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#スリースター
新月 つむり🐌
66
りんごあめ
りすぐみ
97
第8話 番号のない回収員
保管庫の夜は、音が少ない。
棚が並ぶ。
箱が眠る。
記録札が静かに灯る。
時代を越えて拾われた物たちは、ここで息をひそめていた。
江戸の筆。
未来の鍵。
昭和の切符。
名前の消えた湯札。
持ち主のわからない紙片。
返せなかった木の玩具。
それぞれに札がついている。
時代。
場所。
担当番号。
回収理由。
返却可否。
記録があるから、物は迷子のままではいられない。
二十三は、そう思っていた。
その夜、二十三は保管庫の奥で古い記録箱を開けていた。
灰色の長い上着の袖をまくり、茶色の腰紐を少し締め直す。
古い札は壊れやすい。
急ぐ仕事ではない。
むしろ、急いではいけない仕事だった。
箱の中には、薄い記録札が重なっていた。
表面はくすみ、角は丸くなっている。
古い時代整理局の記録。
まだ部署名も今とは違っていたころのもの。
二十三は一枚ずつ読み取った。
回収完了。
担当、四十一。
返却不可。
担当、九。
目撃者処理済。
担当、七十九。
普通の記録だった。
古いだけで、異常はない。
だが、十七枚目で手が止まった。
担当欄が、抜けていた。
いや。
抜けているのではない。
何かが書かれていた跡はある。
けれど番号がない。
文字でもない。
削られたわけでもない。
最初から、そこだけ名前を受けつけなかったように、薄く沈んでいた。
二十三は目を細めた。
記録内容。
時代、江戸後期。
場所、山間の宿場町。
対象、未来方位具。
回収、完了。
目撃者、なし。
担当。
そこだけが、ない。
二十三は札を裏返した。
裏面には追記があった。
同行者、百七。
補助、十八。
指示者、番号なし。
二十三の指が止まった。
百七。
十八。
どちらも知っている。
だが、番号なし。
そんな回収員はいない。
時代整理局では、任務中に本名を使わない。
全員が番号で呼ばれる。
新人も。
古参も。
部署長も。
記憶処理担当も。
保管庫担当も。
番号がない者は、回収員ではない。
二十三は記録札を箱へ戻さなかった。
机の上に置き、読み取り具を近づける。
小さな音が鳴る。
登録照会。
該当なし。
二十三は眉を動かした。
該当なし。
それなら、記録に残るはずがない。
だが、札には確かに書かれている。
指示者、番号なし。
二十三は、保管庫の連絡具を開いた。
「十八。百七。確認したい記録がある」
返事はすぐには来なかった。
保管庫の棚が、静かに動いた。
奥の箱がひとつ、少しだけ揺れた。
二十三はその音を聞きながら、記録札を見つめていた。
胸の奥が、妙にざわつく。
番号なし。
知らないはずなのに。
聞いたことがある気がした。
翌朝。
朝ではない。
ただ、局内の灯りが少し明るくなる時間。
三百二十は報告室で資料を整理していた。
そこへ十八が来た。
茶色の外套がいつもより少し重く見える。
腰の記録筒も、今日は鳴らなかった。
「三百二十」
「はい」
「保管庫へ来い」
「任務ですか」
「調査だ」
三百二十は立ち上がった。
「何の調査ですか」
十八は少し黙った。
「番号のない回収員」
三百二十はまばたきをした。
「番号のない?」
「そうだ」
「回収員なのにですか」
「だから調査する」
十八は歩き出した。
三百二十は回収鞄を肩にかけ、後を追った。
保管庫には、百七もいた。
深い茶色の上着。
灰色の手袋。
まっすぐな背中。
その百七が、古い記録札をじっと見ている。
二十三は机の横に立っていた。
「見つけたのは昨夜」
十八が札を手に取る。
百七は低く言った。
「この任務は覚えている」
三百二十は驚いた。
「覚えているんですか」
百七はうなずいた。
「山間の宿場町。未来方位具。宿の主人が拾う前に回収した」
「では、この番号なしという人も」
百七の目が、ほんの少しだけ揺れた。
「覚えている気がする」
保管庫の空気が静かに沈んだ。
