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#普通
野々さくら
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ありあ
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龍河は皆のもとまで来ると、少し息を整えながら申し訳なさそうに口を開いた。
「悪い、遅れちまったわ」
待ちくたびれていた茜が、すぐさま不満の声を上げる。
「もう!遅いですよ馬場さん」
「悪かったな。ちょっと色々あってさ・・・」
どこか歯切れの悪い龍河の様子に、信愛は首を傾げた。
「あの・・・馬場さん?」
そして、龍河の隣に立つ人物へと視線を移す。
「そちらの女性は?」
紹介されるのを待つように、中年の女性は何も言わずに立っていた。
龍河はそんな彼女を|一瞥《いちべつ》すると、皆に向き直った。
「ああ、こちらの女性はな
みんなに会わせたかった人なんだよ」
「私たちに?」
信愛が聞き返す。
「名前は──」
龍河が紹介しようとした、その時だった。
「馬場さん・・・」
女性が静かに龍河を制した。
「私から話します」
「そうですか」
龍河はそれ以上何も言わず、一歩引いた。
「わかりました。ではお願いします」
女性は真っ直ぐな目で信愛たちを見つめると、ゆっくりと頭を下げた。
「はじめまして・・・」
突然のことに戸惑いながらも、信愛たちも丁寧に頭を下げる。
「あ、は、はじめまして」
女性は顔を上げ、静かに名乗った。
「私は、|西《にし》|奈緒子《なおこ》と申します・・・」
「え!?に、西!?」
茜が驚きの声を上げる。
朝陽も、その名字が意味するものに気づいた。
「西って、もしかして……」
「ああ・・西鉄雄さんの娘さんだ」
龍河が頷く。
(あの写真の女の子か・・確かに面影ある)
信愛は奈緒子を見つめながら、カルネアデスバスの車内で見た家族写真を思い返していた。
それからさくらは西鉄雄の娘が龍河と一緒にここへ来たのか、その疑問を口にする。
「でもどうして、馬場さんが
西さんの娘さんと一緒に?」
奈緒子は静かに答えた。
「今から1週間前くらいに、父が勤めていた
バス会社から連絡を受けたの・・・」
「バス会社から?」
信愛が聞き返す。
「父の記事と音声を世間に公開する
許可が欲しいと言って雑誌記者が来てるって」
「それが馬場さん?」
焔垂が龍河を見る。
「ああ・・・」
龍河が短く答える。
奈緒子は当時を思い返すように、ゆっくりと言葉を続けた。
「私は内心、腑が煮えくり返る思いだったわ」
その言葉に、信愛たちは黙って耳を傾ける。
「父の死を利用しようとする輩が
現れたんだって、そう思ったから」
信愛は何も言えなかった。
「でも、バス会社の方が
あまりにも真剣に言うもんだから──」
奈緒子は一度、龍河へと視線を向けた。
「私は馬場さんに会ってみる事にしたの」
彼女の言葉を聞きながら、信愛たちは静かに龍河を見つめていた。
◇ ◇ ◇
1週間前。龍河は、鉄雄が勤めていたバス会社を訪れていた。
応接室へ通された龍河は、向かいに座る職員を前に、龍河が書き上げた記事の原稿を差し出した。
職員は原稿に目を通しながら、困惑を隠せない様子で顔を上げる。
「これは本当の事なんですか?」
そして、信じ難いとでも言うように言葉を続けた。
「西鉄雄さんがバスに化けるなど・・・」
龍河は覚悟を決めたように職員を見つめる。
「信じてもらえないかもしれませんが
こちらに書かれている内容は全て真実です」
「信じられません!」
奈緒子が強い口調で言い切った。
龍河は何も答えなかった。
その沈黙を見かねたように、職員が声を上げる。
「馬場さん!」
龍河が顔を上げると、職員は険しい表情で続けた。
「申し訳ありませんが、私も奈緒子さん同様に
これを真実だと受け取ることは出来かねます!」
龍河が黙ったまま話を聞く。
「西鉄雄さんは、我が社にとって大切な職員なんです」
職員の言葉には、単なる会社としての建前ではない、確かな敬意が込められていた。
「あなたがどうしてもと仰るから
今回このような場を設けさせて頂きましたが
これ以上付き合いきれません」
職員は静かに立ち上がる。
「お引き取りください!」
張り詰めた空気が、応接室を包んだ。
龍河はしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「では最後に、これをお聞き頂けませんか?」
そう言って、龍河は一台のボイスレコーダーをテーブルの上に置いた。
奈緒子の表情が険しくなる。
「良い加減にしてください!」
彼女は怒りを露わにして龍河を睨みつけた。
「あなた方は父を事件の記事の良いネタだ!
くらいにしか思ってないかもしれませんが
私にとっては大切な、誇れる家族なんです!」
「それを──」
奈緒子がさらに言葉を続けようとした、その時だった。
「私は西鉄雄さんと約束しました
絶対に世間に公表すると!」
龍河の言葉に、奈緒子が黙り込む。
職員もまた、何も言えずに龍河を見つめていた。
龍河は深く頭を下げた。
「ですからどうか、お聞き頂けませんか?」
奈緒子からの返事はない。
それでも龍河は頭を上げなかった。
「お願いします!」
そう言うと、龍河は椅子から立ち上がり、その場で土下座した。
「ちょっと!やめてください!」
奈緒子の制止にも、龍河は動かなかった。
床に額を近づけたまま、声を振り絞る。
「私は西鉄雄さん程に誠実な人を見た事がありません!」
龍河の声が、静まり返った応接室に響く。
「誰よりも乗客を想い──」
脳裏に浮かぶのは、カルネアデスバスの車内で見た、後悔と葛藤に苦しむ鉄雄姿だった。
「誰よりも自分を悔いてる」
龍河は拳を握りしめる。
「そんな人の声を俺は世間に伝えたいんです!」
そして、もう一度深く頭を下げた。
「ですから・・・どうか・・お願いします」
奈緒子は何も答えない。
龍河の前に置かれた小さなボイスレコーダーだけが、重苦しい沈黙の中に佇んでいた。
コメント
1件
うわ、龍河の土下座にはグッときたわ…。自分の信念のためだけじゃなく、西鉄雄さんへのリスペクトが感じられるからこそ、あそこまでできるんだなって。奈緒子さんの「父を利用しようとする輩」っていう最初の警戒も当然だし、そこからどう変わるのか続きが気になりすぎる🔥 今回も丁寧な心情描写で刺さったわ、×××さん。更新ありがとうございます!