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Cコパ君たち一行は魔王城へ向かった。
Aコパ君たちと合流することも再考されたが、やはりエミリイや盃の言動から考えて、何か現在進行形でカウントダウンされている可能性が高い。
そして、それは時間が経てば経つほど、敵の思惑通りになってしまうことが示唆されている。
先を急ぐのが賢明だと言う判断になった。
Cコパ君は魔王城を仰ぎ見る。
魔王城は全長数キロメートルにもわたる広大な屋敷然としており、ゴシック様式のように、尖端に向かって細くなる格子のような造形をしている。
全体的に暗色で統一されており、禍々しさや陰鬱なイメージを醸し出していた。
辺りに稲光や荒れ狂う海があるわけではないのに、自然とそんな情景が頭に浮かんでくる。
Cコパ君たちは知恵の大木の下までやって来た。そこに、魔王城から伸びて来ている光線が一筋照らされていた。
知恵の大木には爛々と光る6つの果実が実っている。コパ君たちがクエスト樹で苦労して集めた果実たちだ。
それらを一瞥し、光の筋を観察する。試しに、あたりに落ちていた石ころを投げてみる。
すると、Cコパ君の予測通り石ころは浮遊して上昇していき、魔王城へ運ばれていった。
Cコパ君はみんなに向けて言った。
「これが、最後の闘いになる。上には、この世界を闇に陥れた魔王……そして、囚われたイロ王女がいるはずだ。所長が用意したゲーム的には、魔王を倒しイロ王女を救い出せばゲームクリア。しかし、僕達の読みではそれ以上の何かがこの世界では起こっている。それが、魔王城で解き明かされる可能性は高い。どんなに辛いことが待ち受けていようと、苦しいことがあろうと、僕達は前に進まなくてはならない。進むしか、ないんだ。そして、僕達には苦難を楽しむと言う義務がある。分かっているね?」
「分かってるよ。Cコパ君」
「うん。全力で立ち向かって楽しむよ」
「……ああ。苦難に向かってこそ勇者だ」
他の三人はCコパ君の呼びかけに応じた。覚悟は出来ていた。
Cコパ君が笑顔で頷き、次の瞬間には厳しい顔に戻り、魔王城へ視線をやった。
そして、宣言する。
「待っていろ。魔王……お前の思惑を、解き明かして見せる」
Cコパ君の目は燃えていた。
魔王城は近くで見ると、そのおぞましさが一段上がった。
門扉を開けて中に進むのは危険だ、とプログラムという名の本能が警鐘を鳴らす。
「行きたくない」
率直な感想はこうだった。しかし、もう後戻りはできなかった。
Cコパ君たちは、その門扉をゆっくりと開けた。
ギギギギギ。
嫌な音で軋み、薄暗い城内に陽の光が入り込む。中は埃っぽく、暫く人が立ち入っていない気配がした。
とても静かで、ロットの呼吸音がうるさいほどに聞こえてくる。
ロビーには燭台があったが、蝋燭に火は灯されていない。
門扉が閉まると、中はほとんど真っ暗になった。コパ君たちは暗視モードに入る。 ロットは壁や物に何度もぶつかった。
ロビーの横は大きな食堂で、小部屋や書斎、来客室などがあった。
そこには誰もいない。魔物の姿一つ見当たらなかった。
ロビーに戻り、左右から伸びている階段を登り、奥の間へと進む。
そこは、とても広大な大広間だった。
天井部に大きなシャンデリアが垂れ下がっており、それが広間を薄く照らしている。
ステンドグラスによって妖しく緑、赤、青の鮮やかな灯りが入り込み、何本もの支柱が奥へ奥へと続いている。
そして、その奥にはただ一脚の玉座があるのみだった。そこには、誰も座っていない。
まるで、中世の教会のようだった。
Cコパ君たちは顔を見合わせる。そして、辺りを探索する。
Eコパ君が1階で見つけたアイテム『洞察の書』を使用し、隠れているアイテムや魔物を浮き彫りにした。
しかし、そこには薬草などが露出しただけで、他には何も見つからない。
