コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
黒檀の家具で揃えられている部屋――。
その上座。
仰々しい屏風と二脚の椅子が目につく。
椅子の後ろでは、女人を象徴する紅色の牡丹の花が、花弁をあますことなく広げている。
ジオンの命で特別に描かれたものだ。
うつろな様子のミヒへ、卓上に夕餉を並べているユイがやさしく声をかけた。
「ウォル様も、そろそろお越しになりますよ」
うんと小さく頷きながら、ミヒはあくびをかみしめた。
「あらあら、本当にお目覚めが悪いようで。何も、無理にお起きになる必要はなかったのに。屋敷にいるのは、気のおけない者だけなのですから……」
燭台《しょくだい》に明かりを灯しながら、ユイはくすりと笑う。
今、屋敷には、ユイに料理番、あと数人の下男しかいない。
気心しれた者だけを残し、他の者達には休みを与えていた。
侍女達は、好奇心おおせいで噂話が欠かせない。
王の婚礼は格好の餌食となり、ここのところ、気もそぞろで仕事も手につかない有様だった。
ミヒにいらぬ気苦労をかけてはと、ウォルが皆に、休みを与えた為、お陰で屋敷は静まり返っている。
「……いやな夢をみたの」
「また、いつもの夢を?」
ミヒの呟きに、ウォルの声が問いかけてきた。
ミヒは慌てて入り口に目をやった。
「まあ、ウォル。なんだかいつもと感じが違う」
「少し蒸すからね。衣を変えてみたのさ」
「紗《うすぎぬ》の衣とても素敵だわ」
ミヒはうっとりした瞳をウォルにむけた。
燭台の明かりが衣を照らし、空色の生地が光っている。
「それで、また夢をみたんだね?どんな風に?」
「ええ、でも……いつもと違っていた」
口ごもるミヒをなだめるかのように、ユイが給仕を始める。
ウォルは席につき、小さく頷いて、差し出された盃を受けた。
「私ね、誰かに抱き抱えられていたの」
「誰かにミヒが?きっと、ジオンだろう。あの時、ジオンがミヒを抱き上げたから」
「……あの時?」
ミヒは首をかしげてウォルを見た。
何気に発してしまった言葉に、ウォルは顔を曇らせる。
「私は夢の話をしているのよ?」
「ああ、そうだったね。ミヒの見た夢の話だった。暑さのせいでなんだか、おかしなことを言ってしまったようだな」
注がれた酒を口に運びながら、ウォルは言葉を濁した。