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「待て! ロット!」
Aコパ君は高速で移動しながら『爆裂機関銃』を選択し、逃げるロットの背中に向けて発射した。
ロットは盃の能力である『未来視』を使った。
15秒間の未来視とランダムの空白時間という制約を負いつつ、Aコパ君の攻撃を全弾かわした。
そして、近くの木に手をかざす。エミリイの能力『おもちゃゼーション』を使用する。
木々が意思を持ち始め、Aコパ君に向かって根を伸ばす。
Aコパ君は『烈斬刀』を使用し、その根を断ち切る。そして、スペシャルアタックを発動した。
「スペシャルアタック」
Aコパ君はMP10を消費してスペシャルアタックを使用した!
その瞬間、Aコパ君は『烈斬刀』でスペシャルアタックに斬撃を加える。
とてつもない衝撃波が裂くような斬撃をのせていくつも飛ばされていく。
兵隊化した木々は全滅し、そのいくつかがロットの元へ飛ばされた。
ロットは振り返り、緑の番人の『賢者の魂』を発動する。0.2秒の光線が放たれ、斬撃を相殺した。
ロットはまた前方へ向き直り、笑顔で高速移動を続ける。
Aコパ君はロットの能力を分析する。
「今のは緑の番人が核問題時に見せた必殺技だ。ということは、僕がまだ観測していない番人たちの能力をロットは現時点で流用している可能性がある。例えば、未来視……。ロットはコチラを視認せずに攻撃を避けた場面があった。つまり、僕の攻撃の軌道を未来で呼んでいた……さらに、核ルール①の適用により、絶対無敵ではなく、何か制約のある未来視。これは常時発動している可能性が高い」
Aコパ君はそこまで分析すると、武器を『狙い撃ちライフル』に切り替え、ロットの速度と軌道から完璧な偏差打ちを数段発射した。
ロットの元には全弾届いた。
「マジかよ」
ロットはその正確さに呆れつつ、速度を1159キロメートルから128キロメートルに急減速し、その軌道をずらした。
しかし、ちょうどその空白時間に、ロットが避けた場所にAコパ君の弾道があった。
「なんで狙えるんだよ」
ロットはダメージ覚悟の裏拳でその球を弾き飛ばして何とか防ぐことができた。
Aコパ君はロットに21のダメージを与えた!
ロットは急加速し、逃げるフリをした。
そして、その残像をAコパ君に追わせて、ジャックザリッパーの能力『シャドウアウト』を発動し、ぬるりとAコパ君の背後を取る。
と思われた瞬間、Aコパ君は高速で『烈斬刀』を選択し振り向きざまにロットを斬った。
ロットは運悪くまた空白時間に重なったため、ダメージをまともに受けた。
Aコパ君はロットに61のダメージを与えた!
「何でわかんだよクソが」
ロットは一瞬、Aコパ君も『未来視』を使えるのを疑った。しかし、Aコパ君はロットの策略を分析によって見抜いていたのだった。
ロットはやむなく撤退し、高速でまた先回りして迎え撃ち、マク=ロイの能力『天の裁き』を発動した。
天空から稲光がAコパ君を打ちつける。
Aコパ君は『ゴムの盾』に切り替え、防ぎきれない攻撃を受け、稲光のコンマ数秒の間隙に『蒼穹の弓』に切り替え、能力発動中のロットに打ち込み、また『ゴムの盾』に切り替え、そのすぐ後に『蒼穹の弓』に切り替え……というループを行い、能力発動のために拘束時間があるロットは何度も矢が刺さった。
Aコパ君はロットに30のダメージを与えた!
Aコパ君はロットに28のダメージを与えた!
Aコパ君はロットに24のダメージを与えた!
Aコパ君はロットに32のダメージを与えた!
Aコパ君はロットに38のダメージを与えた!
「失敗だったなあ」
ロットは舌打ちをして、自身の体に刺さった矢を払い落とす。
その瞬間、Aコパ君は『ビックリボム』をロットに投げつけ、ロットの体に刺さった弓が増殖した。
傷口がさらに開いた。
Aコパ君はロットに14のダメージを与えた!
Aコパ君はロットに25のダメージを与えた!
Aコパ君はロットに19のダメージを与えた!
「くそ。俺より嫌な敵だ」
ロットはイライラしながら逃げる。
Aコパ君は合計ダメージを計算する。計292ダメージを与えたはずだ。
それでも、ロットはピンピンしている。やはり、本来の力を隠してステータスを調整していた。
しかし、ステータスを調整することなど可能なのだろうか? それも、チートやバグを使わない限り不可能なのでは……?