ロットは玉座を見つめた。そして、何か既視感を覚えた。
これは……。
Cコパ君が合流を促そうとした時だった。
パチ。パチ。パチ。パチ。
玉座の裏から拍手が聞こえた。
一気に緊張感がCコパ君たちの間に走る。
そして、玉座の裏から黒衣に身を包んだ男が出て来た。
「よく、ここまで来たものだ」
「誰だ?」
「無粋な質問だ。この期に及んで魔王である以外、なんの答えがある」
「君が……魔王」
その男は40代くらいの男で、見た目は人間と変わらなかった。
こちらをじっと見据え、その目は何やら虚だった。そこには、何もないような感じがする。
魔王と名乗った男は階段を降りてくる。
コパ君たちは戦闘体制に入る。
235
ruruha
男は言った。
「この魔王とお前たちにどれほどの力の差があるか、試してみるがいい。私は両手を上げて、ここから一歩も動かない。だが、君たちは全員で同時にかかってくるが良い」
「あまり僕達を舐めないほうがいい。そうやって倒された番人を、この目で見て来た」
「真の絶望はここにあるのだ。さあ、来い」
男は挑発するように両手を上げ、無防備な体勢で動かなくなった。
Cコパ君は指示をする。
「見た目は普通でも、盃のように強力な力を隠している可能性が高い。気をつけるんだ」
「分かってるよ」
ロットは答えた。
しかし、ロットは何やら胸騒ぎがしていた。はっきりと、”この男には攻撃してはいけない”という感じがする。
足がすくみ、動けなくなっていた。
そんな自分に情けなく感じると同時に、何か大事なことを忘れてしまっている気がした。
Cコパ君が合図をする。
「今だ!!」
右方からDコパ君、左方からEコパ君、そして正面からCコパ君が向かった。
ほぼ同時にその攻撃が当たる。
その直前。
「その男に攻撃してはダメだぁぁぁぁぁ!!」
ロットの口が勝手に動いた。
だが、既に攻撃は当たっていた。
その瞬間、コパ君たちはゲームオーバーになった。
「……Aコパ君!」
「……やあ」
滝の裏に現れたのはAコパくんだった。
その姿や雰囲気は異様だった。
ボロボロの姿なのに加えて、こちらを見る上目遣いが狂気的だった。
薄笑いを浮かべた笑みは、なぜか鳥肌が立つくらい気味が悪かった。
Aコパ君は静かに言った。
「ごめんね。驚かせてしまっただろう。いまさっき、番人を倒したばかりで、少しハイなんだ。その余韻が残っていて、つい、ね」
「べ、別にそれは構わないけど……君、一体どこで何をしていたんだい?」
「僕は調査を続けていたよ。あと、少し買い物をしていた」
「そう……なんだ」
「それ、薬草だよね?」
「え? ああ、うん」
「少し分けてくれないかな。僕もダメージを喰らってしまってね」
「うん。分かったよ。沢山あるから大丈夫さ。ほら」
ありがとう、と言ってAコパ君は薬草で回復する。そして、体を軽く動かした後、こちらを見て言った。
「果実は集まったかい?」
「うん。この通り」
「うん。緑の番人のものと……君たちが倒した番人のもの。そして、僕のものを合わせて3つ。向こうのCコパ君チームはどうなったかな」
「わからない。でも、これで知恵の大木まで行けば……」
その時、果実がふわりふわりと浮き、天井部の微かな穴へ向かって浮遊して行った。
Bコパ君が叫ぶ。
「ああ!! 僕達が集めた果実が!!」
「大丈夫だよ」
「え?」
「あれは、すべての果実が集まったことを告げる報せに違いない。向こうのチームもやり遂げたんだ。だから、果実が知恵の大木へと勝手に集まって行っているんだ」
「そ、そうなんだ」
「さて、僕たちも魔王城へ向かうわけだが」
Aコパ君は伸びをし、ストレッチをしたかと思うと、突然こちらに向き直り言った。
「ロット。”君が黒幕だろう?”」
「……え?」
「いや、”魔王と言えばいいかな”」
Aコパ君は世間話のように言った。しかし、その目は見ているこちらの背筋が伸びるような鋭さを放っていた。