十八も札を見つめている。
「俺もだ」
「十八も?」
三百二十が聞いた。
十八はうなずいた。
「この任務には同行した。百七もいた。もう一人、いた気がする」
「誰ですか」
「思い出せない」
「姿は」
「茶色の外套」
三百二十は十八を見た。
十八も茶色の外套を着ている。
十八は小さく首を振った。
「俺ではない」
百七が言った。
「歩き方が違った」
「覚えているんですか」
「そこだけは」
二十三が記録札を持ち上げた。
「登録には該当なし。局内番号にも該当なし。古い名簿にもない」
三百二十は記録を見た。
番号なし。
だが、百七も十八も覚えている気がする。
おかしい。
記録にないのに、記憶だけが残っている。
五十二なら、記憶処理の話をするだろう。
二百九十なら、忘れ物センターの未登録品みたいだと言うかもしれない。
三百二十はそんなことを考えた。
二十三が別の札を出した。
「同じ表記が、他にもある」
机に札が並べられる。
明治港町。
未来灯。
担当、五十二。
補助、番号なし。
昭和駅前。
時代違いの切符束。
担当、十八。
目撃者処理、番号なし。
未来市場。
未分類部品。
担当、二百九十。
初動連絡、番号なし。
温泉街。
湯札混入。
周辺捜索記録。
先行確認、番号なし。
三百二十の胸が冷えた。
温泉街。
それは最近の案件だ。
自分もいた。
磁馬の未来温泉認証札を回収した日。
「温泉街にもいたんですか」
三百二十が言った。
十八は札を見た。
「先行確認」
二十三が読み上げる。
「磁馬確認前、異物反応を記録。番号なし」
二百九十が最初に磁馬を確認したはずだった。
だが、その前に誰かが異物反応を見ている。
百七が低く言った。
「調査範囲を広げる」
十八がうなずく。
「関係者を集める」
記憶処理担当室から五十二が来た。
モカ色の作業上着の二百九十も、未来の忘れ物センターから呼ばれた。
五十二は記録札を見て、目を細めた。
「この表記、見覚えがあります」
「どこで」
十八が聞く。
「記憶処理の古い手順書。担当欄に番号がない例が一件だけありました」
二百九十も札をのぞきこむ。
「忘れ物センターにもあるよ。返却者不明の記録。持ち主に戻ってるのに、誰が返したかわからないやつ」
三百二十は思わず言った。
「そんなことがあるんですか」
二百九十は肩をすくめた。
「忘れ物は、たまに勝手に帰ったみたいな顔をするから」
百七が言った。
「勝手には帰らない」
「うん。だから誰かがいる」
五十二は静かに言った。
「でも、その誰かの記憶がはっきり残らない」
保管庫の奥で、棚がかすかに鳴った。
三百二十は記録札を見ていた。
番号なし。
いないはずの人。
でも、誰もが少し知っている気がする人。
「記憶処理ですか」
三百二十が聞いた。
五十二は首を横に振った。
「処理の跡ではないと思います。消されている感じではない」
「では」
「最初から、記憶の表側に出にくい」
三百二十には難しかった。
五十二は言葉を選ぶように続けた。
「例えば、宿の廊下ですれ違った人を覚えていないことがあります。でも、誰かがいた感じだけは残る。それに近い」
二百九十が言った。
「物を返してくれたけど、顔は思い出せない人」
百七が記録札に触れた。
「だが、判断は残っている」
「判断?」
三百二十が聞く。
百七はうなずいた。
「この記録の現場判断は、かなり正確だ。誰かが見て、待って、最小限に動いている」
十八が机の上の札を順に見た。
「番号なしは、古い記録だけではない。最近の記録にもある」
「つまり、今もいる?」
二百九十が言った。
五十二が答える。
「いる、という言い方が合うかはわからない」
三百二十は保管庫の奥を見た。
棚の影が深い。
そこに誰かが立っているような気がした。
もちろん、誰もいない。
二十三が別の箱を開けた。
「最古の記録を見つけた」
皆の視線が集まる。
二十三は、一枚の古い紙を取り出した。
記録札ではない。
紙だ。
手で書かれた古い記録。
時代整理局という名ができる前。
まだ「回収屋」とだけ呼ばれていたころの記録。
