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両手の拳をこちらに突き出す彼は、レジ袋を頭に被る男の子だ。レジ袋のせいで彼の顔ははっきりとは見えない。けれど、口はニヤリと笑っていた。
「え、っと……こ、こっち?」
両の手をぎゅっと握ったそれを突き出すレジ袋の男は、隣に座る涙目の彼にもどちらか選べと顎で促す。
彼は迷いながらも、自身とは反対の右を選んだ。
「ぶっぶー。どっちも不正解でーす」
急に校舎裏に来て、急にマジックのようなことをする彼は何なのだろう。今のところ、レジ袋を被った不審者だ。
けれど、この学校の生徒であることは、制服と名札を見れば1発でわかった。
“2年A組 トラゾー”と、名札には綺麗な文字でそう書かれていた。まさかの後輩だったことに驚きを隠せないと同時に、こんな子を今まで見かけなかったことに困惑していた。
それでも彼はお構いなしに手のひらを広げ、中身が何もないことを伝えた。
「───左手を選んだ貴方に質問です」
「へ、あ、俺?」
突然の指名に、妙に堅苦しくなるが、相手はそれを察したのかまたにこりと笑って明るい声で話し続けた。
「貴方に対しての噂が流れているとします。悪い噂なのか良い噂なのか、どちらでしょう?」
突然の質問に、ええー…と唸りながらも、”良い噂”と答えた。
「なぜ?」
「───え」
理由まで聞かれるとは思わなく、ひゅ、と息が詰まったような気がした。あまりの困惑に、自身は無意識下で口をパクパクと微かに動かしていた。
「───右を選んだ貴方に質問です」
「うっ、は、はい」
彼にとって、レジ袋の彼も一つ上の先輩なため、敬語を使っている。
「───貴方に話しかけてくる人がいます。良い話なのか悪い話なのか、どちらでしょう?」
「そ、れは……」
───悪い話以外、何があるんだ。
…………………………
『きもちわりいな!!』
『なんで嘘ついてたの?!』
嘘をついてたわけじゃない。ただ性別の話をしなかっただけ。それなのに、なぜ僕が───しにがみが責められなければならないのかわからなかった。
髪が長くて何が悪い。声が高くて何が悪い。女の子っぽくて何が悪い。
体は男だし、性格も男だし、言うことも男だし……根はちゃんと男の子だ。
『ごめんね、普通の子に産んであげられなくて……』
大丈夫、としか返事ができない。それ以外になんて返事をすれば、母は笑顔になってくれたのだろう。
それでいて、母も少し恨めしい。
なんだ、”普通の子に産んであげられなかった”とは。普通の子なのに、まるで普通の子じゃないと否定を入れておくことで自身を納得させるような言い分は。
『気にしないで」
昔から言っていた言葉は、いつの間にか口癖になるものだ。
謝られても、感謝されても、申し訳なくされても、これが1番妥当な返事だと思う。
きっと、これからも人に気を遣って生きていくと信じて疑わなかった。
『ぐぬぬ……ぐはあ!』
プルタブごときで必死になる彼に会うまでは、の話だが。