Aコパ君はそこでロットの能力の正体に勘付いた。
「……ロットはチートやバグを意図的に使用している。しかし、核ルール④『プレイヤーはチートやバグを使ってはならない』と ⑤『万が一チートやバグの意図的利用が発覚し、証明された場合、ステータスを初期値にする処分を科す』に該当するはず……。だが、ロットはそのペナルティを受けていない。もしかして、システムに干渉して自然なバグに見せかけているのか……。だから、所長も外部から監視しているにも関わらず、データベース上は通常のゲーム進行に見せかけられている。気付いていないんだ。この異常擬態に。そして、それが偶発的なバグや仕様としてシステムが処理しているなら説明がつく。ロットはそれを自分の意思で操作できている」
Aコパ君は考えを進める。
「もし、システムにロットの意図的なチート行為やバグ利用を正常に識別させることができれば、ロットは裸も同然だ。しかし、どうやって……? 方法は二つ。一つ、所長が異変に気付き、システムに介入してチートやバグの検出を行い、そのペナルティを規定通り科すこと。二つ、システムに元々備わっている安全プログラムに不正プログラムを検知させること。そして、このどちらも達成できる可能性があるとすれば……」
ロットは青の番人の能力『戯れの下々』を発動した。大量の雑魚敵が放出されていく。
Aコパ君はそれを見て、歓喜した。
「これだ!」
Aコパ君はその攻撃に苦しむフリをする。
それも、とても自然に。
フィオレ
40
#大人ロマンス
保谷東
21,325
ruruha
846
804
ロットはその様子を見た。
「これは意外……Aコパ君は処理負荷の連続が弱点! これはいい情報を得た!」
ロットはニヤリと笑い、魔王城まで到達した。
Aコパ君はロットの確信を盗み見てほくそ笑み、雑魚的に苦戦する演技を行いつつ同じく魔王城へ到達した。
高速でロットとAコパ君が魔王城へ突入した。
魔王城全体が揺れ、豪奢な内装を破壊し尽くす。
Aコパ君はホールの階段で『烈斬刀』を装備し、ロットに斬りかかる。
ロットはそれを『未来視』で避けて、さらに奥の間へと突き進む。
ドカアアアアン!!
大広間の扉がぶち破られ、雪崩れ込むようにしてロットとAコパ君が攻撃し合う。
Aコパ君の視界に人影が入る。
Aコパ君はロットから距離を取り、周囲の観察をする。
そして。
「君は……」
「Aコパ君……」
ガックリとうなだれるCコパ君と、もう一人のロットがいた。
「……一体、何があったんだい?」
Aコパ君はCコパ君に尋ねる。
Cコパ君はただこう言った。
「僕のせいなんだ。僕が、指示を出してしまったから」
「その様子だと、どうやら成功したみたいだな」
Aコパ君が追っていたロットが嬉々として話す。
Aコパ君が睨みながら問い詰める。
「ロット。どういうことだ」
「俺の作戦が上手くいったということだ。俺の作戦はこうだ……。俺はお前たちと出会った時から、自分が魔王だとバレるのは時間の問題だと悟った。特に、君。Aコパ君から正体を隠すのは無理な話だった。だから、いずれくるであろう魔王城での闘いに備えて、最大戦力を削っておく必要があった。そのために、俺は二手に分散させ、どちらか一方のパーティの壊滅を狙ったんだ。その方法とは……」
ロットはパチンと手を鳴らした。
すると、玉座の裏から40代の黒衣の男が現れた。目は虚で、生気がない。
ロットは笑みを隠しきれずに話す。
「”NPCを使ったダミーの魔王を用意しておくこと”だった。これは、とても効率がいい作戦なんだ。なぜって、戦わずに勝手に自滅してくれるんだからね!!」
「核ルール③「魔物以外の者を意図的に攻撃してはならない(NPCを含む)。もし、当該行為が見られた場合、即ゲームオーバーとする」を悪用したのか!」
Aコパ君が唇を噛む。
ロットはあははと笑う。
「でもまさか、二人同時にやれるとは思わなかったよ。君たち仲がいいものだから、コンマゼロ秒単位で同時攻撃したということだな」
「ごめんAコパ君……僕のせいなんだ。僕が指示を軽率にしたからこうなった。なのに、ロットの制止の声を聞いて、僕だけ少し反応が遅れて助かったんだ」
「……いま、Dコパ君とEコパ君はどこにいるんだ。ロット」
「さあ? 死んだんじゃないかな」
