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第24話「教室の真ん中にいた泡」
登場属性:澄属性・潜在型生徒
テーマ:気配の希薄さ、自己認識と“いること”の意味
登場人物:
ネリ=スイ(澄属性・生徒)
青みがかった灰色の髪をひとつに結い、制服の袖は長め。肌は透けるように淡く、瞳は泡のように光を反射するが、誰もそれに気づかない。
歩くとき、音がしない。声も小さく、手も上げない。
けれど、出席は毎回、きちんと“ある”。
3年波域2組──
今日も朝のホームルームが始まった。
教卓に立つ担任が、出席を読み上げる。
「アマリ=レイ。」
「ハイ。」
「セナ=トリオ。」
「はい。」
……。
だれも、ネリ=スイの名前を呼ばない。
けれど、彼女の波域手帳には、今日のページがある。
> 「きょう:0人と話した。
教室にいた。泡があった。」
ネリは「澄属性」の中でも、**極端な“潜在型”**だ。
共鳴が微弱で、変質も起きにくく、声も届きにくい。
先生にもクラスメイトにも、「いたの?」と驚かれることがある。
教室の真ん中。空席に見える席に、ネリはちゃんと座っている。
教室がざわつく昼休み。
空席を使おうとした別の生徒が、一瞬、指を止める。
“泡”の気配に、触れたのだ。
それは、ほんの一瞬だった。
その生徒は笑って言う。「あれ?誰の席だっけ。ま、いっか。」
ネリは静かに目を伏せる。
でも、今日の手帳には、こう書いた。
> 「気配が、すこしだけ、ふれた。
0.1人と、つながった。」
廊下の水槽の前。
非常勤講師のシオ=コショーが、その手帳のコピーを読んでいる。
「気配の泡も、潮の流れで溶けていくからなぁ」
彼は静かに独り言をつぶやく。
「でも、それが“いる”ってことだ」
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