テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「なぁ、あんた」
落ち着いた声音で呼び止められた優子が振り返ると、拓人は腕組みをしたまま見据えている。
ひとしきり黙ったまま、視線をかち合わせる二人。
「ここを出たら…………どうすんの?」
男が眼差しを外し、外の景色を見やりながら逡巡した後、芯の通った声で優子に問い掛けた。
「…………何も決まってない」
拓人に、改めて今後の身の振りについて聞かれた優子は、淡々と答えて踵を返すと、ベッドルームに入り、この二ヶ月間で増えた荷物を、両手いっぱいにしてメインルームへ戻ってきた。
「だったらさ……」
貴重品を、赤いミニボストンバッグにしまっている優子の背中に、眼差しを向けながら、拓人は、長い前髪をクシャリと掻き上げる。
「…………俺と一緒に……行かないか?」
男の真面目な言い草に、支度をしている優子の手がピタリと止まり、クッキリとした瞳が丸くなる。
初めて拓人と出会った二ヶ月前、男は、軽いノリで『一緒に来いよ』と優子を誘った気がするが、今は、軽薄さが全然感じられない。
「アンタも、この後、どこに行こうか、決まってないんでしょ? それに、今の…………本気で言ってんの?」
「まぁ……俺がこんな事を言っても…………あんたは悪い冗談と受け取るよな……」
彼女は、怪訝な表情覗かせながら、拓人を横目で見やると、提案した本人は、苦笑しながら、後頭部を撫で付ける。
「悪い冗談っていうかさ、何でいきなり、『俺と一緒に行かないか?』って言い出すの? 私には、ワケがわかんないんだけど。アンタにとって、私はヤリ友だから?」
「…………」
優子が捲し立てた口調で言い放ち、荷物の整理を再開すると、男は黙ってしまった。
自分の言いたい事に収拾がつかないのか、拓人が前髪をワシャワシャと掻きむしると、荷物を纏めている優子の背後に立つ。
「うわぁビックリした!! もうっ! 驚かさないでよね!」
すぐ後ろにいた男に気付かなかった彼女が、振り向くと、身体をビクっとさせながら瞳を見開かせた。
「そんなつもりなんて、ないんだけどさ……」
困惑気味の拓人が、優子に眼差しを向けている。
「……………楽しかったんだ。あんたと過ごした……この二ヶ月……」