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眠狂四郎
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「そのお…ここはゾーン1の北側、シャチハタのプラスチック管理局です」
エルセンは受付内を見回してから、紙の束と小さな小包を見つけてきて、バッターにも見せた。
エルセンは束の中から紙を一枚抜き出し、バッターの前へ差し出した。
「書類に必要事項を記入するのが、僕らの主な仕事です。作成した書類はこのように紐で括って、配達サービス宛てに送ります」
受付の上に紙の束を置いてから、今度は小包を見せながら続けた。
「そして、配達サービスが発送した書類と引き換えに、僕らはプラスチックの入った小包を受け取るんです。この世界の海や湖は、沢山の液体プラスチックでできているんです。………あ、もちろん固形のプラスチックもあって、それらは様々なものを作るのに使われています」
紙の束と同じように小包も受付へ戻し、エルセンは改めてバッターへ向き直った。
「4つのエレメントのうち最初の一つ…とても重要なエレメントです」
言い終えると、エルセンはうつむいてぼそぼそとした口調で言った。
「だって、プラスチックがなければ世界は果てがなくなってしまいます。そしたらみんな留まれずに、ずっとどこかを彷徨い続けることになるでしょう」
エルセンはもう一度バッターを見つめ、言った。
「え、ええと…。あなたは…亡霊狩りをしているんですか…? 本当に?」
「ああ。このゾーンを浄化している」
「そう、ですか…。…!! そうだ! ぼ…亡霊ならどこから来ているか、僕知っています…! 連中はみんな、郵便部署からやって来てるんです!」
エルセンは、今までとは比べ物にならないほどの大声でバッターにそう言った。
しかし、バッターは相変わらずの態度でエルセンを見つめている。
「郵便部署?」
「はい。書類の包みを送り出している部署です」
エルセンはそう言ったが次の瞬間には、「あ…いや…でも……」と弱気な声を上げた。
「ただその…困ったことに…その部署がどの階層にあるのか、誰も覚えていないんです…」
それだけ言うと、エルセンは受付の中へと戻って行った。
バッターは、エルセンの後ろにあったエレベーターに歩いて行った。
エレベーター脇の壁には、地下階 00000、一階 00001、屋上 99999とだけ記されていた。操作盤には五つの数字を並べるスロットがある。
バッターは、スロットを動かしてエレベーターに乗り、一階へと移動した。
一階はどうやらオフィスの様で、沢山のエルセンが区画分けされた机に向かっていた。
試しに右手側の部屋に入ると、そこには5人ほどのエルセンがいた。
そのうち、最も近場に居たエルセンに声をかけると、そのエルセンは一言だけ、
「発行 28169階、承認 46429階」
と言った。
発行や承認などという言葉の意味は分からないが、それ以外に手掛かりもない。バッターはエレベーターに戻り、発行と言われた番号をスロットに入れてみることにした。
すると、エレベーターは動き出し、28169階で止まった。
しかし、その階層でもエルセンたちは意味不明な数字を口にするだけだった。
バッターは何も言わず、一階へ戻った。
それからバッターは少し悩んだ末、一度屋上に行ってみることにした。
スロットの屋上行きの番号を入れると、エレベーターは動き出した。
数分とかからずに辿り着いた屋上には、ピンク色の空が広がっていた。その一角には、一匹の猫が座っている。
バッターは、猫に近づいてみた。そのにやけた顔と体つきには覚えがあった。
ジャッジだ。
ジャッジはバッターを気づくと、にぃっと笑みを深くして言った。
「やれやれ! また君か? 全く、君はどこにでもいるのだな。私を付け回していると思われてもおかしくないぞ」
ジャッジは鼻を鳴らすと、今度は少し真面目な声音で続けた。
「とはいえ、君の足取りは間違ってはいない。むしろ、大正解と言える。君はまさに、その聖なるバットの崇高な一撃を必要とする場所にいるのだからな」
ぐるる、とジャッジの喉が鳴る。ジャッジは気にせず続けた。
「ひょっとするともう気づいているかもしれないが、郵便部署が入っている階は霊的存在で溢れかえっているそうだ」
