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#現代ファンタジー
るるくらげ
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第2章 第24話
「宿命邂逅」
「ーー双呪でしょ」
その一言は、焚き火の揺らめきよりも鋭く、夜気よりも冷たく、まっすぐアクラの胸を刺した。
心臓が止まりそうになった。
鼓動が一瞬、確かに空白を作った。世界が切り取られたように静まり返る。耳鳴りがして、焚き火の音が遠のく。血が逆流するような感覚。指先から温度が抜け落ちていく。
なぜそれを知っている。
アクロウとなのる少年はマントを脱ぐと、人間とは思えないほど白い上裸の姿がみえた。布が落ちる音がやけに鮮明に響く。焚き火の橙がその肌を照らすが、温かみは一切ない。炎の色を受けてもなお冷たい白。生気のない白。作り物のように整った輪郭。
そしてーー影が伸びる。
背後に揺れる細い尻尾。静かに、楽しむように揺れている。腕から先は闇を固めたような黒。それは装飾ではない。皮膚そのものだ。
「お前…!!さては…魔族…だな…!?」
喉が震える。だが剣は握り直す。震えを誤魔化すように強く。
「ごめんね。騙してた訳じゃないけど…僕たちは今から君を殺さなきゃいけないみたい」
声は変わらない。優しい。柔らかい。だからこそ、ぞっとする。
また悪意は感じられない。まるで誰かに指示されたかのような行動。自分の意思ではなく、ただ“役目”を果たすだけの声音。
「こ、殺す…?おいまて。”僕たち”…?」
森の奥が、わずかに軋む。風ではない。重い何かの気配。木々の間に、見えない圧力が満ちる。
そのとき。ジャメラポムの一言を思い出した。“魔族はよぉ——匂いで追う”
それって、こいつのはぐれた仲間も、アクロウの匂いをたどって来てるってことじゃ……
背筋を冷たいものが這い上がる。遅い。気づくのが遅い。
「まてよ…!何が目的なんだ!この間の魔族も…お前らが原因か!? 」
「ボルムのこと?そうだよ〜 リッパーがボルムに命令したの」
軽い。あまりにも軽い。人の死を語る声じゃない。
ーー話を聞く限り、リッパーとかいうやつが親玉みたいだ。
「なんでかっていうとねぇ〜 お兄さんみたいな双呪の血がほしいんだ」
双呪の血。素材。資源。“人”ではない。
「だから…何のためにだよ!」
「それは言えないよぉ リッパーに怒られちゃう」
リッパー。その名を口にした瞬間、森の奥の闇が濃くなる気がした。圧が増す。
そうだ。多分そのリッパーとかいうやつは間違いなく強い。ここに来ればアクラは殺されるだろう。
ーーそうなる前に…!!
「わっ!にげた!」
アクラは火を投げ捨てて森の奥へ走った。火の粉が闇に散る。月明かりが頼りない。
足の速さなら自信がある。
「追いつけるもんなら追いついてみろよ…! 」
奥へ奥へ。枝が頬を裂き、肺が焼ける。呼吸が荒くなる。
少しの月明かりを頼りに暗すぎる森を走る。
逃げ切ることを。あわよくば校舎にたどり着けることを祈りながら。
しかしその刹那。
空気が裂ける。
アクラは絶望へと叩き落とされる。
殺気を感じ即座にしゃがみ込むと風を切る音が目の前から聞こえるのと同時に目の前の木がなぎ倒されていた。轟音。木屑が舞う。
斜めに、滑らかに、断ち切られた幹。人間業ではない。
「……は?」
音を立て倒れる木の向こうから現れたのは白いローブに灰色の肌。小柄な体格には不釣り合いな程のサイズの大鎌。刃は月を映し、鈍く光る。
そして血のように紅い瞳をした、死神のような魔族が立っていた。
森が静まり返る。
「覚悟しろ。オレは貴様を殺しに来た」
冷たく残酷な一言が響き渡った。
夜が、完全に味方をやめた瞬間だった。
「なんなんだよ…!!すぐ殺すとか…お前ら…… 人の命を軽く見すぎなんだよ…!!!」
声は怒りで震えている。だがその奥には、恐怖も混じっている。
「綺麗事ほざきやがって…だからヨムロ界人は嫌いだ。反吐が出る」
