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#異世界ファンタジー
73
ペンギン親子が消えた後、氷はすっかりなくなり、本来の姿だと思われる校庭が現れた。
「おい、連たん。デカイ穴があっぞ。ガバガバだぞ」
空中を飛び回っていたメリッサが、校庭の中央あたりを長い尾で指している。
すり鉢状になっている大穴の直径はおよそ20メートル。
深さは10メートルくらいか。
ちょっとやばそうな感じがしたので、レンタロウは足を止める。
よそ見をしていたランベルトは地獄に堕ちた。
砂と一緒にランベルトが少しずつ沈んでいく。
「なんすかこれ! 店長、笑ってないで助けてくださいってば!」
「自力でなんとかしろって。落ちたら絶対死ぬやつでしょ? もれなくアリジゴクが出てくるパターンでしょ?」
「だれでもいいから助けてくださいって」
レンタロウを除く、他のメンバーは後ろを向いたり、真横を向いたりしてランベルトと目を合わせようとしない。
「超高速ルームランナーっぽくて笑えるからしばらく見てるわ。とりあえず、中心部に引き込まれないように、そこでずっと走ってな。その間に手を考えるから。そうだ、肝心のロープなんだけどさ、なんだか30センチくらいしかないんで、よろしくな!」
「いやっすよ。体力が持たないってば! もっと長いロープ持ってこいや!」
もがくほどに、ランベルトがじわじわと中心部へと流れていく。
すぐさま、穴の底が隆起する。砂の中から角のようなものが浮き出てきた。
鎌状の大顎をハサミのように開閉させる|様《さま》は、プールから足だけ出したスイマーのよう。
「地獄本体キター!」
なかなか落ちてこないランベルトに苛立ちを覚えたようで、アリジゴクはウ〇コのようなものを飛ばしてくる。
「アリジゴク様は本気らしい。長期戦を覚悟したほうが良さそうだな。アイツの体力が心配だ。エルネスタ、祈りの準備を頼む!」
エルネスタは胸のあたりで手を組み、目を閉じる。
「今日の夕食に私の大好きなハンバーグが出ますように……。デザートはメロン・スライムがいいですわね。タンメン」
十字を切って締めくくる。
「僕は準備って言ったでしょうが!」
「エルネスタ姉さん。いろいろ違うっす! できれば最後の締めはアーメンで頼みますって! もう、神なんて信じてやらねえっす」
「闇側のお前が言ってもまったく説得力ないって」
「あ、そうだ。連太郎さん。今日の晩ご飯はキノコベースの闇鍋です。闇のキノコがいっぱい獲れたとかボブ子さんが言っていましたよ」
ヒカエメが荷物をあさりながら、晩ご飯の献立を発表してくれる。
「エルネスタ。もう1回頼む!」
「体力回復の前に、ランベルトさんからの信頼回復が先のようですわね」
「後でいいよ。今日の晩ご飯は、闇キノコハンバーグにしよう。だから頼むよ」
エルネスタがハンバーグでやる気を出したようだ。
組んだ手に力が入っている様子。
「砂に埋もれる無様で惨めなネクロマンサーをお救いください。私に高級ハンバーグとデザートを! ハンバぁーーーーグぅ!」
晩ご飯のハンバーグを勝手にグレードアップさせたエルネスタが、お約束の十字を切る。
緑色の光が穴全体を覆い、何か効果が出ている雰囲気が漂う……。
「どうです?」
片目だけを開けて様子をうかがうエルネスタ。
「元気になったみたいだな……アリジゴクが……」
回復の施しを受けたアリジゴクが、目をギンギンにさせている。
砂中でもがくランベルトに目もくれず、えらい勢いで這い上がろうとしている。
砂地獄で猛ダッシュするランベルトを見ながら、
「アリジゴクってやればできる子なんだな」
「アリジゴクさんって、ブヨブヨして結構可愛いんですね」
レンタロウとヒカエメは、呑気に感想を言ってみたりする。
「おかしいですわね。私のお願いが強すぎたのかしら。デザートを付けたのがダメだったのかしらねえ。最近、ちょっと体重増えましたし。いえ、違いますわ、服の重さですわ!」
レンタロウたちの横で、エルネスタがぼやいた。
「たぶん違うよ。あとね、いま服を脱がないでくれ」
「ランベルト・フライドチキンさん。これにつかまってください!」
ヒカエメがランベルトのフルネームを叫びながら、バールのようなものをアリジゴクに向かって差し出す。「はいっ!」ひと声あげると、バールのようなものが花に早変わりした。
「ヒカエメ、その手品は宴会かランベルトのお誕生日会のときにやろうな。あとね、それアリジゴクだから……」
「はいっ!」
元気に返答したヒカエメの笑顔は今日もまぶしい。
「オレの誕生日はもう来ないってば! あ……口の中がジャリジャリするンゴ! なんだか海水浴に来たみたいで楽しくなってきたンゴ……」
洗濯機の中で踊る衣類のようにクルクル回転しながら、アリジゴクと共に沈みゆくランベルト。
「来世でなんか良いことがありますように。ピーマン!」
ピーカンの笑顔で祈るエルネスタ。
もう、アーメンというワードを使う気がないらしい。
レンタロウとヒカエメが、アリジゴクの巣に向かって手を合わせる。
「じゃ、行こうか!」
親指を立てたランベルトを横目に、レンタロウたちは先へと進んだ。
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