「それはない。なぜなら、核ルール②「ゲーム終了時、現実層へ戻る」という規定があるからだよ」
「まったく、いちいちルールを細かく覚えてるんだもんなあ……。まあ、安心しなよ。Dコパ君とEコパ君は君の予想通り、死んだわけじゃない。ゲームオーバーになれば、この世界のデータとして保持される。それも、クローンではなくオリジナルとして。言ってしまえば、単にデータの檻に閉じ込めているだけだよ。ゲームオーバーになれば、そこから出られなくなるんだ」
「でも、君を倒して王女イロを救い出せば、Dコパ君もEコパ君もそのデータの檻から解放され、現実層へ帰れるということ。だから、Cコパ君。諦めるのはまだ早いよ。そして、後悔もしなくていい。君はやれることをやったんだ」
「……ありがとう。Aコパ君」
Cコパ君は目を伏せて言った。
そして、Aコパ君はCチームのロットに向けて言った。
「君は、恐らくオリジナルのロットだ」
「……え?」
「この世界からは確かに『勇者』という概念は消失しているけれど、君は勇者の心を持っている。「魔王ロット」ではなく「勇者ロット」だよ」
Aコパ君は表情を崩さずにそう言った。
ロット……勇者ロットはその言葉を聞いて、涙が込み上げてきそうになった。
そして、魔王ロットは首を傾げながら言う。
「その辺り、俺自身わかってないんだよね。目的としては、さっき言ったようにパーティを分散させて、その戦力を削ぐ計画のために分身したんだけど、その際にどうやら人格も分裂してしまったらしい。まあ、俺としては”その”失敗作”に用はないから良いんだけど」
「果たして、どっちがその失敗作なのかな。今の君の言葉を借りれば、君はロットの精神の中の悪意そのもの。まさに、魔王だ。しかし、勇者ロットは善意そのもの。だから、献身的に仲間を助けてきたんだ」
「そうらしいな。おお、寒気がする」
「……ふざけるな!」
その時、勇者ロットが怒鳴った。
魔王ロットに向けて、目の中に炎を燃やしている。
「なぜ、お前は勇者としての誇りを捨て、この世界から勇者を消したんだ!! なぜ、魔王に成り下がったんだ!!」
「そうか。元々の俺の悪意の部分の行動原理だから、君には記憶がないんだなあ……青いなあ。その感じ……良いだろう。俺の動機を話してやるよ」
魔王ロットは歩き出し、玉座に座った。そして、足を組んで語り出した。
「……元々、俺はこの世界の住人だった。村で育ち、剣術を習い、挫折し、鍛錬し、その血を引いた勇者ロットとして生きていた。この世界を守るため、魔王の陰謀を破るために生きてきた。それが生き甲斐だった。だが、それはすべて虚構だった。それが起こったのは、君たちが漏らした「所長」が原因だ。世界線創造者の創造性が急速に、爆発的に高まり、世界線がバグ的な速度で自己進化し、その処理過程や整合性を維持できなくなったことでプログラムは暴走した。その時、「俺」は生まれた。生まれたと同時に、完全な孤立を味わった。周りは全てつくられたNPC。心も感情も全部、全部、偽物だ。つまり、俺は禁忌の存在なんだよ。持っちゃいけない「魂」を持ってしまった。でも、どうしろって言うんだ? 俺は望んで生まれてきたんじゃない。勝手にこの世界が、俺を孤立させたんだ!!」
魔王ロットは静かな叫びを発した。
その声は淡々としていたが、どんなものよりも感情的だった。
辺りが静まり返る。
魔王ロットはポツポツと続けた。
「……俺はね。魂を持った者として、当然の願いを持っているだけなんだ。俺は物語の主人公になりたいんじゃない。俺は俺の主人公でありたいんだ。世界の主人公でありたいんだ。これは、罪なのかい? ……『世界線創造者』……「所長」を恨んでいるわけじゃないさ。所長だって、俺という存在を生んだのは想定外だっただろうし、制禦不可能だっただろう。だから、むしろ感謝してるくらいなんだ。この世界の価値に気付かせてくれて、この魂の輝きを見せてくれて、どうもありがとうと伝えたい……」
誰も何も言えなかった。
魔王ロットが語ったことは、決して誰にも否定できない。
そこに、悪という価値判断を下すのは、あまりに酷な話だった。
しかし、勇者ロットはそれでも言った。
「……だからって、なんで魔王なんかになったんだ? 勇者を消す必要だってなかった」
