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迎賓棟から離れて私が行き着いた先は王宮の図書館だった。最近本を読む機会が多かったせいか、なんとなく足が向いた。ここなら静かだし、誰にも邪魔されずに考え事に浸ることもできる。


「おや、シルヴィア嬢ではないですか」


「……こんにちは、フィネルさん」


そうだ……図書館には司書のフィネルがいたんだった。読書をしに来たと言えば無闇に話しかけてくることはないだろう。気にするほどでもないか。


「クレハ様に続いてシルヴィア嬢まで本に興味を持って頂けたようで嬉しいことです。やはり蔵書の見直しをしたのは正解でした」


「公女様は図書館によく来るの?」


「ええ。この前も小説を何冊か借りていかれましたよ」


また公女か……レオン様が読書好きだから合わせているのかもしれないな。すっかり王宮に馴染んでいるようで癪に障る。


フィネルが仕事をしている場所から死角になるように1番奥の席に腰を下ろした。本棚から適当に選んだ数冊の本を机の上に置き、その中の1冊を広げる。これなら傍目には『読書に集中する少女』にしか見えないだろう。フィネルがいつ様子を見にくるかも分からない。本を読みに来たと言った手前、ポーズだけでも取っておかないと怪しまれてしまう。そうやって偽装を施し、読む気の無い本へ目線だけを向けた。

頭の中ではすでに先ほど迎賓棟であった出来事を反芻している。これまでのことを軽く整理して、今後どうすべきかを考えよう。









スコット・ブロウの遺体を調べている最中に、ユリウスがある物を見つけた。それは事件の真相を明らかにする重要な手がかりになると期待されているという。釣り堀周辺の調査を行なっている三番隊の隊員から得た情報だ。

ユリウスが見つけたのは、花びらが付着した紙の切れ端。私にはその切れ端の正体がすぐに分かった。公女が作った押し花のメッセージカード。あの日……私が釣り堀で破って処分したものだ。


どこまで私の邪魔をすれば気が済むのか。釣り堀の管理人……スコット・ブロウ。あの飲んだくれ。あいつのせいで計画が狂ってしまった。

自分に全く落ち度が無いとは言わない。見回りの兵士にだけ気をつけていれば問題ないとしていたのは浅慮だった。けれどそれにしたって、あんな深夜に生簀をうろついている人間がいるだなんて普通は思わないじゃないか。


……消すしかなかった。


あの時、あの場所で……私の姿を見てしまったスコットが悪い。目的を達成するために多少の犠牲は付き物。仕方のないことだ。

釣り堀にいるところを見られただけならまだいい。いくらでも言い逃れができた。でも、公女が作ったカードを破棄している所を見られたのが駄目だった。これまで公女との関わりを避け、接点を作らないよう努めていたのが水の泡になってしまうと狼狽えた。

酔っ払いの証言などあてにはならないし、まともに取り合うことはないかもしれない。スコットも翌日には忘れている可能性すらあったが、不安要素をそのままにしてはおけなかったのだ。


スコットの死体は生簀に投棄した。すぐに発見されるのは想定済みだった。事故として処理されるのが1番だけど、そうならなくともニュアージュの魔法使いの仕業だと判断される。どのみち私と関連付けることは不可能。そう考えていた。それなのに……

カードの切れ端は強風で飛ばされて全て湖に沈んだと思っていた。まさか死に際にスコットが手の中に握りしめていただなんて。


クライヴ隊長が公女の世話をしている侍女数名に事情聴取を行っているという情報も入ってきている。隊長も生簀で見つかった紙の切れ端が公女が作ったカードだと気が付いたのだろう。そうなると、私のところまで捜査の手が及ぶのも時間の問題だ。

あのカードは私と事件を結び付ける唯一の物証。切れ端が生簀から発見されたことで、持っているはずのカードを所持していない自分には疑いの目が向けられてしまう。いくら公女が作った物を手元に置いておきたくなかったとはいえ、早まった事をしてしまったな。


公女はカードを使用人を含めた身近な者たちを対象に配っているとレオン様は言っていた。私が持っていたカードは公女から直接貰ったものではない。レオン様が余分に所持しておられた物を分けて下さったのだ。このことから、公女はかなりの枚数のカードを作成していると推測された。

公女の部屋に行けば予備のカードなり見つかると思ったのだけど……ロザリーのせいで部屋に入ることが叶わなかった。代わりのカードを入手するのは失敗に終わってしまう。


「まぁ、あれだけじゃどうにもならないだろうけどね……」


カードの切れ端のみで私をスコット殺害の犯人として立証するのは難しいだろう。私とスコットの間には何の繋がりもない。もしカードを理由に追及されたとしても、カードはどこかに落として無くしていたのだと、生簀で見つかった理由は分からないと言い張れば良いのだ。決定的な証拠には成り得ない。大丈夫だ。


「はぁ……」


大きな溜息が溢れた。せっかく苦労して場を整えたというのに、ニュアージュの魔法使いがとんだ期待外れだったせいで計画は失敗してしまったのだ。

スコットの件で確実に私への監視の目は厳しくなる。公女の警備も更に強化されるだろう。当分の間は大人しくしておかなければならない。


きっとまた機会は巡ってくる。焦りは禁物だ。必ずやり遂げてみせる。他ならぬレオン様のため……私は諦めない。


公女を……クレハ・ジェムラートを主の婚約者の座から引きずり降ろすまで――

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

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