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26話 勇者の引退式
昼下がり
ふっくらは丸い体を揺らしながら
小さな広場に立っていた
短い脚はぽすぽす音を立て
腹がふよんと前に出ている
ふっくら
「……ねぇ琶、なんか……少なくない?」
後ろで琶が腕を組むように翼を畳み
静かにうなずいた
大きな体
長い首
重なった鱗
その影が、広場を半分ほど覆っている
琶
「観客が少ないな」
ふっくら
「だよね!?
引退式だよ!?
人生の節目だよ!?
なんでこんなスカスカなの!?!?」
広場の中央には
引退する勇者たちがずらっと並んでいた
……多い
とにかく多い
見た目もほぼ同じ
ふっくら
「ねぇ琶……
あれ……何人?」
琶は無言で数えはじめる
鋭い目で一列ずつ確認するが――
琶
「……数えきれん」
ふっくら
「多すぎ!!
量産感すごいよ!!
読者も覚えられないよ!!」
式典が始まると
司会役の村人が小声で話し始めた
司会
「本日は、えー……
大勢の勇者さまの引退式に……」
ふっくら
「声ちっさ!!
やる気ある!?」
椅子に座っている観客は
なんと三人だけ
ふっくら
「なんで勇者より観客のほうが少ないの!?!?」
琶
「需要がないのだろう」
(ひどい)
ふっくら
「言い方!!
勇者たち泣くよ!?
読者も苦笑いだよ!!!」
引退勇者がぞろぞろと前に出てくる
顔も服も同じ
並ぶと圧があるようで逆に圧がない
ふっくら
「ねぇ琶……
これ“卒業写真”じゃなくて
“コピーの棚卸し”に見えちゃう……」
琶
「本質は同じだ」
ふっくら
「言っちゃだめーーー!!
大人の事情ーーー!!!」
司会
「それでは……引退勇者の皆さまに
拍手を……」
ぱち……
ぱち……
ぱち……
控えめな拍手
少なすぎる拍手
広場に虚しく響く
ふっくら
「静かぁぁぁ……
拍手の量、勇者の数にあってないよ……」
琶
「量産には量産の終わり方がある」
ふっくら
「だから言い方!!!
なんでそんな淡々と残酷なの!!
読者の心にもくるよ!!!」
勇者たちは
誰一人喋らず
ただ整列してお辞儀し
そのままぞろぞろと退場していった
ふっくら
「……終わった……?」
琶
「静かに終わったな」
ふっくら
「終わりすぎじゃない!?
もっとこう……感謝とかさ……
お疲れさまとかさ……
言うでしょ普通!!?」
琶はふっくらの丸い頭を軽くつつく
「……彼らは忘れられるのが、仕事だ」
ふっくら
「やめて!!
急にダークな真実みたいの言わないで!!!
読者に刺さるやつだよそれ!!!」
琶
「読者は知っている」
ふっくら
「なんで読者の代理人なの!?!?」
風が吹き抜け
広場は空っぽになった
たくさんいたはずの勇者の足跡だけが
妙に均一で
妙に整っていた
ふっくら
「……ねぇ琶……
あの人たち……
ほんとに“これで終わり”なの……?」
琶は一瞬だけ目を細め
答えをぼかすように言った
「終わりとは、
始まりの別名だ」
ふっくら
「ぼかさないで!!
読者も気になるからぼかさないで!!!」
静かなまま
式典は幕を閉じた
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