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「俺、この写真、気に入ってるんだよ。奏の柔らかくて自然な笑顔が綺麗だし、自分で言うのも変だが、俺自身もいい表情をしてると思う。すぐにフォトフレームを買って、画像をプリントアウトしたよ」
照れ隠しなのか、怜はこめかみを指先で軽く掻いている。
「本橋の自宅に行った時、奥さんとの写真をたくさん飾ってあっただろ? あの時は『ありえねぇ』なんて思ってたけど……アイツの気持ちが、何となく分かったような気がしたな」
怜は話している間に、いつしか奏の身体を抱き寄せていた。
彼女の、細くて柔らかな身体の感触を確かめるように、怜は奏の背中と腰に腕を回し、艶やかな黒髪に唇を落とす。
「もうこんな時間だし、そろそろ寝るか」
怜の言葉に心臓が大きく打ち鳴らされ、奏は咄嗟に自分の寝る場所を聞いた。
「あ、あの……私、ここで寝ればいいんですよね?」
彼女はソファーをポンっと触れながら問いかけると、怜は片眉をピクっと上げた。
「奏。俺が言った事を忘れたか? 『ずっと抱きしめていたい』って言ったはずだぞ?」
怜は立ち上がり、奏の手を取ると、リビングのルームライトを消灯し、寝室へ向かった。
***
怜が寝室のドアを開き、ルームライトを仄暗く調光させた。
「奏。おいで」
六畳くらいの広さの寝室。
ダブルベッドと、その横にチェストが置かれてあり、壁には全身鏡があるだけのシンプルな部屋だ。
窓際に設置されているベッドを見た瞬間、奏はひゅっと息を呑み、扉がパタンと閉まる音を聞くと、身体をビクンと小さく震わせた。
遮光カーテンを閉め、怜はダブルベッドへ先に上がり、奏の手を引き寄せながら抱きしめる。
こういう淫靡な雰囲気が初めての奏は、どう振る舞っていいのかわからない。
適度に弾力のある筋肉質の胸板に顔を埋めると、怜は奏の顎に手を掛けて上を向かせ、口付けを与えた。
チュっとリップ音を立てながら徐に顔を離すと、怜の柔らかな眼差しが奏を包み込んだ。
「奏……すげぇ可愛い」
可愛いなんて言われたのは、あの湘南ドライブへ行く直前、怜の車の中で変顔した時に言われて以来だ。
それまで、可愛いなんて言われた事は皆無に等しい。
言われ慣れない言葉を、低くて甘ったるい声音で囁くように言われ、羞恥心でいっぱいになった奏は、またも怜の胸に顔を埋めると、彼は再び顎に手を添えながら、小さな唇を奪った。
奏の小さな舌を絡め取りながら歯列をなぞる。
艶やかな唇の感触を確かめると、怜は奏の背中を支えながらベッドに横たわせた。
細い首の下に筋張った腕を差し込み、キスを交わし続ける。
不意に奏の太腿あたりに感じる、硬い感触。
(え……? これって……もしかして……)
奏の顔が急激に紅潮し、熱を纏っていくのを感じていると、怜はそっと唇を離し、彼女の黒い瞳を捉えた。
滑らかな奏の頬を、節くれだった指先が触れ、ゆっくりとなぞる。
涼しげな奥二重の瞳は妖艶な色を映し出し、奏は射抜かれたまま、身体が硬直して動けない。
「奏……」
余裕をなくした掠れたような声音で、怜は彼女の名を呼んだ。