その魔族ーーリッパーは苛立ってるように見えたが少し口元が歪んでいる。怒りの奥に、別の感情が滲む。
「お前ら…何者だ…!!おれの血が欲しいらしいな…!!」
「チッ…アクローのやつめ。余計なことを」
「答えろ!!」
「黙れ。オレらだけの復讐に貴様らを利用するだけだ」
利用。その言葉が、胸を抉る。
「はぁ…?お前…おかしいぞ。じゃあおれらには何の恨みもねぇってことだろ!」
「そうだ」
即答。
ーーじゃあ…一体なんのために村のみんなや ジャメラポムはーー
「リッパー…とかいったな。…まじで。お前だけは許せねぇ…!!」
怒りが爆ぜる。
体は勝手に動いていた。地面を蹴る。
かつてないほどのスピードで接近し、剣を振り上げる。
リッパーはよけ、大鎌を振りかざす。風圧だけで頬が裂ける。
アクラはリッパーと目を合わせられなかった。死神のような冷たい瞳は常に殺気を放っていて、見ているだけで圧倒されそうだったからだ。
「はっ!!!」
とにかく素早く攻撃する。連撃。間合いを詰める。
刃物の交わる音が夜空に響き渡る。火花が散る。
自分でもビックリするくらいの俊敏さで動けていた。
「貴様…図に乗るなよ…!」
リッパーは大鎌が不利だと判断し、即座に投げ捨て、彼自身の魔術で剣をつくった。魔力が凝縮し、刃を形成する。
彼の攻撃は力強かった。重い。鋭い。
背丈ではアクラのほうが高いはずなのに、リッパーのほうが筋力、技術力において、優れていた。
「貴様みたいなのが双呪に選ばれるということは”ネクロア”の仕業だろうな」
リッパーは攻撃を繰り返しながら口にする。
「あの紫ヤローか…!お前のボスかよ!」
アクラも息を切らしながら言う。
「違うな。オレは組織じゃない」
ーー!?
そして一瞬油断したアクラは足を蹴られる。体勢が崩れる。
「うぐっ…!! このっ!! 」
負けじとリッパーの顔目掛けて下から上に剣を振るも、かすり傷しか与えられなかった。
「すごいね〜 魔族の弱点 知ってるんだぁ!」
焦る様子もなく森からアクロウが現れる。楽しそうに。
ーー最悪のシナリオ。2対1だ。
「リッパー、手伝おうか?」
「いい。死闘は1体1で決めるものだ」
その意地が、なにか人間に近いものがあって気味が悪い。
リッパーの顔をよく見ると傷の治りが遅い。まだ血が出ている。
「双呪じゃない人が僕の血を飲んだら 体の水分が一気に外に出ちゃうんだけど……」
ーー例外。
それが判断材料なのだろう。
「知らなくていい。どうせ貴様はここで死ぬ」
殺気が増す。
「いいのかよ!アクローがなんか言ってるぜ?」
「貴様…!その呼び方をするんじゃない…!」
怒気が走る。
そしてリッパーは大きく剣を空にかまえ、振り落とす。
アクラは剣でガード…したが剣が真っ二つに割れてしまった。乾いた破断音。
「その名で呼ぶのはオレだけでいい」
衝撃で吹き飛ぶ。
「痛ぅッ……!!」
視界が揺れる。
リッパーはアクラにトドメをさそうとしているのか、魔術をだそうとしている彼の剣が紅いオーラで包まれ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
アクラは即座に体制を立て直し折れた剣で闘志を燃やす。
「ねぇ…ほんとに殺しちゃうの?」
「当然だ。バグラドの野郎をぶち殺すには双呪が必要だとヴァレンも言っていただろ」
バグラド…ヴァレン…また知らない名前だ。
「そ、そうだけどさぁ…」
「まっていろ。すぐに終わる」
「こ、殺されてたまるかよ!!!」
不思議とボルム戦の時のように疲労で動けなくなっているわけではない。むしろエネルギーが有り余っていた。
「雑魚が…!!」
リッパーが足をはやめたそのとき
5つの氷の結晶がリッパーに向かってきた。空気が凍る。
リッパーは回避し、結晶は地面に突き刺さる。
「だれ!?」
アクロウが叫ぶ
「て、てめぇ…!」
また、またお前が…!
「貴様か。ボルムを殺しやがったやつは」
冷たい声が森を裂く。
「離れていろ。俺がやる」
霧雪ゼグレ…月光を背負って立つその姿。
おれはまたお前に貸しをつくるのか…!?