テラーノベル
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「え? どっ…………どこに行くの?」
若干寝ぼけ気味の美花の瞳が、気忙(けぜわ)しく瞬く。
「それは、お楽しみって事で」
「うん…………分かっ……た……」
「さて、そうと決まったら、さっそく出掛ける準備をしよう」
圭はクローゼットから私服を取り出すと、美花がドアノブに手を掛けた。
「…………俺と一緒に、ここで着替えても構わないぞ?」
「はっ……恥ずかしいし無理っ!」
唇を歪にさせながら、いたずらっぽく笑みを覗かせた圭に、美花は、さっさと寝室を後にすると、彼は困ったように目尻を下げ、短く息を吐き出す。
(やっぱり…………俺に見られたくないし、知られたくないのだろうな……)
圭は、朝に見た、細い手首に刻まれている赤黒い筋を思い出す。
まだ美花は自分に対して、心を開けない状態なのだ、と言い聞かせ、ベッドの上に置いた服を手にして、身支度を整え始めた。
「美花。そろそろいいか?」
彼女の準備が終わった頃を見計らい、圭はベッドルームのドアを少しだけ開き、声を掛ける。
「うん。大丈夫だよ」
リビングから飛んできた小さな声に、圭はゆっくりと扉を開いていくと、支度を済ませた美花が、こちらに身体を向けて佇んでいる。
ストレートロングの毛先が、少しだけ外にはねている状態の美花を、彼は、つま先から顔立ちへと視線を伝わせていった。
寝起きで、どこかあどけない表情の彼女に、圭は涼しげな目尻を下げる。
(少し抜け気味の彼女も…………いいかもしれない……)
彼は、若干ポーッとしているような美花に、歩み寄っていく。
「じゃあ…………行こうか」
相変わらず、ひんやりとした彼女の手を取り、圭は玄関に足を向ける。
「圭ちゃん。どこに行くの?」
「う〜ん…………そうだな。近所、とでも言っておこうか」
「ふぅ〜ん……」
まだ納得していない彼女を尻目に、圭の面差しから笑みが漏れてくる。
(喜んでくれるといいんだが……)
若干の不安と期待を入り交わせつつ、彼は、愛おしい女の手を強く握った。
コメント
1件
あの事を話したら嫌われないか心配なんだろうな。
#大人ロマンス