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与太郎:「ふぁ〜あ……。お天道様が高いねぇ。石藤に蹴り飛ばされて起こされない朝が、こんなに気持ちいいなんて知らなかったよ」
与太郎は、縁側で日向ぼっこをしながら、つやつやに炊き上がったおにぎりを頬張っています。かつてのガリガリだった体には少し肉がつき、肌のつやも戻って、持ち前の「美男」ぶりに拍車がかかっていた。
謎の女: (顔を隠したまま、静かに茶を差し出し)
「……与太郎様。お口に合いましたか? 足りなければ、まだありますよ」
与太郎: 「あぁ、美味しいよ。本当に美味しい。……ねぇ、お姉さん。あたい、こんなに良くしてもらって、バチが当たらないかな? 仕事だって、あの不思議な『内職』を少しするだけだし……」
その「内職」とは、女が持ってくる真っ白な布に、与太郎がただ「にこにこと笑いながら触れる」だけのものだった。与太郎が触れた布は、なぜか目が覚めるような美しい光沢を放ち、町で飛ぶように売れる「福布」となるのだった。
与太郎: 「お姉さん、あたい、お姉さんの顔が見てみたいなぁ。こんなに優しい声なんだから、きっとお月様みたいに綺麗な人なんだろうね」
謎の女: (一瞬、手が止まる。寂しげな、しかし慈しむような声で)
「……私は、形のない者。貴方様が『優しい』と思ってくださる、その心の中にだけ居る者でございます。……どうか、今のままの貴方様でいてくださいませ。……あぁ、またあの方が近づいてきますね」
与太郎: 「えっ? あの方って……?」
その時、竹林の向こうから、ドタドタと品のない足音と、聞き覚えのある「罵声」が近づいてくるのが聞こえた。
石藤: 「……おい! この先に、お大名様みたいな暮らしをしてる美男がいるって聞いたよ! そいつから金をふんだくってやるんだ! どきな、徳兵衛!」
徳兵衛: 「待てよ石藤、俺が先だ! 俺の金を返せってんだ!」
石藤: 「……お、おい……。あそこにいる小綺麗な男、あれ、本当にあの泥亀(与太郎)かい!? なんて色男なんだ……。徳兵衛、お前みたいなむさ苦しい男はもう御免だよ。どきな!」
石藤は、自分と一緒に破滅しかけている徳兵衛を力任せに突き飛ばすと、猫なで声を出して与太郎にすり寄る。
石藤: 「ねぇ、与太郎……。あたいが悪かったよ。あの時はどうかしてたんだ。さあ、またあたいと暮らそうじゃないか。この家も、この金も、全部あたいのものに……。……あぁ? なんだい、その隅に隠れてる不気味な女は!」
石藤の鋭い視線が、顔を隠した「謎の女」に向けられました。激しい嫉妬と欲望が、石藤の背後にいる「貧乏神」を巨大化させる。
石藤: 「この泥棒猫! 与太郎をたぶらかして、いい思いをしてるんじゃないよ!」
石藤が火のついたような形相で拳を振り上げ、謎の女に殴りかかろうとしたその時――。
与太郎: 「やめてくれッ!」
ガタガタと震えながらも、与太郎は女の前に飛び出しました。
与太郎: 「あたいを……あたいをいくら殴ってもいい。石藤、あんたの気が済むまであたいを蹴飛ばしてくれ。でも、この人だけは……この人だけは傷つけないでおくれ。この人は、あたいに初めて『生きてていい』って教えてくれた人なんだ!」
ドカッ! と重い音がして、石藤の拳が与太郎の頬を捉えます。しかし、与太郎は逃げない。涙を流しながら、必死に女をかばい続ける。
その瞬間、部屋の中に目も開けられないほどの「光」が溢れた。
謎の女: 「……あぁ、与太郎様。貴方はどこまでも、報いを求めぬお方……」
女がそっと顔の薄衣を外すと、そこには人間離れした神々しい姿があった。同時に、石藤の背後にいた「貧乏神」が、その光に焼かれて苦悶の声を上げる。
謎の女: 「欲にまみれ、慈しみの心を忘れた者たちよ。貴方たちが欲した『富』も『美貌』も、全ては砂上の楼閣……。与太郎様の優しさという『光』に照らされ、本来の姿に戻るがよい!」