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(…………恵菜? あの女か?)
純が立ち止まり、声のする方を見やると、ファクトリーパーク近くの公園から恵菜と男が言い争っている声が聞こえてきた。
純は、様子を伺いながら、公園にいる恵菜と男の元へ近付いていく。
「分かってくれよ! 俺にはお前しかいないんだ!!」
男は、恵菜の細い腕をギュッと掴み、強引に引き寄せようとしている。
「調子のいい事ばかり言って!! 今さら何なの!? 触らないで!! 離してよ!!」
恵菜は足を踏ん張らせ、男から距離を取ろうとしていた。
「恵菜…………おっ……お前……!!」
男は、感情を爆発させる直前なのか、怒号を上げて言い捨てると、右手を大きく振りかぶる。
ただならぬ雰囲気の男女に、純は、恵菜が殴られるのではないか、と思い、駆け足で男の背後から二人に近付いた。
男が恵菜を殴ろうとする直前、純がヤツの手首を強く掴む。
「どんな理由だろうが、男が女に暴力を振るうのは、許されないな」
凍てつく声音と、不意打ちに阻止された男は、慌てて後ろを振り返り、恵菜は瞳を潤ませながら、純と男を交互に見やった。
ヤツは強引に純から手を振り解くと、チッと舌打ちをし、恵菜を睨みつける。
「恵菜。俺は諦めないからな……!」
捨て台詞を吐いた後、男は逃げるように公園を出ていった。
純と二人きりになった恵菜は、ガクガクと身体を強張らせている。
男に対する憤りを抑えるために、純は、フーッと大きく息を吐き切った。
「大丈夫ですか?」
彼女の気持ちを落ち着かせるために、努めて穏和な声音で恵菜に問い掛ける。
「奈美の……上司の方ですよね。すみません…………みっともない所を……見せてしまって……」
恵菜が純と向かい合い、深々と頭を下げた。
「無事で良かったです……」
恵菜に笑い掛ける純は、彼女に危害が与えられなくて良かった、とホッとする。
(それにしても……諦めないって……。あの男は何者だ? 彼女の元カレか?)
彼が恵菜を見下ろすと、彼女はまだ恐怖で震えているようだった。