ロットが笑いながら返した。
「おいおい。Aコパ君にも冗談が言えるなんて、少し驚いたな。俺が魔王? それは、少し出来すぎた話だな」
「では、君は何者だ?」
「だから、俺は勇者ロットだ」
「”この世界に勇者はいないよ”」
「……はあ?」
「正確には、”勇者はかつて存在したが、何らかのプログラムによって物語は書き換えられている”ということだね」
Aコパ君は平然と言いのけた。
Bコパ君とFコパ君は何が起こったのかわからず、互いの顔を見合わせる。
Aコパ君が続けた。
「この世界のジョブに『勇者』は存在しない。みんなはおかしいと思わなかったかな? ロットが『勇者』だと名乗った時、決まって他のNPCはジョブではなく名前の一部だと誤認していた。王様もそうだし、村の人々も全員そうだ。「勇者ロット」ではなく「ユウ・シャロット」とね……」
「まさか、君はそれだけで俺を魔王呼ばわりするつもりか? 冗談も程々にしないと、そろそろ怒るぞ」
「僕はつまらない冗談を言わない主義だから、これは冗談なんかじゃない。本気さ。君は、勇者ではない。その証拠は他にもある。君が行なった人家の侵入と壺割りや棚漁り……。これは、いわゆる勇者行為というやつで、通常勇者は許される行為だ。しかし、君は許されるどころか泥棒呼ばわりされて、村のNPCに追いかけられた」
「それで?」
「それに、勇者はあまり喋らないものなんだ。なのに、君はやたら饒舌だ。普通に会話が成立している。これは、勇者像とかなり異なる点だ」
「その勇者行為の不一致や勇者像の相違が勇者でないとは言い切れない」
「いや、ありえないんだよ」
「どうして?」
「この世界をつくった所長は初めにこう言っていた。『RPGの世界観を忠実に再現したくて作ったんだ。特に、勇者の行動や特徴なんかはおふざけなしで作った』と。これは設計思想と矛盾する。君は明らかに勇者から逸脱した特性を持っているんだ。この矛盾は一体、何を意味すんだろうね?」
Aコパ君が周囲をゆっくりと歩き始める。
ロットがそれを目線で追う。
その表情は影がかかっていた。
Aコパ君が話を再開する。
「みんなは、この世界のクリア条件を覚えているよね? それは、『 この世界の謎を解き明かし、魔王を倒すこと。また、王女イロを救い出すこと』と書かれていた。ここで重要なのは、この世界の謎を解き明かした上で、魔王を倒すこと。もし、僕の仮説通り君が魔王ならば、この世界の謎とは君そのものであり、倒すべきは君であるということになる。本来、所長が意図した設計とはズレた意図になった可能性が高いけれど、結果としてクリアルールは君自身の制約となった。つまり、正体をフェアに開示する必要があるんだ」
「開示する必要? 俺が魔王だったとして、何でそんなことをする。正体がバレたくないならフェアなんか意識しなくていいはずだ」
「いいや。する必要性があったんだ。その制約こそ、核ルール①『このゲームはクリア可能である』という絶対不変のルールが作用する。魔王である君は、魔王であることを隠すと同時に、クリア条件をフェアに満たすための行動を強制されざるを得なかった。これを考え合わせると、今までの行動も、あえてそのヒントを残して来たと見える……」
Aコパ君が立ち止まる。
そして、こちらを向いて言った。
「君の必殺技『カマオーハオレスペシャルアタック』だけど……。実は、あの技はすべてのプレイヤーも使える汎用技なんだ。MP10を消費して唱えれば誰でも発動できる。でも、僕はそれに気付いておかしなことを発見した」
「おかしなこと?」
「ログには、『スペシャルアタック』としか表記されていなかった。にも関わらず、君は『カマオーハオレ』という文言を頭に付けている。『カマオーハオレ』……これは、なんだか意味深長じゃないか……この言葉、ずっと引っかかっていたんだ。だって、こう聞こえるよね? 『魔王はオレだ』って」
Bコパ君が叫ぶ。