前足で地面を叩きながらジャッジは再び口を開く。
「奴らを迅速に処刑したいと言うなら、実体無き異形どもの巣食う階層を至急に探し出すのが賢明だろう。いやしかし、君の偏狭な頭には難しすぎる仕事かな?」
ジャッジは身をよじりながら、にやにやとした顔でバッターを見つめた。
「もしそうだと言うならば、いくらか助言してやることもやぶさかではないがね…」
「よければ教えてもらえるか」
バッターは、にやにや顔のジャッジをいつも通り見つめたまま言った。
「…君にしては意外に素直ではないか。…まあいい。耳を澄ませてよく聞くことだ。後でどれほど哀れっぽく嘆願されても、二度は繰り返さないからな」
ジャッジは大きく息を吸って、吐いた。それからバッターを見つめて口を開いた。
「一階にある四つの部屋だが、そのうち一つだけ、どの従業員も特定の組み合わせからなる指示のみを繰り返している部屋がある。その上で選択するならば、私は大きい数字より、むしろ小さい数字を好ましく思うだろうな」
はあ、と聞こえるほどの大きさで息を吐いたジャッジは、「これで全部だよ」と言うと、早く行け。と言いたげな視線をバッターに送った。
バッターはエレベーターに乗り込んで一階へ向かうと、もう一度全ての部屋のエルセンに話しかけ始めた。
すると、とある法則が見えた。
3つの部屋のエルセンは全員、五桁の番号を二つ口にしていた。だが、エレベーターから見て右斜め前の部屋のエルセンだけは、発行番号だけが四桁だった。
そのエルセンが話していたのは、「発行 2584階 承認 10258階」
バッターはエレベーターへ向かっていくと、スロットの桁と合っている番号――すなわち、10258をスロットに入れた。
エレベーターはいつも通り動き出したが、止まった階層はいつもと様子が違っていた。
勤勉そうに働いていたエルセンたちは見る影もなくなり、その代わりに段ボールの山がそこら中に乱立している。
何よりその階層全体が、バッターを押しつぶそうとしているかのような重圧を放っているのだ。
「…誰もいないのか?」
バッターは辺りを見回しながら言った。
だが、その声に反応するものはいなかった。
部屋は、エレベータのある中央と左右に分かれていたが、右側の道は段ボールで塞がれていたため、バッターは左側の道を選んで進んだ。
左の部屋には、上階へ向かう階段は一つだけ設置してあるだけだった。
バッターが段ボールをかき分けて進むと、階段から一人のエルセンが下りてきた。
「・ ・ ・」
「俺はバッターだ。亡霊たちはどこにいる?」
バッターがエルセンに向けて聞くが、エルセンはじいっとバッターを見つめるだけで、何の声も発さずにそこに立っている。
バッターもエルセンを見ていると、唐突にエルセンが口を開いた。
」・・・す・・・ごく・・・こわいぃ・・・「
瞬間的に、エルセンの目がぎゅるりと反転し、首をがくがくと揺らしながら、口から黒い泡を吐き出した。
ゾンビの様に両手を突き出してこちらに向かってくるエルセンに、バッターは思わず反射的にバットを抜いた。
」・・・た す け て「
エルセンがそう言った瞬間、ぷつりと糸が切れたようにエルセンの首と足がだらりと垂れ、エルセンの体が地面にへたり込んだ。
バッターは、そんな彼の横を通り過ぎ―ようとした。
バッターがエルセンの横を通過した瞬間、いきなりエルセンの首から上が胴体から勢いよく吹き飛んだのだ。
その首とすげ変わるかのように、真っ黒い液体がエルセンの胴体から噴き出した。
エルセンの体が再びすっくと立ち上がり、バッターに殴りかかって来た。
バッターはその腕をバックステップで躱すと、目の前の異形――バーントへバットを突き付けた。
「…哀れな従業員よ。裁きを受ける覚悟はいいか」
コメント
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読み終わりました!今回も独特な世界観がしっかり見えてきて面白かったです。液体プラスチックでできた海や湖、そしてプラスチック管理局の仕事内容——「世界の果てをなくす」ためのエレメントって設定がすごく好きです。エルセンがたくさんいる中で、発行番号が四桁の部屋だけ違うという気づきのシーンは、推理ものっぽくてワクワクしました。バッターがジャッジの助言を素直に聞くのも新しくて、思わずにやり。最後のバーントとの対峙、めっちゃ緊迫してて続きが気になります!