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「あっ、迅くん」


なかなか彼が戻って来なくて、強引に店員さんに服を勧められている時だった。

彼が戻って来てくれた。


けど、なんか表情が一瞬険しかったような……。

やっぱり仕事でなんかあったのかな?


「ごめん。お待たせ」


私には普通に接してくれたけど。


「仕事、何かあったの?」


「大丈夫。亜蘭に指示出して対応してもらうようにしたから」


無理、してないかな。


ふとそんなことを考えてしまった時――。

「美月。それ、可愛いじゃん。ロングスカート」


「えっ、ああ。うん。ありがとう」


「お似合いですよね、私もずっと勧めているんですが、彼氏さんが居ないと決められないみたいで……」

店員さんが話に割って入る。


「じゃあ、それお願いします」


「ええっ!ちょっと!」


「いいじゃん。《《俺が気に入った》》んだから。美月、次も着てみて?」


彼のペースに引き戻された私は、続けて試着することに。


いろんな洋服を着れるのは楽しいけど、疲れちゃった。


そんな私の様子がわかってか

「これで大丈夫です。お会計、お願いします。美月は着替えてて?」

私が着替えているうちに彼が会計を終えてしまった。


「ね、迅くん!お会計っ!」


「あー。腹減った。ご飯食べに行こ?」


「へっ?」


「美月、腕?」


腕を組め……ってことだよね。

大きなショッピングバッグを持っているのに、重くないかな。

《《彼の指示》》に従い、歩くしかなかった。


「さっきのショップ、うちのサブスクサービスと提携しているところなんだけど。デザインは可愛いけど、店員の教育がダメだったな」

なんてシビアなことを言いながらも

「腹減ったぁ。美月、何食べたい?」

なんてことを言う迅くんは、本当、《《社長》》の時とはかなりのギャップだ。

それが面白くて笑ってしまった。


結局食事は迅くんオススメのイタリアンレストランに行くことになった。

ランチタイムを少し過ぎた時間だったが、混んでおり席が空くのを待つことに。


「ごめん。事前に何食べたいか聞いて、予約しとけば良かった」


「ううん。待つこと、別に嫌じゃないし。迅くんと一緒なら全然。こんな時間も楽しいと思う。ゆっくりメニュー決められるし」


二人で過ごす時間が幸せだから何とも思わないのに、彼は謝ってくれた。


「あぁ。マジ、今すぐ抱きたい」


「はぁ?」


やっぱり素直に言わなきゃ良かった。

少し後悔をしながらも、いつもの彼の様子に何も疑うことはなかった。


イタリアンレストランで食事を済ませた後

「どこか行きたいところある?」

車の中で迅くんに訊ねられた。


プラネタリウムにも行ったし、ショッピングも楽しかった。

洋服を選んでもらうことなんて初めてだったし。


「迅くんとならどこでもいい」

任せてしまう発言になっちゃったかな。


「本当?」


「うん」


「じゃあ、美月。今日、うち泊って?」


うちってあのアパート?


「うん。いいよ」


「俺、やりたいことあるんだ」


なんだろう、迅くんのやりたいことって。

荷物を取りに私の泊っているホテルへ寄ってもらった。


車に戻った私に彼が一言

「ね、お願いがあるんだけど……」


「迅くんからのお願い?」

嫌な予感半分に聞いてみる。


「夕飯、美月の作った飯が食べたい!」


夕ご飯!?なんだ、そんなことか。


「いいよ。スーパーとか寄ってくれる?迅くん何食べたいの?」


「マジ!?嬉しい」


子どもみたいに笑う彼に思わずホッとしてしまう私がいた。

スーパーへ寄ってもらい、迅くんからの<和食>という宿題に少しだけ悩みながらも彼のアパートへ帰宅。

冷蔵庫に買ってきた物を入れ、二人でベッドの上に座った。


「なんかあっと言う間だよな。こんなにプライベートが充実してるって初めてかも」

天井を見上げながら彼がふと呟いた。


「そんな、大袈裟だよ」


そんな言葉をかけておきながらも、私もこの時間がとても幸せすぎて。

孝介から支配されていた時間がずっと前のように感じられた。


「私、夕ご飯の下準備してくるから、迅くんちょっと休んで?疲れているでしょ。運転もしてもらったし」


いろいろ作ってあげたいと思うけど、コンロが一つだし、古いアパートだからキッチンも広くはない。

何品か作るだけで結構時間がかかりそう。


「ありがとう。んー。そうだな。ちょっと横になる。何かあったら起こして?目が覚めたら美月が居なくなってるってこと、ないよな」


「一人でどこかに出かけたりしないし、大丈夫だよ」


ベッドに横になっている迅くんの髪の毛をサラっと撫でた。

髪質、柔らかいな。

私の様子にフッと笑い、彼は目を閉じた。


睫毛長いな、相変わらず綺麗な顔。


さて、喜んでもらえるようなご飯を作らなきゃ。


「迅くん!そろそろ起きて」


「んっ……。うん。あー。俺、何時間くらい寝てた?」


彼が部屋の中の時計を見た。


「っ!マジッ!?七時すぎてんじゃん。ごめん」


時間を知った瞬間、上半身をバッと勢いよく起こした。


「ぐっすり気持ちよさそうに寝てたから、そのままにしてた。休みなんだもん、たまにはゆっくりしても良いと思うよ」


「美月と一緒に過ごせる時間なのに。なんか損した気分」


口をへの字に曲げ、ムスッとした表情を浮かべる彼はなんだか子どもみたい。




夕ご飯、喜んでくれるかな。

ちょっとだけ不安を感じながら、小さなテーブルに作った物を並べていく。


「すごいな。マジ感動」


迅くんはすでに<いただきます>を準備しているかのように手を合わせている。


「本当にこんなので良かった?」


「あぁ。理想」


二人で

「いただきます」

そう声を揃える。


彼が一口、お味噌汁を飲んだ。

口に合うかな?

ドキドキしながら彼の顔色を伺う。


一旦、箸を置く彼。


えっ?どっちなんだろう?


「ヤバい、美味い」


良かった。少し息を吐いてしまった。


「良かった」


「これから毎日美月の料理が食べられるかと思うと、普通に嬉しい。あっ、言ってなかったけど、ハウスクリーニング終わったから、明日もう引っ越しだからね」


もうっ?また急な話だ。


「もう終わったの?明日引っ越しって!聞いてないよ」


「ごめん。忘れてた。でも、イヤなの?」


先ほどまでとは違う彼の鋭い眼光がイヤなんて言わせてはくれない。


「イヤじゃないよ。心の準備ができてなかっただけ。いつまでもホテルってわけにはいかないし。ごめん。感謝しなきゃいけないのに」


「毎日、朝美月が起こしてくれて、夕ご飯も作ってくれて、夜は隣に居てくれるなんて。夢のようだな」


はい?待て待て待て。

夕ご飯は作るって言ったけど、朝と夜のことは聞いていない。

それじゃあ、同棲しているようなものじゃない!?


「ねっ!迅くん、そんなこと言ったっ……」


「あー。美月のご飯、美味いなー」


全然聞く耳を持たない。

はぁ……。

ここで反抗しても、また言い包められるだけだよね。


彼と一緒に居たいって思ってしまった時から、こうなるって理解しておかなきゃいけなかったかも。

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