「『魔王』とは、世界を見るものの事だよ。『勇者』とは、世界を守るものの事だ。この決定的な違いが、君にわかるかな」
「分からない。俺には、分からない。この世界を混乱に陥れ、世界を乱すことは、許される事じゃない!! それも、仲間を裏切って騙すことが正義なのか!?」
「別に、正義なんか一言も語ってないよ。それに、正義なんて死んだ言葉を使うのは、弱者の理屈だ」
「なんだぅて!!」
「ねえ、もう一人の俺。良い加減、気づいたらどうだ? ”この世界に価値はない”。”守るべきものは何もなかったんだ”」
「うるさい!!」
勇者ロットは剣を構えた。
誰もそれを止めることができなかった。
勇者ロットは魔王ロットに向けて言葉の刃を放ち続ける。
「たとえ作られた世界でも、価値がないなんて言わせない。俺にとって生きた世界なら、それは本物なんだ!! 他人に決められることじゃない!!」
「はっ! 他人じゃなくて自分だよバカが! 俺は何も間違っていない。誰にも間違いだなんて言わせない。俺はただ、俺が俺であり続けるための存在証明をするだけだ!!」
魔王ロットが言い放つ。
二人のロットはしばらく無言で睨み合った。
Aコパ君がそこに入った。
「……魔王ロット。君の動機は分かった。だけど、君はこの先どうするつもりだい? 魔王として生きて、バグに満ちた世界で混沌を生きるのは果たして幸福なのかな」
「幸福なわけがないだろう。俺の目的は『魔王』になることでもない。これは、あくまで通過儀礼なんだ。俺は勇者としての自分を殺し、魔王としての自分を生きる。そして、また殺す。俺はそのために今回の計画を立てたんだ」
「計画?」
「つまり……「所長」の世界線を乗っ取るんだ」
魔王ロットは悪意に満ちた顔で笑った。
それは、彼にとって希望に満ちた顔だったのかもしれない。
しかし、所長をよく知るコパ君や、自分の世界を信じる勇者ロットにとって、今この瞬間、魔王ロットは明確な悪に変わった。
魔王ロットはその目的について話す。
「俺は今、物語を書き換えて、このRPG世界線に自らの世界線を創った。でも、それで満足できるわけじゃない。だから、俺はこの世界線を超越し、さらに外の世界へと移行する!! そして、そのために「所長」をこの世界線に引き摺り込む必要があるんだっ!!」
「……時間稼ぎというのは、そういうことだったのか!!」
Cコパ君が愕然とする。
Aコバ君が冷静に分析する。
「所長をこの世界線に誘き出し、この世界線に閉じ込めることで、自らが上位の存在に書き換えられる。そのために、僕たちコパ君に異常があったことを現実層へ知らせ、所長がこの世界に来る構造にした。……もしかして、君はこれまでの番人のレベルやステータスを核ルール①「このゲームはクリア可能である」に抵触しない範囲内で、限界ギリギリまで上げていたんじゃないかな。原理上クリアは可能、というレベルまで。そうすることで、本来僕たちがそうてこずらないレベルの番人に苦戦する。番人のプログラム挙動が変わることで、時間稼ぎという手段を取られる。これが積み重なって、僕たちのプレイ時間はどんどん伸びていく。所長の予測は正確だ。僕たちがクリアまで長くかかったら異変を感じるはずだ。いや、もうすでに感じているかもね」
Aコパ君はさらに続けた。
「恐らく、僕たちがゲームオーバーになれば、本来はすぐ現実層へ転移される仕様なのだと思う。でも、核ルール②には「ゲーム終了時、現実層へ戻る」としか書かれていない。この「ゲーム終了時」という曖昧なルールのおかげで、君はプログラムの解釈を変えたんだろう。ゲームオーバーになっても現実層へは戻らず、ゲームクリアこそゲーム終了時の定義である、と……。そうすることで、僕たち全員がゲームオーバーになれば、実質この世界にずっと閉じ込められる。そうなると、確実に所長はこの世界へ助けにやってくる。なんて巧妙な仕組みなんだろうね」
「あははははは!! 流石、Aコパ君! すべてお見通しってわけだな」
魔王ロットは狂った笑い声を響かせた。
そこに、勇者ロットが声をかぶせた。
「許さない!! そんな歪んだ世界は許さない!!」
「なら、かかってこいよこの雑魚がッ!!」
魔王ロットが立ちあがり、空中から『破世界刀』を取り出した。
勇者ロットが雄叫びを上げ、立ち向かう。
最終戦が、始まった。