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管野アリオ
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画面に表示された名前を見た瞬間、亜佑美は“返信をしていないから確認の電話だ”と察し、迷うことなく通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『亜佑美! 全然返信ないからさぁ迷ったんだけど掛けちゃった! 今大丈夫?』
「ごめんね、今友達と一緒にいて……」
『友達? もしかして男? ……まあいいや、それより合コン! もちろん参加でいいんだよね?』
「あー……」
軽い調子で飛んできた問いかけに亜佑美は一瞬だけ言葉を詰まらせたけれど、
「……ごめん。合コンは行かないから、私はパスで」
『え!? マジで!? 今回めっちゃ期待出来るんだよ?』
「うん。だけど行かない」
『何それ~! 珍し!』
友人はまだ何か言っていたが亜佑美は苦笑しながら軽く宥め、そのまま通話を終えた。
「ごめんね」
スマートフォンをテーブルへ戻しながらそう言うと向かいに座る朝陽は、「いえ」と首を横に振るも、その表情はどこか落ち着かず、何か言いたそうで言葉を選んでいるような顔だった。
そんな朝陽を前にした亜佑美は、
(少しは気にしてくれてる……のかな?)
淡い期待を胸に口を開く。
「……合コンの誘い、初めて断っちゃった」
ぽつりと零れたその言葉に朝陽の肩が僅かに揺れる。
「え……?」
「今までは誘われたら全部行ってたから、友達すごい驚いてた」
亜佑美はそう言って誤魔化すように笑う。
わざわざそれを伝えたのは、朝陽に“どうして断ったのか”を考えてほしかったから。
自分の気持ちを少しでも気づいてほしかったから。
けれど、流石にそこまでは口に出来なくて亜佑美は曖昧に視線を落とす。
一方の朝陽も何かを考えるように黙り込んでいた。
亜佑美が言った言葉の意味を測りかねているようだが、どこまで踏み込んでいいのか分からないといった戸惑いがそのまま沈黙になって二人の間に流れていく。
すると、朝陽はふいにこう言葉を零した。
「……あの時、喫茶店で木葉さんのスマートフォンにメッセージが届いたじゃないですか」
その言葉に亜佑美がゆっくり顔を上げると朝陽は少しだけ視線を逸らしたまま、どこか言いにくそうに続けていく。
「別に覗くつもりじゃなかったんですけど、“合コン”って文字が見えちゃって……その時から、ちょっと気になってて」
気になっていた、という言葉に亜佑美の胸が小さく跳ね、期待してしまいそうになる自分を慌てて抑え込む。
「……気になってた、って?」
「いや、その……」
聞き返された朝陽は困ったように眉尻を下げて小さく笑う。
「木葉さん魅力的なので、合コンとか行くと大変ですよね」
「……え?」
「俺なんて全然話せなかったですけど、この前の合コン、先輩たち含めて男の人みんな木葉さんに積極的にアピールしてましたし」
先日の二人の出逢いの場になった合コンを思い出しているのか朝陽は苦笑混じりに肩を竦める。
「だから……その、たまにはいいんじゃないでしょうか。合コンに参加しなくても」
「…………っ」
亜佑美はその言葉を聞きながら膝の上でそっと指先を握りしめた。
(もしかして、私が友達の誘いを断ったことを気にしてるだけだと思ってる?)
亜佑美としては少しでも断った意味を考えて欲しかったから話したつもりだけど、回りくどい言い方で朝陽には伝わらなかったのだと少し残念に思い、肩を落とす。
勿論、意識して欲しいなら、気持ちを伝えるのが一番手っ取り早いということは亜佑美自身理解している。
けれど、亜佑美は自分の気持ちに今日初めて気づいたばかり。
しかも、これまでの亜佑美は収入、職業、将来性、見た目――そういう“スペック”を見て相手を選んできたし、それが当たり前だと思っていたから、こんなふうに一緒にいると落ち着くとか笑うと嬉しいとか少し優しくされただけで胸がいっぱいになるとか、そんな理由で誰かを好きになったことなんて一度もなかった。
だからこそ、今すぐにこの気持ちを口にする勇気なんてない。
でも、ほんの少しでいいから自分を意識してほしくて亜佑美は探るように視線を上げた。
「……藍島くんは、合コンばっかり行ってる女って、やっぱり嫌?」
「え?」
突然の問いに戸惑う朝陽を前に、亜佑美は平静を装うように笑った。
「ほら、私、結構行ってるし。そういう女だとやっぱり男探しに必死って思われてるかなーって」
すると朝陽は少し考えるように目を伏せてから首を横に振った。
「別に嫌とかは思わないですよ」
「……そう?」
「はい。合コンって出逢いの場だと思うので、悪いことではないと思います」
そして、朝陽はふっと笑う。
「現に、合コンのお陰で木葉さんと知り合うことが出来ましたから!」
それは屈託のない笑顔だった。
打算も駆け引きもなく、ただ本心からそう言っているのが分かる。
その眩しさに亜佑美の胸はまたどうしようもなく熱くなる。
(……本当にズルい。こんなの、好きになるに決まってるよ)
亜佑美は気持ちを悟られないようにそっと視線を逸らしながら、じわじわと込み上げる想いを誤魔化すように、「そっか」と答えて小さく笑ったのだった。
コメント
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うわあ、やっと亜佑美が本当の意味で「好き」って自覚した回ですね…!今まではスペックで相手を選んできたのに、朝陽といると落ち着くとか笑顔で胸がいっぱいになるとか、そういう理由で誰かを好きになったことなんてなかったっていう気づき、すごくリアルでじんときました。そして朝陽の「合コンで知り合えたから」の台詞、無自覚すぎてずるい…!(笑)亜佑美のじわじわ募る片想い、これからどう転ぶのか楽しみです。