目が覚めたのは、普段より少しだけ早い時間だった。キッチンの方から、小さな物音が聞こえる。
(るか……?)
リビングを覗くと、薄い部屋着のまま、
るかが冷蔵庫を開けて中を覗いていた。
俺に気づいても、振り返りはしない。
でも逃げるような空気でもない。
「……起きてたんだ」
「うん」
小さくうなずいて、また冷蔵庫のドアを閉める。
「昨日の残り、まだある?」
「あるよ。照り焼きも、味噌汁も」
「……味噌汁、あっためて」
そう言って、るかはダイニングチェアに座った。
「命令形かよ」と内心思いつつも、
不思議と悪い気はしなかった。
⸻
温めた味噌汁を出すと、るかは無言で箸を手に取った。
それから、ほんの少しだけ言葉が続く。
「……キャベツ、しんなりしてたけど、わりといけた」
「うまく言えよ」
「褒めたのに」
口調はキツめだけど、その語尾には角がなかった。
⸻
食卓に、今日もトマトの皿はない。
それだけで、ちょっと“理解が進んだ”気がした。
⸻
「今日、何時?」
「んー……あと20分で出る」
「ふーん」
るかはスマホを開いて、時間を確認して、
それからポツンとつぶやいた。
「……一緒に出ても、別にいいけど」
思わず動きが止まる。
視線を向けると、るかはこっちを見ないまま、味噌汁を飲んでいる。
「……そっか。じゃ、準備する」
「……ん」
それだけ。
でもそれだけで、なんだか今日一日は、
ちょっとマシになりそうだった。
⸻
“自然なやりとり”って、
言葉の量じゃなくて、呼吸のリズムなんだと思う。
この朝がそれを教えてくれた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!