店に入ると、すぐにスタッフが笑顔で二人を出迎えた。
予約していたのだろう。俊が名前を告げると、スタッフはニッコリと微笑みすぐに2人を窓際のテーブル席へ案内してくれた。
店内はホワイトとブルーを基調としたとても開放感溢れる雰囲気で、高い天井は全てはめ込み式のガラスになっていた。
昼間はそこから青空が、そして夜は星空が見える造りになっている。
床はアンティーク調の古材が使われていてかなり味わいがある。
海に面した窓も天井までガラス張りになっていて、窓からは海が絵のように見える設計だ。
今は夜なので薄暗い海しか見えないが、きっと明るい時に来たら窓一面海のブルーだろう。
雪子は店内が何かのイメージに似ているなと思う。
そこでふと思いついた。この店は船内をイメージしているのだ。
あまりにも素敵な空間なので感動して思わずホッと息を吐く。
「凄く素敵なお店ですね」
「うん、前からずっと気になっていて一度来てみたかったんだ。解放感があってなかなかいいよね。昼に来て窓からの海も見て
みたいなぁ」
俊の言葉に雪子も頷いた。
料理は俊が前もってコース料理を頼んでいてくれたようで、飲み物にノンアルコールワインを頼んだ。
オードブルとワインが一緒に運ばれて来たので二人はは早速乾杯した。
オードブルは、地元野菜を使ったパテだった。
「今まで夜出かける事はあったんですか?」
「はい。時々優子と地元で食べたり飲んだりはしています」
「そうなんだ。優子さんとは本当に仲がいいよね」
「優子とは幼稚園の頃からの付き合いなので」
雪子はそう言って微笑んだ。
「一ノ瀬さんこそ、修さんとは学部が違いませんか? なのにどうしてお友達なのですか?」
「修とはサークルで知り合ったんだよ。サーフィンのね」
「ああ、それで…….」
雪子は、修が経済学部だと知っていたのでなぜ俊と友達なのかが不思議だったが、
今の俊の説明で納得したようだ。
そこでスープが運ばれてきた。
スープはかぼちゃのポタージュだったので、雪子は嬉しそうだった。
「そう言えば、もうすぐハロウィンだね。だからかぼちゃ?」
俊が雪子に聞くと、
「そうだと思います。私、かぼちゃのポタージュ大好きなんです」
雪子はそう言って幸せそうに笑った。
その笑顔を見ているだけで俊まで幸せな気持ちになるから不思議だ。
こういう笑顔が見たいから男はデートコースを練る労力を惜しまないのだ。
そこで俊は気づいた。今回のように女性の為に店選びに悩んだのはかなり久しぶりだという事に。
これと同じような経験をしたのは、遥か遠い昔だったような気がする。
その時俊は、自分の中で確実に何かが目覚めていくような気がした。
そして目の前の雪子を見つめる。
初めて来る店だったので少し不安だったが、この店の料理は想像以上に素晴らしかった。
それもそのはず、この店では採れたての相州野菜や相模湾の新鮮な海の幸、そして南足柄で育てられた相州牛等、地産
地消の食材が使われていた。
素材が良ければあとは素材の良さを壊さない繊細な料理の腕があればいい。
この店のシェフはその事をちゃんと心得ているようで、どの料理も都心の有名店に引けを取らないくらい素晴らしいものだった。
雪子がニコニコして本当に美味しそうに食べるので、俊はこの店へ連れて来て良かったと心から思った。
コース料理も終わりに近づいた頃、雪子は俊に聞いた。
「一ノ瀬さんがプロデュースするお店は、こういう感じのお店も含まれるのですか?」
「まぁそうだね。フレンチやイタリアン、あとは日本食もやるし、ビストロ系やバー、カフェなんかからもよく依頼が来ます
ね」
「凄い! ほとんどの種類じゃないですか。やっぱり都内の案件が多いのですか?」
「そうだね、今はほとんどが都内かな。たまに地方からも来るけれど、感染症騒ぎ以降は、地方や海外からの依頼はあまり受け
ないようにしています」
それを聞いた雪子は、海外からも依頼が来るんですねと驚いていた。
すると、俊はワインを一口飲んでから雪子に言った。
「じゃあ今度は私からも質問していいですか?」
「えっ? なんだろう? はい…….」
「カフェを開くのが夢だったの?」
「えっ?」
思いがけない質問が飛んできたので雪子は驚く。
「この前雪子さんが淹れたコーヒー、本当に美味しかった。君は舌が肥えているからバリスタ向きかもしれない。思い切ってや
ってみたら?」
雪子は目を見開いて驚いている。
「えっ、でもド素人がいきなり無理です…….」
「いや、別にプロが開業するのと同じようじゃなくても…例えば自宅カフェとか? ほら、雪子さんの家の前って観光客や地元
の人がよく通るだろう? 立地的には最高の条件かなと思うよ。あの辺りには全くカフェがないし」
「確かにあの辺りはお茶を飲めるようなお店が全くないから場所的にはいいのかもしれませんが、でも普通の家だし……」
「自宅や古民家を使ったカフェって意外とあるんだよ。それに上手くやれば結構人気が出るし。チェーン展開の店に飽きた客が
常連になってくれれば収益率も安定するしね」
雪子はびっくりしていた。
まさにその分野のプロである俊が真面目な顔をして言っている。
本当にそんな事が可能なのだろうか? と雪子は少し興味を持ち始める。
「えっ、でも、そういうのって保健所の許可を貰ったり、調理場の設備がどうとか? 結構厳しいのでは? 私はそういうのに
お金をかけられないのでやっぱり無理かと……」
「保健所の事とか設備の事とか、結構調べたんだ?」
「昔そういうのに憧れていた時に、少し調べた事があります」
「そっか。まあ初期費用は少しかかるかもしれないけれど、その費用を抑える事は可能だよ。今の家をそのまま使って内装は自
分でやるとか、厨房器具類は中古で揃えるとか? やりようによってはかなり安く抑えられますよ」
雪子は俊の話にさらに興味が湧いてきた。
コメント
3件
アラフィフのストーリーはなかなかないので、とても嬉しいです。 自分もこれからその年代に入っていくので、とても励みになりました✨
いい雰囲気(*˘▿˘✽)雪子さんリラックスしてるようだし、俊さん結構キュンしてるよね(ฅฅ*)♡ いつ雪子さんが俊さんと呼び恋愛対象として見るのかな。 俊さんは雪子さんのペースに合わせてその時を穏やかに虎視眈々としてるね🤭
少しずつお互いのことを話すようになった2人🥰 自分の仕事やいきさつ、夢や将来のことを話せる異性✨ 今はまだ恋愛云々の前に自然に少しずつ距離を縮めていける貴重な時間なんだね⏳ そこから一歩ずつ恋愛に進んでいくのかな🤭💓