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朝。
目が覚めた時、イギリスはしばらく動かなかった。
「……」
天井を見つめる。
何も考えない。
考えたくない。
——けれど。
自然と、視線が横へ向く。
そこにいるのは、アメリカ。
すぐ近く。
手を伸ばせば触れられる距離。
「……」
無意識に、少しだけ安心する。
その瞬間。
(……なぜ)
自分で気づいて、わずかに息が詰まる。
——外に出られない状況は、変わっていない。
——何も解決していない。
それなのに。
「起きた?」
アメリカが目を開ける。
「……はい」
自然に返事をしてしまう。
「おはよ、親父」
「……おはようございます」
いつものやり取り。
——まるで普通の朝のように。
「今日さ」
「……」
「何する?」
「……」
一瞬、答えに詰まる。
何も、できない。
何も、ない。
はずなのに。
「……あなたは、何をするのですか」
逆に聞いてしまう。
「俺?」
少し考える素振りをして。
「別にー」
軽く笑う。
「親父といる」
「……」
その答えに。
否定の言葉が、出てこない。
「それでいいだろ?」
「……」
頷くことも、否定することもできない。
「ほら」
手を差し出される。
「起きよ」
「……」
少しだけ迷って。
——結局、取ってしまう。
「いいじゃん」
満足そうに笑う。
「ちゃんとできてる」
「……」
その言葉に、もう違和感が薄れている。
それが、怖いのに。
止められない。
⸻
昼。
テーブルの上には、食事。
いつものように用意されている。
「ほら」
「……」
座る。
言われる前に。
「お、いいね」
嬉しそうな声。
「ちゃんと分かってきたじゃん」
「……」
何も言わない。
ただ、食べる。
「なあ」
「……なんですか」
「もう外いい?」
「……」
一瞬、手が止まる。
でも。
「……」
言葉が出てこない。
代わりに——
ほんのわずか、首を横に振る。
自分でも気づかないくらい、小さく。
「……そっか」
アメリカが、静かに笑う。
「ならいいや」
「……」
否定しなかった。
——できなかった。
⸻
午後。
ソファに並んで座る。
特に会話はない。
ただ、隣にいる。
「……」
(……静かだ)
でも。
以前のような息苦しさは、少しだけ薄れている。
代わりに。
——何もない安心感。
(……違う)
そう思うのに。
体は動かない。
「なあ、親父」
「……」
「こっち来いよ」
軽く腕を引かれる。
「……」
抵抗しない。
そのまま、距離が近くなる。
「そうそう」
満足そうな声。
「それでいい」
「……」
言葉が出ない。
でも。
拒絶もしない。
「なあ」
「……」
「まだフランスのこと考えてる?」
その問いに。
胸が、少しだけざわつく。
「……」
けれど。
「……分かりません」
正直に答える。
「……そっか」
アメリカは、少しだけ目を細めた。
「いいよ」
「……」
「分かんなくなるくらいでちょうどいい」
「……」
その言葉が、妙にしっくりくる。
「なあ」
「……」
「今さ」
顔を覗き込まれる。
「誰のこと考えてる?」
「……」
答えは、すぐに出る。
「……あなたです」
ぽつりと。
自然に。
——考えるより先に、出た。
「……」
一瞬、アメリカが黙る。
そして。
「……いいね」
ゆっくり笑う。
「それ」
「……」
その反応に、少しだけ胸が軽くなる。
——褒められたような感覚。
(……なぜ)
こんなことで。
「ほら」
また頭を撫でられる。
「ちゃんとできてる」
「……」
その言葉が。
少しだけ、嬉しいと感じてしまう。
「なあ」
「……」
「ここ、嫌?」
「……」
部屋を見渡す。
閉じられた空間。
外はない。
何もない。
——はずなのに。
「……嫌では、ありません」
その言葉は。
もう、嘘ではなかった。
「……そっか」
アメリカが小さく笑う。
「じゃあいいや」
「……」
「もう大丈夫だな」
ぽつりと呟く。
「……何がですか」
「親父」
目を見て言う。
「ちゃんとここにいる」
「……」
「もうどっか行こうとしてない」
「……」
否定できない。
——もう、思っていない。
強くは。
「なあ」
「……」
「俺がいればいい?」
その問いに。
ほんの一瞬だけ、迷いが生まれる。
でも。
それはすぐに消える。
「……はい」
小さく、頷く。
「……」
その瞬間。
アメリカは、はっきりと笑った。
「よかった」
心から安心したように。
「これでやっと」
「……」
「全部、俺になった」
「……」
その言葉が、静かに落ちる。
否定しなければならないのに。
できない。
もう。
できない。
「なあ、親父」
「……」
「ここにいろよ」
「……はい」
自然に答える。
「ずっと」
「……はい」
その返事に。
アメリカは満足そうに頷いた。
——もう、逃げる理由も。
逃げる力も、残っていない。
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莉奈
自由な人間