テラーノベル
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茜と焔垂は美沙と同じ席に腰を下ろす。
先ほどまでの賑やかな空気とは打って変わり、二人は慎重な面持ちで美沙の話に耳を傾けた。
「実は私、音楽関係の仕事をしていてね」
美沙はそう前置きすると、二人の顔を見渡した。
「TAMAYAってシンガー
ソングライターのマネージャーをやってるの」
「た、た、TAMAYA!?」
突然、茜が素っ頓狂な声を上げる。
「TAMAYAって、あのこころクリーニングの!?」
「あ、知ってる?」
「知ってるもなにも大ファンです!
さっきもカラオケで歌ってきたんですよ!」
一気に興奮し始めた茜を横目に、美月は首を傾げた。
「そのTAMAYAって、美沙から聞いて
初めて名前聞いたんだけど、そんなに有名なの?」
「そりゃそうだよ。LIME MUSICでも
トップ10に入る人気っぷりなんだから」
「そんなに人気なの!?」
驚く美月に、美沙は静かに頷く。
「若い世代からの人気が絶大なんです」
「知らなかった・・・」
焔垂は、話が完全に脱線しかけているのを感じたのか、二人の会話に割って入った。
「でも、さっき言ってた怪奇な事って言うのは?」
その言葉で、美沙の表情が再び曇る。
「その事なんだけどね」
美沙は声を少し落とした。
「最近、摩耶さんの周りで
不可解な事が立て続けに起こってるの」
「摩耶さん?」
焔垂は聞いたことのない名前に首を傾げる。
「ああ、摩耶って言うのはTAMAYAの本名なの
種松摩耶、だからTAMAYA」
「ああ、そうだったんですね」
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
焔垂は納得したように手を叩くが、内容から脱線しようとしてることに気づき、軌道修正する。
「で、さっきの不可解な事って例えばどんな事が?」
「例えば、この前レコーディングの時に──」
美沙は、数日前の出来事を語り始めた。
◇ ◇ ◇
数日前。都内某所のレコーディングスタジオ。
スタジオでは、TAMAYAこと種松摩耶が、新曲『定義の無い言葉の刃物』のレコーディングを行っていた。
収録を終えた摩耶がブースから出てくると、プロデューサーの小諸哲哉が満足そうに声をかける。
「いいね〜♬タマちゃ〜ん♬今日も絶好調だね〜♬」
「そうですか?よかったぁ〜♬」
緊張から解放された摩耶の顔に、安堵の笑みが浮かぶ。
「はい摩耶さん、お疲れ様!」
美沙がペットボトルの水を差し出す。
「ああ、ありがとう美沙さん」
摩耶はそれを受け取り、一口水を飲んだ。
「なら、とりあえず聞いてみようか」
哲哉はそう言って、先ほど収録したばかりの音源を再生する。
次の瞬間──「ちょっと!」
摩耶の表情が一変した。
「なんで『こっち』流すのよ!」
声には明らかな苛立ちが滲んでいた。
「やめてよ!」
摩耶は血相を変え、すぐさま停止ボタンを押す。
突然の行動に、哲哉は目を丸くした。
「え?こっち?いや、何を言ってるんだい?」
摩耶は戸惑ったように哲哉を見つめる。
「これはタマちゃんがたった今
レコーディングした歌じゃないか?」
「え?」
「ほら、これだよ」
哲哉がもう一度、再生ボタンを押す。
今度は確かに、ブースのスピーカーからは、摩耶自身の歌声が流れ始めた。
摩耶はその場で凍りつく。
先ほど彼女には一体何が聞こえていたのか。
摩耶は一瞬、気まずそうに視線を泳がせた。
「あ、そ、そっか・・・」
「摩耶さん?どうかしたの?」
美沙が心配そうに尋ねると、哲哉も摩耶の顔を覗き込む。
「最近働きすぎて疲れてるんじゃない?」
そして、スタジオの奥にある仮眠室を指した。
「ちょっと仮眠室で休んできなよ
あとは僕がやっとくからさ」
「そ、そうね・・・休ませてもらおうかな」
摩耶は力なく頷くと、疲れた様子でブースを後にした。
「大丈夫か?タマちゃん・・・」
その背中を心配そうに見送りながら、哲哉が呟く。
美沙もまた、摩耶の様子に不安を覚えていた。
「ちょっとスケジュール
詰め込みすぎですかね
ちょっと調整してみますね」
「頼んだよ?」
哲哉は真剣な表情で美沙を見る。
「タマちゃんみたいに才能ある歌手
そうそう居ないからね・・・」
その言葉には、プロデューサーとしての期待だけではなく、摩耶を心から案じるいちファンとしての気持ちも込められていた。
「彼女ままだまだ上に行けるんだから
こんな所で潰れてほしく無い」
「はい・・・」
美沙は静かに頷いた。
コメント
1件
おお、今回の話、めっちゃ不気味で引き込まれたわ……!摩耶さんにだけ「こっち」の音が聞こえてるって、何が起きてるんだろう。茜のTAMAYAファン発言も可愛かったし、焔垂が軌道修正する感じも好き。次が気になる展開だ🔥