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楓が赤くなる季節に
彼女は良くベンチに座っていた。
その体は透けていて
この世に後悔が残っている。
風が運んできたような声で僕の問いに答えた。
「私はもう死んじゃったからさ。」
その愛らしい笑みの中に
諦めという感情が混ざっていたような
そんな気がした。
僕は楓よりも紅葉が好きだ。
違いはよく分かっていない。
あの日、紅葉を眺めていた彼女に一目惚れした。
もし小説を書くならば
恋の命日。
なんて素敵なタイトルをつけたい。
3年前。高校の入学式。3時42分。
桜の木が並ぶ道の途中の公園で
ベンチに座る女の子の姿。見惚れてると
彼女は驚いた顔をして、
柔らかい笑みを浮かべた。
「こ、こんにちは!」
緊張でガチガチになりながら挨拶をしてみた。 我ながら勇気ある行動だと思う。
「こんにちは。」
すると、軽い会釈をしてくれた。
なんだか照れてしまって
足早に歩いて帰った。
3日後。日曜日の3時42分。
彼女はそこにいた。
頑張って話しかけてみる。
また驚いたような顔で
「連絡先?私、今スマホ持ってないよ?」
なんて言う。脈ナシか…
と、勝手に落ち込んでいると、
彼女はポケットをひっくり返して見せた。
ね?という表情をして慰めてくれる。
可愛らしい笑みに鼓動がうるさく鳴いた。
一週間に1度公園に向かう。
時刻はいつも3時42分。
学校での理不尽の愚痴を吐いている僕を
彼女は隣に座って優しい笑みを浮かべながら
見守ってくれた。
会う度に顔を赤くして緊張している僕に
「毎週来てるのに何を緊張してるの?」
そう言いながらくすりと笑ってくれる。
知れば知る程好きになってしまう。
春以外は人通りが少ないからか、
気づかなかった。
彼女が見えないということに。
ある日の昼休み。
僕は1人で購買のパンを買って食べていた。
「あいつ毎週日曜日の公園に行って
1人で喋ってんだよ。」
ふと、耳に入ってくる言葉。
毎週。日曜日。公園。
「え〜…?まじ…?やば…頭おかしいのかな…」
残念ながら、誰の事だろう。
とは思えなかった。
みんなには見えていないんだ。
そしてまた日曜日。
恐る恐る聞いてみる。
「あのさ、聞きたいんだけど、
もしかして君のこと僕以外に見えてる人いない?」
寂しそうな、悲しそうな笑顔を見せた。
胸が締め付けられる。本当に痛覚を感じる程に。
言葉を咀嚼する。しばらくの間の後、
「私はもう死んじゃったからさ。」
そう言って笑った。儚くて、尊い。
その愛おしい笑みの内側に
諦めという感情が混ざっているような。
そんな気がした。
2台のトラックがぶつかった事故。
3人が巻き込まれて亡くなってしまった。
そのうちの一人が山井 藍(やまい らん)
彼女なのであった。
そのことを優しく教えてくれた。
それでも、一度好きになってしまった。
だから今日も一週間に一度の日曜日。
3時42分のベンチで。花束を添えた。
もっと、彼女を知りたいと思った。
「私はね──────