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【ワトソンの回想 2】
列車は、時間通りにロンドンを発った。
朝の空気は澄んでおり、
街はいつもと変わらぬ表情を見せていた。
出発の時点では、
この旅もまた、よくある移動の一つに過ぎないように思えた。
———
ホームズは向かいの席に座っている。
窓の外を見ているが、
何を見ているのかは分からない。
新聞を開いては閉じ、
それきり言葉はない。
———
しばらくして、街並みは低くなり、
やがて緑が増えた。
遠くに丘が見える。
空は変わらない。
だが、どこかで境界を越えたような気がした。
———
「妙だな」
不意にホームズが言った。
私は顔を上げる。
———
「何がだ」
———
「静かすぎる」
———
それだけだった。
———
やがて、霧が出始めた。
最初は薄く、
窓の外を曇らせる程度のものだった。
———
進むにつれて、それは濃くなる。
景色は次第に輪郭を失い、
遠くのものほど消えていく。
———
車内は変わらない。
人もいる。
声もある。
それでも、
音の届き方が違うように思えた。
———
私は手紙を取り出す。
もう一度読む気にはならなかった。
だが、手放すこともできない。
———
ホームズは何も言わない。
ただ、指先で座席の縁を軽く叩いている。
規則的ではない。
考えているときの癖だ。
———
列車は減速し始めた。
終点ではない。
だが、目的地に近いのだろう。
———
「ワトソン」
———
呼ばれて顔を上げる。
———
「降りたら、まず音を聞け」
すかいお~あ@毎日投稿&猫化?
けだま15号🍓🐾໊
———
「音?」
———
「そうだ」
———
それ以上は説明しない。
———
列車は止まる。
扉が開く。
外の空気が流れ込む。
冷たい。
そして、
どこか湿っている。
———
私は、最初にそれを聞いた。
川の音だった。
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