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そして、深夜──。
金原は熱を出す。
龍が酒井医院へ走って、八代の仕業か?夜中に叩き起こしやがってと、ぶつぶつ文句を言う酒井を連れて来る。
「氷で冷やすのが一番だけど、夜中に、氷なんて用意するのは無理な話だからさ、熱冷まし出しておくよ。若奥さん、後で飲ませてやりなさい。というかねぇ、何で、動き回ったんだよ」
診察が終わった酒井は、枕元に座る櫻子へ指示にしてはキツイ口調で言った。
「動き回ったって?先生どういうことです?」
額を冷す為に、手拭いを浸す水を持って来た、お浜が不思議そうに言う。何よりも、櫻子への口調に不満があるようだった。
「いや、だからさぁ、お浜さん、怪我してる時にって、話よ。まあ、新婚さんだからねぇ。良くある話ではあるんだけどさ」
金原が熱を出したのは、何かの加減で傷口が少し開いたのが原因だろうと、酒井は、チラチラ櫻子へ視線を送った。
「へ?何かって?」
廊下で控えている龍が、首を捻り、お浜も黙りこむが、一瞬の間の後、二人して叫んだ。
「あーーーーっ!!社長!!!!」
「キヨシ!!!!そーーーーゆーーーーことーーーーっ?!」
お浜は、勢い手を滑らせ、水の入った、たらいをぶちまけた。それは、龍へ、まともにかかる。
龍は、頭から水を被ってしまうが、二人は、お構いなしで、弾けきった。
「お浜!赤飯の用意だっ!!」
「え?!龍?!赤飯、なのかい?!」
「祝い事だろっ!!」
「いや、まあ、祝い事、ではあるけど、この場合、赤飯なのかねぇ?」
「子供ができたら、赤飯炊けばいいだろう?」
酒井が、面倒臭そうに言った。
「子供ーーーー!!!」
お浜と龍が、再び叫ぶ。
「何、二人で、抱きあってんだ?診察は終わった。帰らせてもらうよ」
酒井は、櫻子へ薬を渡し、水浸しの廊下と、抱き合い弾けているお浜と龍を見た。
「あっ、若奥さん、心配ご無用。こんなこともあろかとね、人力待たせているから」
何事も控えときなさいよ、と、意味深な捨て台詞を吐いて、酒井は、帰ったが……。
「なんなのよ!何時だと思ってるのっ!!」
寝巻きの上から肩掛けを羽織った珠子が、不快極まるといった表情で現れる。
「騒がしくて、眠れないわっ!」
「あっ……ごめんなさい。珠子さん。旦那様が、お熱を出して……」
とっさに、櫻子が珠子へ詫びを入れたが、旦那様、という響きに、珠子の眉がピクリと動く。
「……自分だけ!なんなのっ!!」
珠子の激高に、櫻子は、結納の席の情景を思い出した。あの騒ぎ。高井子爵家は、正式に破談を申し渡して来るはず。それを珠子も、重々わかっている。だから、苛立つのだろうと、櫻子の心情は複雑だった。
果たして、自分は、口を挟んでよいものか、珠子へどう声をかければ良いものか、櫻子は、戸惑いに押され、俯いた。
1,983
#宵待ち亭
#夢