テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
昼休憩。
周りが一段と騒がしくなる頃に、隣に座る彼……十二村結に、言う。
「煙草吸ってくるから待ってろ」
十二村は「えぇ…」とでも言いたげな顔をした。
それもそのはず。
なんせ十二村は煙草の匂いが嫌い…というか苦手だ。
だから出来る限り控えてはいるのだが、やはり完全に我慢して辞めることはできない。
これがニコチンによる効果なんだろう。
飴で多少代用はできると聞いて、一度だけ試したことはある。
一日中、飴だけを舐めてみると、段々とイライラしていき、まぁ……散々だった。
それから一日に2~3本程度にすると心の中で決めたのだ。
それでも多いような気もする。
十二村はしぶしぶと了承し、俺は急いで喫煙所へ向かった。
喫煙所のドアを開けると、既に社長がおり、ああ…またサボっているんだなと思った。
この会社の社長はよくサボる。
そのためグリフィンさんに追いかけられてるところをよく見かける。
よく飽きもせずサボれるなと思う。
社長は俺に気づくと手を小さく振る。
「お、口無〜珍しいな。」
「十二村とシェアハウスを初めてからここに来る頻度減ったのに、今日は来たんだな」
「…毎日この時間に来てますよ。」
そう答え、赤い箱から煙草を一本取り出す。
ライターの回転やすりを何回か弾き、火をつける。
白っぽい煙が上へ立ち上る。
吸っては吐く、吸っては吐く。
それを繰り返す。
苦い煙草。
脳がスッキリとする感覚に溺れる。
だから辞めれない。
「そういや口無〜。」
「なんだ」
「昨日十二村がさ〜………いや、やっぱいいや」
は?
昨日十二村がどうしたんだ。
気になるところで止め、俺がそれ以上聞こうとしても、口を割らない。
普段はよく喋るくせに…。
煙草が短くなり、灰皿に押し付ける。
結局、社長が言う昨日十二村がっていうのは聞けなかった。
でも、もしかしたら怪我についてかもしれないな。
昨日怪我してたし。
なんでもエッセとなんか戦う流れになって怪我したらしい。
なんで戦う流れになったかは分からない。
そんなことを考えながら、喫煙所を後にした。
十二村がいるはずの場所へ戻る。
だが十二村の姿はどこにも見えなかった。
待ってろと言ったのに…。
数十分経っても帰ってこないので、 探しに行こうとしたらドアが開いた。
開いたドアから赤髪の背の高い男が入ってきた。
十二村だ。
そう判断するのに時間はかからなかった。
「あ、パイセンおかえりなさいっす!!」
そう明るく言う声に、安心してしまう。
十二村をよく見てみると、手に持っているものが目に入った。
なにかの紙袋だ。
「十二村、何持ってるんだ」
「これっすか?これは肉まんっす!!」
「飲み物を買いに行ったついでにあったんで買ってきたっす!一緒に食べましょう」
そういいながら肉まんを袋から一つ取り出し、俺の前に出す。
紙袋の模様を見れば、結構有名な店のだった。
出された肉まんを受け取ろうと、手を伸ばす。
すると、俺の手が十二村の手に当たった。
手は驚くほど冷たく、長く並んでいたとわかる。
「どのくらい並んだ。」
「え、そんなっすよ。多分1時間ぐらいっす」
「どこがそんなだ。」
そういいながら頭にチョップをする。
十二村の方が身長は高いが、俺と視線を合わせていたため、しっかり当たった。
痛いだとか酷いだとか言いつつ、十二村は俺の隣の席に座る。
そしてまだ暖かい肉まんを頬張る。
「ん!!これすごい美味しいっす!!」
そう無邪気に言う姿は子供のようだと改めて感じる。
俺も一口、口に入れる。
ホカホカしていて、ほんのり甘く柔らかい皮と、沢山入った具材が丁度良く、美味しかった。
さすが有名店。
並んでも買いたいと思う理由がわかる。
食べ終わり、肉まんに付いていた紙を捨てる。
メモ帳を取り出し、この後の仕事はと考えていると、物が落ちる音がした。
音がした方へ向けば十二村がペンケースを落としていた。
十二村は焦っており、拾うためにしゃがんでいた。
ペンケースの中身は散らばっていて、ひとりで全て拾うのは大変そうだった。
なので、椅子から降りて十二村と一緒に散らばった物を拾おうとする。
その時、微かに十二村から、慣れた匂いがした。
いつもの柔軟剤の匂いではない。
この匂いの正体を俺は知っている。
誰よりも。
俺みたいなやつは絶対にわかる。
いや、俺みたいなやつじゃなくても大体は予想がつく。
独特な香り。
上手く言葉で表せないような香り。
そうこの匂いは…………
煙草だ。
コメント
2件
初コメです!投稿頻度の速さに驚きです…これからも日々の楽しみにさせていただきます٩( •̀ω•́ )ﻭオウエンシテマス!!