そこに、短く書かれていた。
番号を持たぬ者、最初の道をひらく。
三百二十は息をのんだ。
「最初の道」
十八が低く言った。
「時代整理局ができる前からいたのか」
百七は紙から目を離さない。
「回収屋の始まりに関わっている可能性がある」
二百九十が小さく言った。
「じゃあ、すごく古い人?」
五十二は首をかしげた。
「人、なのか」
その言葉で、皆が黙った。
人ではない。
そう考えると怖かった。
でも、違う気もした。
記録の中の番号なしは、あまりにも回収員らしい。
待つ。
見る。
返す。
消しすぎない。
拾いすぎない。
誰かの時間を尊重する。
三百二十は思った。
これほど回収員らしいのに、番号がない。
十八が紙を机に置いた。
「調査は現場へ行く」
「どこへ」
三百二十が聞いた。
二十三が古い記録を指した。
「最古記録の場所。明治より前の山間の宿場町」
百七がうなずいた。
「未来方位具の任務と同じ場所だ」
十八は決めた。
「百七、三百二十、二十三。同行。五十二は記憶反応を確認。二百九十は記録照合」
二百九十が腕章を直した。
「了解」
三百二十は回収鞄を握った。
胸が鳴っている。
怖いのか。
楽しみなのか。
わからない。
扉が開いた。
山間の宿場町は、雨上がりだった。
道は湿っている。
草の匂いが濃い。
宿の軒から水が落ちる。
遠くで馬の鈴が鳴っている。
三百二十は深く息を吸った。
この時代は静かだった。
未来市場や温泉街のようなにぎやかさはない。
ひとつひとつの音が、山に吸いこまれていく。
百七は道の端に立った。
「ここだ」
十八が記録筒を開く。
二十三は古い札を照合する。
五十二は目を閉じ、周囲の記憶の残り香を探るように立っている。
二百九十は読み取り具を動かす。
「異物反応はありません」
二百九十が言った。
「記録だけが残っています」
五十二がゆっくり目を開けた。
「記憶の跡があります」
「誰の」
十八が聞く。
「この町の人々ではありません。回収員側」
三百二十は周囲を見た。
雨上がりの宿場町。
旅人。
荷物。
宿。
道。
ここで、未来方位具が回収された。
そして、番号なしが指示を出した。
百七がゆっくり歩き出す。
「当時、方位具は宿の裏の石垣にあった」
三百二十たちは後を追った。
宿の裏は狭かった。
石垣。
濡れた草。
古い桶。
水たまり。
百七は石垣の前で止まった。
「ここにあった」
「誰かが拾う前に回収したんですね」
三百二十が言う。
百七はうなずいた。
「そうだ」
「その時、番号なしは?」
百七は目を閉じた。
長い沈黙。
「声がした」
「声」
「拾うな、と」
三百二十は息を止めた。
百七は続けた。
「俺は拾おうとした。方位具は見えていた。だが声がした。拾うな。宿の主人が見ている、と」
十八が記録を見た。
「確かに、目撃者なしとある」
「見られる前に止められた」
百七は石垣を見た。
「その声の主を、俺は見たはずだ」
「姿は」
「茶色の外套」
三百二十は周囲を見た。
雨上がりの空気が揺れた。
石垣のそば。
誰もいないはずの場所に、人影があるような気がした。
茶色の外套。
顔は見えない。
立っているのか、記憶の中に浮かんでいるのかもわからない。
三百二十はまばたきをした。
人影はない。
五十二が低く言った。
「今、誰かを感じましたか」
三百二十はうなずいた。
「はい」
二百九十も手を上げた。
「私も」
十八も、百七も、二十三も黙っていた。
感じていたのだろう。
五十二は記憶具を出さなかった。
ただ、空気に手をかざした。
「記憶処理ではない。これは、記憶の重なりです」
「重なり?」
三百二十が聞く。
五十二は石垣を見た。
「たくさんの回収員が、同じようにこの人を少しだけ覚えている。はっきりした顔ではなく、判断の声として。待て、拾うな、見ろ、返せ。そういう言葉だけが残っている」
二十三が古い紙を開いた。
「番号を持たぬ者、最初の道をひらく」
十八はその文を見た。
「最初の回収屋、か」
百七が静かに言った。
「番号制度の前にいた者」
二百九十が続ける。
「だから番号がない?」