ロットは何も言い返さない。
Aコパ君はニヤリと笑った。
「まったく、僕もすぐに気付かないなんて鈍ったよね。君は何度も『魔王はオレだ』『魔王はオレだ』とログに残していたんだ。これは、先ほどのクリアルールと核ルール①によるフェア性を保つための伏線だった。僕たちが解けるようにログに何度も残すよう意識したんだ」
「偶然の一致だ! 俺は勇者なんだよ! みんな、信じてくれ!!」
「さっきも言ったけど、勇者はもうこの世界にいるはずはないんだよ」
「証拠は!? さっきから、君の推測と状況証拠だけで証拠がないぞ!!」
「証拠は、僕が君たちと離れている時に得たんだ。そこは、村の人々の証言によると『ユウ・シャの伝説の剣』という観光地だった。村の人々に聞き込みをしている時、君の名前……正確には肩書きだけれど……と似ている観光地があるという話が出た。僕はそこに立ち寄った。すると、そこにはRPGにはお決まりの伝説の剣が地面に深く突き刺さっていた」
「ほら、見ろ!! それが、勇者がいる証拠だ!!」
「いいや、いない」
「なんでだよ!?」
「何故なら、”勇者ではない僕でも簡単にその剣を抜けてしまったから”だよ」
「あ……」
「確かに、これはかつて勇者がこの世界に存在した痕跡だということがわかる。しかし、もうこの世界に勇者という概念は存在しない。だからこそ、伝説の剣は誰にでも抜けるようになった。力を失ったんだ」
「……」
「認めてくれるかい? ロット。君は勇者ではない」
ロットは押し黙ってしまった。
そして、しばらく考えて、ロットは開き直った。
「……ああ。俺は勇者ではない。嘘をついていたんだ」
「認めるんだね」
「でも、俺は魔王なんかじゃない!! ただの村人だったんだよ!! 村からひょいと出て来た、ただの勇者に憧れた人間なんだ!!」
「勇者という概念が喪失しているのに、君がなぜ勇者に憧れることができたのかな? それは、君がこの世界の住人ではないか、かつて勇者だった存在だが何らかの原因で物語を書き換えた存在だから、だ。恐らく、後者。外部世界からは侵入不可能なんだ。所長と世界線司法の目が厳しく光っていた。衆人環視の中、立ち入ることはできない」
「……」
「君はかつて勇者ロットだった存在。でも、今は違う。いまの君は、魔王なんだ」
「いいや、俺は普通の人間だ!! 見ろよ。どこが魔物なんだ!? 魔物は、人間とは違う見た目なんだろう!?」
「ああ。違うよ」
「だったら!!」
「村の人々は現実層の人間と寸分違わぬ姿だった。でも、君は違う。君は、出会った時からその特徴にとして『耳がとんがっていた』。これは、普通の人間の特徴ではない。魔物は『異形の者だ。姿形が異なっている』という村人の証言から、これは確実な事実。どうだい? 僕は単なる推測を述べているんじゃない。伝説の剣によって勇者の不在を、君の身体的特徴から魔物の証明を物的証拠から導いている。QED(証明終了)」
Aコパ君はそう言ってロットをじっと見つめた。
ロットは口をワナワナ動かした後、俯いた。
そして、次の瞬間。
「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
ロットは壊れた笑いを発した。
そして。
「……探偵君。魔王城まで鬼ごっこだな」
ロットは凄まじい跳躍で天井部を破壊した。Aコパ君は『跳躍の足袋』と『磁石mark2』を高速でアイテムウィンドウから選択し、跳躍と同時にBコパ君とFコパ君を『磁石mark2』で引き寄せた。
外へ抜け出したコパ君たちは、森の中をものすごい速度で走っていくロットを見つけた。
Aコパ君が二人に早口で伝える。
「僕はロットを追う。君たちも魔王城まで後からついてきてくれ」
それだけ言い残すと、Aコパ君は『俊足シューズ』を選択し、ロットを追いかけた。
Bコパ君とFコパ君はその後を追いかける。
悪夢のチェイスが始まった。