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現場での仕事を終えた俊は、自由が丘へ移動した。


自由が丘には大学時代の旧友がいる。

その友人は自宅をカフェにして夫婦で経営をしていた。

カフェを開く際は俊が色々と相談に乗り、セルフリフォームの際は手伝いにも来た。


閑静な高級住宅街の一角に友人のカフェはあった。


カフェには二台停められる駐車場があるが、今日はどちらも埋まっている。

俊は仕方なく50メートル程離れたコインパーキングへ車を停めた。


カフェを営んでいる真田信一は俊の大学の同期生だ。

進一は大学を卒業を教師をしていた。しかし40代で身体を壊して闘病の後、教師は退職した。

そして今は妻と二人でカフェを経営をしている。


雑貨の町として有名な街の閑静な住宅街にあるこの立地は、カフェにはもってこいだ。

進一が淹れる美味しいコーヒーと、味わいのあるお洒落な外観が人目を引き、

カフェの評判は口コミでどんどん広がりあっという間に主婦達の人気店となった。


この店は元々は信一の実家だった。

信一の両親がマンションに移り住んだのを機に、信一がこの実家を受け継いだ。


水回りや厨房などの改装は業者に頼んだが、外壁のペンキ塗りや店内の床貼り、

そして壁の漆喰塗りなどは全て夫婦とその友人達で手掛けた。

もちろん俊も手伝いに来た。

素人が手掛けたリフォームは、多少粗い部分もあるがそれが返っていい味わいを出している。

この店に来る客は、そういうホッとした癒しのようなものを求めているのかもしれない。


俊は久しぶりに訪れるカフェのミントグリーンの外壁を微笑んで見つめると、店内へ入って行った。



「いらっしゃいませ……おうっ、俊じゃないか! どうしたんだ急に」

「久しぶり。いや、ちょっと信一のコーヒーが飲みたくなってさ」


俊は笑顔で挨拶をする。

店にはテーブル席が8つとカウンター席が4つあり、その8割ほどが埋まっていた。

客層は20~50代、ほとんどが主婦層だった。


店内には信一の妻・真知子が選んだ雑貨類がセンス良く飾られている。

オープンした当初よりも雑貨が増えているようだ。

そして天井からはドライフラワーがぶら下がっていた。


信一はニコニコしながら俊の傍まで来ると言った。


「俺のコーヒーが目当てで来るような奴じゃないだろう? なんかあったろう?」

「ハハッ、バレたか!」


俊も笑う。

そこへ信一の妻・真知子も出て来た。


「あらぁ俊さんいらっしゃい! どうしたのぉ? 今日はお仕事で?」


妻の真知子も同じ大学の同期生だったので俊も良く知っている。

信一と真知子は大学で知り合って交際した後結婚した。


「真知子さんどうも! 今港区の案件をやってるんで帰りに寄らせてもらったよ」

「港区からわざわざ? それはありがとう。さ、座って」


真知子は空いているテーブルへ俊を案内した。


「それにしても、相変わらず繁盛しているね」

「お陰様で! オープン時に色々アドバイスしてくれた敏腕プロデューサーのお陰かしら?」


真知子は俊をからかうように言った。


「コーヒーでいい?」


真知子の言葉に俊は頷く。


「あなたも座っていていいわよ」


真知子は夫にそう言うと、コーヒーを淹れに奥の厨房へ向かった。


「で、どうした? 何があったんだ?」

「ハハッ、お前には隠し事は出来ないな…」

「女関係だろう? 俺には分かるよ。鎌倉移住だってもうすぐだろう? いつ引っ越すんだ? 予定では来年って言ってたよな?」

「それが少し早まって来週引っ越す事にした」

「マジかよ! なんで急に? 昔から一度決めた予定は絶対に変更しないお前がなぜ? そうか、その女性は鎌倉にいるんだな?」

「ん-まあそんなところかな。でも今日ここへ来たのは店作りの事を聞こうと思ってさ。お前はこの店をほとんど自分達の手で作っただろう? その時の予算が大体どのくらいかかったかっていうのを知りたいんだ」