「それだけなら登録名が残る」
二十三が言った。
「だが、名前もない」
三百二十は考えた。
名前もない。
番号もない。
でも、判断は残る。
「もしかして」
三百二十は言った。
全員が見る。
「その人は、自分の名前を残さなかったんじゃないでしょうか」
十八の目が少し動いた。
「続けろ」
三百二十は言葉を探した。
「回収員は、時代に残ってはいけない物を拾います。でも、自分が目立ちすぎてもいけない。名前が残れば、誰かが探すかもしれない。だから、番号制度ができる前、その人は自分の名前を記録から外した」
二十三が紙を見た。
「意図的に」
「はい」
三百二十は石垣を見た。
「でも、仕事だけは残った。判断とか、内規とか、やり方とか」
百七が低く言った。
「回収員の基礎」
三百二十はうなずいた。
番号のない回収員。
それは、消された人ではない。
消えたかった人でもない。
自分より仕事を残した人。
そんな気がした。
その時、宿の表から声がした。
「変なもんが落ちてるぞ」
三百二十たちは顔を上げた。
任務の気配。
百七がすぐに動く。
十八が記録筒を閉じる。
二百九十が読み取り具を見る。
「異物反応あり」
「種類は」
「未来方位具に似ています。小型」
二十三が目を細める。
「同じ場所に、また」
五十二が言った。
「人が集まる前に」
三百二十は走り出しそうになった。
しかし、百七の声が止めた。
「待て」
三百二十は止まった。
その一言が、石垣のあたりで二重に聞こえた気がした。
百七の声。
そして、もう一人の声。
拾うな。
見ろ。
三百二十は息を整えた。
宿の表では、旅人が道端を指していた。
地面に小さな丸い道具がある。
方位具。
表面に細い線が浮かび、北でも南でもない方向を示している。
宿の主人が近づく。
旅人がしゃがむ。
子どもが走ってくる。
人が集まり始める。
すぐ拾えば早い。
でも、見られる。
奪ったように見える。
記憶処理が増える。
三百二十は周囲を見た。
荷車。
水たまり。
宿の看板。
近くに転がる木の蓋。
風。
旅人の足。
「三百二十」
十八が言った。
「判断しろ」
三百二十の喉が鳴った。
自分が。
ここで。
三百二十は、木の蓋を見た。
水たまりの横に置かれている。
そこへ荷車が近づいている。
荷車の車輪が水をはねれば、方位具は泥に隠れる。
その瞬間なら、自然に近づける。
「荷車が通るまで待ちます」
三百二十は言った。
「水がはねたら、道端の泥を避けるふりをして近づきます。方位具を木の蓋の下へ寄せ、旅人の視線を宿の主人へ向けます。その後、回収」
百七がうなずいた。
「やれ」
三百二十は動いた。
荷車が通る。
車輪が水たまりを踏む。
水がはねる。
旅人が一歩下がる。
宿の主人が袖を払う。
子どもが笑う。
その瞬間、三百二十は近づいた。
「足元、濡れますよ」
そう言って、木の蓋を持ち上げる。
方位具を蓋の影へ寄せる。
誰にも見えない角度。
手首だけで、封印袋を開く。
方位具が袋へ入る。
音はない。
旅人が道端を見た時、そこにはもう何もなかった。
ただ、濡れた石と木の蓋があるだけ。
「今、何か」
旅人が首をかしげる。
五十二が少し後ろ側へ回った。
でも、記憶具は出さない。
旅人はすぐに宿の主人へ向き直った。
「水、はねましたね」
「雨上がりだからなあ」
会話が流れる。
違和感は、流れの中でほどけた。
三百二十は封印袋を回収鞄へ入れた。
胸が大きく鳴っている。
百七が近づいた。
「回収完了」
三百二十はうなずいた。
「目撃者処理、不要」
五十二が言った。
「違和感、自然に消えました」
二百九十が読み取り具を閉じる。
「異物反応、消失」
十八が記録筒を開く。
「担当、三百二十」
その時、三百二十は石垣の方を見た。
茶色の外套の人影が、ほんの一瞬だけ立っていた。
顔は見えない。
でも、こちらを見ている気がした。
三百二十は息を止めた。
人影は、小さくうなずいたように見えた。
そして、雨上がりの風にまぎれて消えた。
「見えたか」
百七が聞いた。
三百二十はうなずいた。
