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どうやら私は、この男性と正面衝突してしまったらしい。
確かに、鼻の付け根あたりにズキズキとした痛みが残っている。
「えっ……あの、すみません。私もよそ見していて」
目をぱちぱちと瞬かせながら、男性を見上げる。
時間的に人通りは少なくなっているとはいえ、自分の無様な格好にようやく気づき、顔が熱くなった。
「大丈夫ですか? 立ち上がれますか?」
男性は心配そうな表情で、地面についた私の手を取った。
「あ……この携帯、あなたのですか? 今、電話しながら歩いてたって……」
反対の手に持っていた黒い携帯電話を差し出す。
「はい。ありがとうございます。僕のです」
「あっ! ディスプレイにヒビが……。すみません、私がぶつかったせいで落としてしまったんですよね?」
よく見ると、ディスプレイの左上――ちょうど充電残量を示す電池マークを隠すように、縦へ一本ヒビが入っている。
おまけに、電話をしていたはずなのに画面は真っ暗なまま。
まさか……
私が壊した!?
ヒビの入った画面を見つめながら、血の気が引いていく。
「すみません、すみません……。あの、弁償します!」
「弁償? そんな必要ありませんよ。貴女が一方的にぶつかってきたわけではありませんし」
「でも、電源が落ちてる……。壊れてしまったかもしれません」
男性は動揺している私の手から携帯を受け取ると、手際よくそれを操作した。
「ああ、大丈夫です。落ちた衝撃で一時的に電源が落ちたみたいです。もともと傷だらけの古い携帯。
僕もしょっちゅう落とすんですよ。時にはそのまま自分の足で踏んだり、蹴って飛ばしたりもしますから。気にしないでください」
男性は流暢な言葉を続け、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「そんなことより、貴女は大丈夫ですか? とりあえず立ちましょう。素敵な服が汚れてしまう」
「……はい。ありがとうございます」
私は差し伸べられた大きな手を遠慮がちに掴み、ゆっくりと立ち上がる。
「イタッ……」
アスファルトについた右膝を伸ばそうとした瞬間、鋭い痛みが走った。
思わず顔をしかめる。
「あぁ……膝を擦りむいたようですね。少し血が出てる。歩けないほど痛いなら病院へ行きますか? 骨折していたら大変だ」
「病院!? そんな大袈裟な。ありがとうございます。でも大丈夫です。……骨折はないと思います。膝も曲がりますし、足もつけますから」
骨折していたら、こんな程度の痛みでは済まない。
擦過傷と軽い打撲だろう。
私は薄い笑みを浮かべながら、さりげなく足を庇って立ち上がった。
そして、痛みの走る右膝へ視線を落とす。
あぁ……
やっちゃったよ……。
想像していた以上に無惨な状態に、思わずため息が漏れた。
傷の部分はストッキングが大きく破れ、そこから下へ一直線に伝線している。
おまけに垂れた血が生地に滲み、一見大きな傷のように見えていた。
「たくさん血が出てるじゃないですか! えっと……近くに薬局あったかな。でもこんな時間じゃ閉まってるよな……。やっぱり病院へ行きましょうか」
男性は流れる血を見た途端、少し慌てた様子で言った。
「いえ、これはストッキングに滲んでいるだけです。実際の出血量は大したことありませんよ。押さえておけばすぐ止まりますから」
ホント、男性は血を見るのに慣れてないからな……。
バッグからハンカチを取り出しながら、胸の内で小さく笑う。
「そうですか……。なら良いんですけど。なんだか凄く冷静だなぁ」
膝にハンカチを当てる私を見つめ、感心したような声を漏らした。
「えっ……そうですか? 本当に大したことありませんから」
冷静ね。
そりゃそうだ、これくらいのことで。
医師だし。
男性を見上げ、その場しのぎの笑みを浮かべる。
そして膝を押さえたまま、辺りを見渡した。
数メートル先の横断歩道の向こうには、大きな公園とコンビニが並んでいる。
「あの、携帯の傷は本当にいいんでしょうか」
視線を男性へ戻し、改めて問いかけた。
コメント
1件
うわあああ出会い頭の衝突からまさかの展開に!😳💕 ヒロインが冷静すぎて「医師だし」って心の中で言い放つシーン、めっちゃツボったwww しかも携帯のヒビを気遣う優しさと、自分の膝の傷を軽く流すプロ根性のギャップがエモすぎる…! この後のやり取りが気になりすぎて続き読まずにはいられないよ〜!!🥺✨ さくら先生、今日も最高のキュンと笑いをありがとうございます🌸💯