「なんでそんな事を急に?」

「いや、その『友人』が自宅で店を開くかもしれないんだよ。で、色々調べておこうと思ってさ」

「ふーん、『友人』がねぇ…。まあそういう事ならもちろん協力するよ。だってお前には相当世話になったからな」


信一はそう言って微笑む。


信一は久しぶりに会った俊を見て、いい顔をしているなと思った。

以前のような尖ったところがなくなり、穏やかな表情をしている。

きっとその『友人』とやらの影響なのだろうと思う。


「ちょっと待ってろ。オープンに関する費用を全部記録しているノートがあるから。ちょっと取って来るわ」


信一はそう言って二階の自宅へ向かった。


そこへ真知子がコーヒーとシフォンケーキを持って来て俊の前に置いた。


「どうぞ」

「ありがとう。このシフォンケーキは昔と同じに店に発注してるの?」

「そうよ。でもね、一昨年その店のご主人が亡くなってもう頼めないかなーと思っていたのよ。そうしたら息子さんが店を継いでくれてね、今まで通り持って来てくれるの」


真知子はニコニコして言った。


「実はさ、今度鎌倉で知り合いが自宅カフェを開くかもしれないんだよ。で、信一にその時の事を色々教えてもらおうと思って来たんだ」

「ああ、そういう事だったのね。鎌倉なら立地的にいいじゃない。海も近いし観光する場所もいっぱいあるし」

「住宅街の家なんだけれど、ちょうど切り通しの入口にあるからいい場所なんだよ」

「それは最高の場所ね!」

「だろう? で、店の改装にあまりお金はかけられないっていうからここを参考にさせてもらおうかと思ってさ」

「はいはいうちもお金がないまま始めたからねぇ、きっと参考になると思うわ」


真知子はそう言って笑った。


「この店を作った後に、ここはこうしておけばよかったなーとかいう点ってある?」

「うーんそうねぇ、強いて言うならこの街はペットを連れて来るお客さんが結構多いのよ。うちは店内はペット禁止だから、そういうお客様の為にウッドデッキを作ってテラス席も作れば良かったかなーって今は思うわ」

「なるほどね。今はペット連れでカフェに行く人も多いからね」

「その方は一人でお店をやるの? それともご家族でやるの?」

「とりあえずは一人だね。規模もここよりは小さいと思う」

「そっか。だったら最初から無理をし過ぎないことが大事かも。初めから頑張り過ぎちゃうと続かないでしょう? 最初はシンプルにして余裕が出来たら後から色々付け足せばいいと思うわ。うちだって最初は外注のケーキとコーヒーだけだったでしょう? でも今は信一が調理を学んでサンドイッチやパスタを出せるようになったし」

「なるほど、参考になるな…」


そこへ信一が古いノートを2冊手にして戻って来た。


「これだよ。えっと、こっちがリフォームに関するあれこれだな。これを見ればリフォーム費用の詳細が全部書いてある。あ、ただ、今は建材や人件費がかなり値上がりしているから、これよりももう少しかかると思うぞ。で、こっちが、開店準備に関するものだ。厨房器具や最初に揃えた食器類、家具などのインテリアに関する資金、そしてオープンの際の仕入れ資金等だ。オープン時の店の光熱費なども記録してあるから、大体これを見れば金の流れは分かると思うよ。貸してやるから持って行け」


信一はそう言うと、2冊のノートを俊に渡した。


「いいのか?」

「ああ、今はほとんど見返す事もないからな」

「ありがとう。助かるよ」

「で、いつ頃オープンの予定なんだ?」

「いや、まだ本格的に決まったわけじゃないんだ。ただ、もし彼女がやりたいと言った時にいつでもサポート出来るようにしておきたいんだ」

「おっ、そう言うことか! お前マジなんだな」


信一がニヤッと笑うと、真知子が聞いた。


「えーなにー? 店をオープンするかもっていう人は、もしかして俊さんのいい人なの?」


真知子の言葉に信一が頷くと、


「キャーッ! 俊さんにもとうとう春が来たかぁ!」


真知子が興奮して叫んだので、俊と信一は声を出して笑った。

それから俊が慌てて言った。


「いや、まだ『友人』だから」

「まだってことは、これから変化するのかもしれないな」


信一が茶化すと俊が参ったなという顔をしたので、今度は信一と真知子が声を出して笑った。


「もし彼女が店を開く事になったらここへ連れて来てもいいか? 実際にこの店を見せてやりたいんだ」


俊の言葉に夫婦は顔を見合わせる。

そして二人はニッコリ微笑むと、「もちろん」と言って嬉しそうな顔をした。


夕暮れ時の静かなカフェでは、楽しそうに談笑する三人の声がいつまでも響き渡っていた。

51歳のシンデレラ

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コメント

7

ユーザー

雪子さんの為に友人にカフェのリサーチまで( *´艸`)フフフ♡ 雪子さんが知ったら喜ぶだろうね💕

ユーザー

俊さんの本音が出てきてるんだ。…これからの進展が楽しみです。😄

ユーザー

ふーん『友人』がねぇ🤭 俊さんバレバーレ〜ꉂ(ˊᗜˋૢ)あはははーw やっぱり仕事出来るクールな男って、俊さんみたいに多忙の中でも合間を見つけてちゃっちゃっと必要な所だけキチンと押さえる。無駄な動きはなし!!! 雪子さんとの恋もきっとそうなんだろうな(*˘▿˘)

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