慌て声を背中で聞きながら、私は階段に向かって足を踏み出した。
自分の部屋に入り、ベッドに腰を下ろしながら、碧斗の慌てぶりを思い返す。あの様子だと、私が部屋に引っ込んだのは自分のせいだと思っていそうだ。
けれど、もちろんそんなことはない。彼のあの反応の理由は理解しているし、彼に言った通り気にしてもいない。それなのに、誤解させてしまうような立ち去り方をしてしまって悪かったかな、と反省する。
それに、だ。
勉強の邪魔をしないようにと思ったのは本当だが、実はその裏に別の意図もあった。柚乃と二人きりになれる時間を、少しだけでも碧斗に作ってあげたいと思ったのだ。
私はちらりと置時計を見て、三十分ほど過ぎた頃に一度リビングに顔を出そうと考える。柚乃が運んでくれた荷物を取りに行きたいし、飲み物も欲しい。そして、碧斗にいつも通りの笑顔を見せることで、彼の誤解を早めに解いて安心させてあげる必要もある。
「とりあえず、傷の手当てをしておこうかな」
私はスカートの裾を軽く持ち上げて、膝小僧の傷にそっと触れた。
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