ある日、食料が底をつきかけていたので、私は家にある着物を持って市に行くことにした。私の家は、村の中心部からかなり離れた場所にあり、道の途中には大きな田んぼなどがみられる。市に行った際、帰りにその田んぼを眺めながら歩くのが私の楽しみになっていた。季節によって変わっていく田んぼが、とても綺麗だったからだ。今日もその田んぼを眺めながら市に向かおうと思っていると、突然雨が降ってきた。そこまで大雨ではなかったが、私は売物になる着物が濡れてはいけないと思い、私は走って市へ向かった。
市での用事も済み、帰る時には雨は止み、茜色に染まっていた。田んぼは綺麗な緑色で、奥の方は夕日で燃えているようだった。あまりの美しさに見惚れていると、「ふぎゃっ」という声と共に、何かが足に当たった感覚がした。驚いて下を見ると、そこには私より2つから3つ下くらいの少女が倒れていた。
「…君、大丈夫…?」
「ゔゔぅ…」
返事が無い。そのうえ、唸り声を上げて、苦しそうに顔をしかめている。あまり私と親しくなるきっかけをつくるのは良くないが、今は人命救助が優先だと思い、私は少女を自分の家まで運んだ。
家につくと、真先に少女の様子を確認した。体は冷えきっていた。きっと、雨の中でずっと倒れていたのだろう。とりあえず、食べやすいお粥かなにか食べさせた方が良いだろう。身動きはとれそうにないので、れんげですくい、火傷しないように少し冷ましてから少女の口元に運ぶと、少女は大きな口を開けてそれを頬張った。相当お腹が空いていたのだろう。私は、少女のお腹がいっぱいになるまで、彼女の口元にお粥を運んだ。しばらくすると、少女はお腹がいっぱいになったのか、先程とは違い、穏やかな表情で眠っていた。
私は、その穏やかな表情を見たことがある気がした…。