(落ち着くまで、一緒にいた方がいいかもしんねぇな。彼女を、このまま放っておけねぇよ……)
正直なところ、人妻の美女と二人きりでいる状況に、純は多少浮かれている状態。
だが、先ほど彼女が男に迫られ、殴られそうになったのを見て、彼は、恵菜が暗い過去を抱えているのではないか、と感じた。
公園内を、ぐるりと見渡す純。
「落ち着くまで、あそこの四阿で、少し休憩しましょう」
断られるのを覚悟で恵菜に促すと、意外にも無言で頷き、彼についてくる。
「先に座ってて下さい」
純は、近くにある自動販売機で、ホットの缶コーヒーと緑茶を買うと、先に待っている恵菜に、お茶を手渡した。
「すみません。助けてもらった上に、こんな……」
恵菜が、買ってくれた緑茶を見やる。
「とりあえず、温かい飲み物でも飲んで、落ち着きましょう」
彼女を安心させるために、純は口元から白い歯を覗かせた。
空は漆黒に包まれ、ファーレ立川周辺の建物が光の粒子を纏っている。
公園内の四阿で、黙ったままの二人には、ぎこちない空気が漂っていた。
恵菜は顔を俯かせながら、お茶を飲んでいる。
(こういう沈黙、苦手なんだよなぁ俺……)
缶コーヒーを片手に、純は、恵菜と何を話そうかと考える。
(そういえば彼女、俺と激突したあの日、走り去る直前、後ろをチラッと振り返ってたよな。もしかしたら……)
彼女は以前も、あの男に付きまとわれていたのではないか。
「余計なお世話かも…………しれないけど……」
純は言葉を詰まらせてしまう。
彼が彼女に聞いても、多分答えてくれないだろう。
だが、この状況を目撃した純は、聞かずにはいられない。
彼は恵菜に、仕事以外では滅多に見せない、真剣な面差しを向けた。
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