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【ワトソンの回想 1】
その頃の私は、ロンドンで静かな生活を送っていた。
診療は続けていたが、かつてのような忙しさはない。
時間は、穏やかに流れていた。
それで満足していたはずだった。
———
ある朝、一通の手紙が届いた。
差出人の名は、懐かしいものだった。
書き出しに目を止めた。
———
ワトソンへ
———
しばらく、そのまま持っていた。
開くべきかどうか、考えるほどのものではない。
それでも、すぐには開かなかった。
———
読み終えたあと、私はしばらく動かなかった。
理由は、うまく説明できない。
ただ、
昔と同じ種類の手紙だった。
———
私は外套を取り、家を出た。
行き先は決まっている。
———
ドアを叩く。
返事はない。
いつものことだ。
———
しばらくして、内側で足音がした。
扉が開く。
変わっていない。
そう思った。
———
「珍しいな、ワトソン」
声も同じだった。
———
私は手紙を差し出した。
ホームズは受け取る。
目を通す。
———
「どう思う」
私が尋ねる。
ホームズは少し間を置いた。
———
「面白くはない」
———
それから、手紙を折りたたむ。
———
「行くのか」
「行くだろうな」
———
それだけだった。
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