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「弥生よ。なんでだろうなあ……」
妹のお葬式の後、いつもの部活帰りの実家は、色んなものが変わってしまった気がするんだ。でも、急に玄関ドアが開いて、部活から同じ時間に帰ってくる弥生が「ただいまー、今日の空手の部活もしんどかったんだぜ。好きな先輩とは相変わらず進展なしだしな」とか、愚痴を言いながら、食卓へ向かって行く姿が目に浮かんだ。
けど、気性は優しくて、友達想いで、だけど、学校では不良とよく間違えられていた弥生は、もう玄関ドアからは二度と帰ってくることはないんだ。
俺はバスケットボールを持って、台所へ行くと、父さんはキッチンの椅子に座って、また下を向いていた。
「……はあ、弥生にも色々あったんだろうなあ……勇気。何度も言うが、母さんのところへ行ってやれよ」
「無駄だって……無理だって……。って、父さんはそればっかだな」
お葬式の時に、お経を唱えていた坊さんが、近所の人達が集まっている庭で、一人しんみりと呟いているのを、偶然耳に挟んだ時から変わってきたのかな。
「なんとも悲しい話だねえ……隣のお寺でいつもニコニコしていた坊さんの。たった一人の息子さんが被害にあったようで。しかも、轢かれた後、しばらくは息があったていうじゃないか、そう確かに病院で聞いたんだけどなあ。ここの家の妹さんはきっと……」
母さんは、俺にすら顔を見せてくれなくなった。まるで、他人を全て遠ざけてしまっているようだ。父さんは父さんで、ずっとふさぎ込んでいるかのように、下ばかり向いている。
庭にいたお坊さんの独り言の中には、きっと、俺の錯覚かも知れないけれど、妹が「地獄へ堕ちてしまったのかも知れない」という言葉があった気がした。俺はそれを聞いて、居ても立っても居られなかったんだ。
だけど。
俺はそんなはずはないよ。
妹は事故を自分から起こすような奴なんかじゃない。
だから、今でも思っているんだ。
妹は何かの事件に巻き込まれたんだ。
そう、冤罪だと思った。