テラーノベル
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拓人の言葉に、彼女は拍子抜けしたように、首を傾げた。
「そりゃ、アンタは楽しかったんじゃない? 拾った女を、ここに住まわせて、男に身体を売って来いって言ってさ。私を売った金の半額をピンハネして、アンタも私とヤリたい放題。まぁヤリ友ってストレートに言われた時と、中に出された時、正直、心が折れたわ」
優子は、敢えて明るく言い放ち、両手の掌を上に向けながら、肩を竦める。
「いや…………そういう事じゃなくてさ……」
「じゃあ何なのよ」
彼女は目尻を吊り上げながら、男を見据える。
「…………俺が、あんたを揶揄うと、ツッコミとか文句が返ってきて、また俺が茶化す……。女と一緒にいて、こんなやり取りを一度もした事がなかったから……俺にとって、それがすごく新鮮で……楽しかったんだ……」
拓人が慎重に言葉を選びながら、優子に理由付けをしているようにも見える。
「…………ふぅ〜ん。そうだったんだ……」
意外な言葉に、優子は調子が狂ってしまう。
けれど彼女も、拓人に対して、同じような気持ちが芽生えている事は確かだ。
元彼を含め、男性と一緒にいる時は『いい女』になりきっていたし、気取らずに接してきた男性は、目の前にいる男が初めてで。
「だから……あの時……」
拓人が、神妙な面持ちを浮かべながら、優子と向かい合った。
男が言っている『あの時』は、松原廉が、この部屋に来た日の事を指しているのだろう。
優子が僅かに怯むと、拓人は、まっすぐな眼差しを送ってきた。
「廉の前で……ひどい事をして…………それに、あんたには…………失礼な言動ばかりで……悪かった……」
途切れとぎれに言葉を置いていく男が、深々と頭を下げると、優子は、クセのある長めの髪を見つめている。
拓人と一緒にいて、腹立たしい事もあったけど、彼女にとって、何気ないやり取りが、楽しかった記憶の方が大きい。
「…………アンタに謝られると、何だか不気味だわ。もういいから、頭を上げてくれる?」
彼女が、諦めを滲ませたように、ため息をつくと、拓人は、ゆっくりと身体を起こした。
「私も、この二ヶ月間は…………色々あり過ぎて、楽しかった。男に対して、ざっくばらんでいられたのは、アンタが…………初めてだよ」
「…………そうか」
優子が穏やかな表情で微笑むと、男が安堵したように、釣られて唇を緩める。
「まぁ私は、家族の中で『存在しない人間』になってるし、どうせ行く当てもないし、乗り掛かった船だから…………アンタに付いて行くわ」
彼女の言葉に、拓人が初めて嬉しそうに、笑顔を映し出したような気がした。
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