「はい」
十八も静かに言った。
「俺もだ」
二十三は古い紙を胸に抱えた。
「記録に残しますか」
百七はしばらく黙った。
「残す」
十八がうなずいた。
「ただし、番号はない」
三百二十は記録札を見た。
担当、三百二十。
補助、百七、十八、五十二、二百九十、二十三。
確認。
番号なし。
その文字が、今は怖くなかった。
局へ戻ると、保管庫の空気が少し違っていた。
古い箱が並ぶ。
記録札が眠る。
返せなかった物たちが静かに灯る。
二十三は新しい記録札を作った。
そこには、今日の任務が書かれている。
山間の宿場町。
未来方位具。
担当、三百二十。
回収完了。
目撃者処理不要。
判断補助、番号なし。
三百二十はそれを見つめた。
「これでいいんですか」
二十三はうなずいた。
「消さない。増やしすぎない。ちょうどいい記録にする」
五十二が言った。
「人の記憶と同じですね」
二百九十が笑った。
「忘れ物センターなら、持ち主不明だけど大事な物の棚に入れる」
百七は静かに箱を閉じた。
「番号なしは、たぶんそれでいい」
十八が言った。
「名前を探しすぎるな。仕事を見ろ」
三百二十はうなずいた。
番号のない回収員。
時代整理局最大の謎。
その正体は、まだ全部わかったわけではない。
本当に昔の回収屋なのか。
一人なのか。
何人もいるのか。
記憶の重なりなのか。
回収員たちの中に残った判断そのものなのか。
答えは出ていない。
でも、三百二十にはひとつだけわかった。
番号なしは、いない人ではなかった。
今も、回収員たちの判断の中にいる。
待て。
見ろ。
拾いすぎるな。
消しすぎるな。
返せるなら返せ。
持ち主の時間ごと返せ。
そういう声として、残っている。
報告室で、三百二十は筆を取った。
番号のない回収員について。
登録なし。
番号なし。
姿、不明。
ただし、複数の記録に判断補助として登場。
古い記録では、最初の道をひらいた者と記される。
本日、山間の宿場町にて未来方位具を回収。
現場判断中、声のような記憶を確認。
回収完了。
目撃者処理不要。
三百二十は一度、筆を止めた。
そして最後に書いた。
番号がないから、存在しないとは限らない。
名前がないから、忘れていいとは限らない。
仕事が残っているなら、その人はまだ局の中にいる。
書き終えると、少しだけ手が震えていた。
十八が後ろを通った。
報告書を見て、記録筒で机を軽く叩く。
こん。
「残せ」
三百二十はうなずいた。
その夜。
保管庫の奥で、二十三は新しい札を箱へ入れた。
箱の中には、古い記録と新しい記録が並ぶ。
番号なしの札。
三百二十の札。
百七の札。
十八の札。
時代は違う。
筆跡も違う。
でも、どこか同じ流れの中にあった。
二十三は箱を閉じた。
その時、背後で小さな音がした。
振り向く。
誰もいない。
ただ、棚の端にずれていた札が、一枚だけ正しい位置へ戻っていた。
二十三はその札を見た。
そして、静かに頭を下げた。
保管庫の夜は、音が少ない。
けれど完全に静かではない。
どこかで、誰かがまだ見ている。
誰かが、記録を整えている。
誰かが、落ちた物を拾いすぎないように見守っている。
番号のない回収員。
その番号は、今日もない。
けれど時代整理局の誰かが迷った時、
たぶんその声は聞こえる。
待て。
見ろ。
今だ。
そして回収員たちは、今日もその声を胸の奥で聞きながら、
時代の裏側へ歩いていく。
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いやもう、めっちゃ良かった…! 「番号なし」って存在が、ただの謎じゃなくて、回収員の"判断そのもの"みたいに描かれてるのがすごく好き。 百七や十八が「覚えてる気がする」って言うところ、記憶の輪郭だけがふわっと残ってる感じが不気味で美しかった。 それに三百二十が現場で自分で判断するシーン、ちゃんと成長してて感動したわ。 保管庫の札が戻ってたラスト、ゾッとしたけど、どこか温かさもあるな。 次、どうなるんだろ…もう続きが気になる🔥