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「今の時代、そんな風に生きていけるか?」

「まず、不可能でしょうね」と百合さんが真に答えた。

「ただ、宮内が別人に成りすましているか、ある程度の財力と権力をもった協力者がいるなら、話は別ね」

今度は百合さんが私に目配せをした。

「普通なら家族よね」と、私は言った。

「宮内は一人っ子で、両親も他界している。協力者なんているか?」と、侑。

「宮内晃広が生まれた産院を調べたわ」

「産院?」

「ええ。いくら現金を持っていても、三年もの間、完全に社会から姿を消して生きるなんて簡単に出来ることじゃない。協力者の可能性が高い宮内の両親は宮内が大学を卒業する直前に事故で他界していた。宮内に遺されたのは保険金が一千万ほどだった」

「一千万とクラッキングで稼いだ金で、人知れず地下に潜って生きてた?」と侑が聞く。

「小説やドラマなら面白いだろうけど、実際に出来るか?」と蒼が言った。

「現実は小説より奇なり、とはよく言ったものよ。結論を言うと、宮内は亡くなった両親の実子ではなかったの」

「戸籍では実子のはずだけど?」

三年前に宮内について調べた百合さんが言った。

「それで、産院か……」と蒼が呟いた。

「そ。宮内が生まれた産院は二十年ほど前に摘発されているわ。違法に養子縁組を斡旋したって」

「たまにその手のニュースを聞くよな」

「産院なら妊娠も出産も書類一枚で偽造できる。出産したことにして、他の女性が産んだ子供を実子として届け出れば、証拠は残らないってことか」と、百合さんが納得した様子で冷めかけたコーヒーに口をつけた。

「それだけなら私たちには関係のないことなんだけど……」

私は横目で蒼を見た。

「何だよ?」


蒼に、覚悟は出来たのだろうか……?


「宮内晃広が生まれた日に、同じ産院で死産となった男の子がいたの」

「……死産ってことにして、養子に出された?」

「でしょうね。で、その死産だった妊婦の名前は、大越雪」

この名前に反応したのは、侑だけだった。

「内藤広正の第一秘書!」

「はっ?」

その場の全員が顔を見合わせた。

「そう。内藤社長の第一秘書の大越雪は結婚歴はないんだけど、二十七年前に男の子を出産して死産だったと届けを出していた」

「内藤社長の秘書が宮内の母親?」と、真が言った。

「父親は内藤広正か……」

蒼がため息交じりに言った。

「いや……、ドラマじゃあるまいし、愛人を秘書にするか?」

「伯父さんが伯母さんと結婚したのは、伯父さんの本意ではなかったって聞いたことがある。実際、伯父さんと伯母さんの不仲は親戚中の知るところだし。それに、伯父さんと伯母さんが結婚したのが、ちょうど二十六・七年前だ」

「その時、大越雪は妊娠していた?」

「今のところは可能性の一つだけど、その前提で動いた方がいいでしょうね」と、百合さんが言った。

「つまり……、三年前に咲と百合さんに追い詰められた宮内は実の両親に助けを求め、内藤は宮内を匿った。けど、三年経って宮内はまたいたずらを始めた……か?」

真が納得しきれていないように、歯切れの悪い言い方をした。

「内藤がT&Nを乗っ取るために息子を使ったって流れの方が、単純じゃないか?」

この期に及んで、私は迷っていた。

すべてを話して、みんなを危険に晒すのは避けたかった。けれど、私一人で宮内に太刀打ちできるか、正直不安もある。

「いくら実の父親でも、何十年も存在すら知らなかった内藤の言いなりになるか?」

やはり、三年前に宮内を逃したのは痛かった。

「言いなりになってるのは内藤の方でしょうね」


三年前なら、私には失うことを恐れるものはなかった。けれど、今は……。


「じゃあ、宮内の目的は?」

宮内は私の仲間を把握しているだろう。だからこそ、百合さんを和泉さんの共犯者として公に晒して、蒼に城井坂家との縁談を持ち掛けた。

「三年前のリベンジ? 実の両親への復讐? T&Nの乗っ取り?」

私が宮内のことを知っているように、宮内も私のことを知っているのかもしれない。

「内藤は引退が近いんだ。乗っ取りは現実的じゃないと思うけど」

蒼に偉そうなことを言っても、私はどこまでみんなを巻き込んでいいのか、決めかねていた。

「咲……」

蒼に呼ばれて、私はハッとした。

「まだ、俺たちに話してないことがあるよな?」

「え……」

「昨日、秘書室で何を見つけた?」


どうしよう……。


みんなの視線を浴びて、私はいつになく手に汗を滲ませた。

「咲、大切なものが増えるって、結構しんどいよな」

真が言った。

「大切であればあるほど、過保護になる。でも、それはお前だけじゃないぞ」

「え……?」

「お前が俺たちを大切に思って守りたいと思うように、俺たちもお前を守りたいと思ってる」


真兄……。


「あんたが言ったのよ? 和泉より面白いシナリオを用意するって。途中降板する気はないわよ?」


百合さん……。


「言っただろ? キーボードを叩いて出来ることなら、何があっても助けてやる」


侑……。


「蒼、お前何ふくれっ面してんだよ?」

蒼の顔を見ると、確かに不機嫌そうに口をとがらせていた。

「みんな、格好良過ぎんだよ。俺の出る幕ねーじゃん!」

「お前も格好いいこと言えば?」と、真が茶化す。

「ぜってー言わねぇ」

「そうね。三男は二人きりの時に甘いこと言ってやんなさい」と、百合さんも蒼をからかう。

「三男って呼ぶのやめてくださいよ?」

「そう言われると、やめたくないわぁ」

「百合、マジで口調がおばさんになってる」と、侑が少し呆れたように言う。

「誰がおばさんよ!」


ああ……。

私、幸せだ——。


そう感じた瞬間、自分でも驚くほど一気に涙があふれた。

「何、泣いてんだよ」

蒼の手が優しく私の頭を撫でた。

「だ……って……」

ずっと一人で辛かったなんて、思ったことはなかった。いつも、真が一緒にいてくれたし、三年前からは百合さんも侑も一緒だった。だけど、気持ちのどこかで最後に頼れるのは自分だけだと思う自分がいた。


信頼し、守りたいと思える人がいることが、こんなに幸せで心強いとは知らなかった——。


「なぁ、咲。お前を守ってやれなくても、一緒に闘うくらいさせろよ」

「いや、『俺が守ってやる』くらい言えよ」と、また侑が茶化す。

「こんな強い女に言えるかよ」

「らしくねぇな」

「相手が咲じゃハッタリなんか通用しないだろ」と笑って、蒼が私の頭をぐりぐりと撫でた。

「確かにねぇ。でも、嘘だって分かってても、その言葉が欲しい時もあるのよ? ねぇ、咲」

「俺は……、弾除けにでもなれたらいいんですよ」

蒼は、とっくに覚悟が出来ている。

みんなも。


覚悟が必要なのは私だ——。


真にティッシュを箱ごと差し出され、私は四、五枚を引っ張って、涙でぐちゃぐちゃの顔を拭った。

「宮内はT&N観光内にいるわ——」

女は秘密の香りで獣になる

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