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第47話:休暇と観光列車
朝の駅。
水色のパーカーに短パン姿のまひろは、リュックを背負いながら大きな発券端末の前に立っていた。
隣にはラベンダー色のブラウスにベージュのスカート姿のミウ。イヤリングを揺らしながら、ふんわりと笑顔を浮かべている。
「今日は観光列車に乗れるんだねぇ。え〜♡ 楽しみだよ」
まひろは無垢な瞳で画面を見つめ、指を動かした。
「キップ」
↓
「カンコウレッシャ フタリ」
↓
「カイケイ」
↓
「ケッサイ」
↓
「オワリ」
端末から切符が発行される。料金はどこまで行っても一律480円。
駅構内のアナウンスが響いた。
「安心の一律運賃。どこまでも、ヤマトの線路でつながる未来を」
車内。
観光列車の壁には大和国国旗の紋章が描かれ、窓枠には翡翠核を模した装飾が光っている。
二人は並んで座り、走り出す車窓を眺めた。
「ほら、海だよ!」
まひろが指を差すと、窓の外には貨物船が何隻も行き交う姿。
「旧日本の頃より8000倍増えたって聞いたよ。まるで海が血管みたいに動いてる」
ミウは頷き、ふんわり微笑んだ。
「え〜♡ 海は物流の道、線路は人の道。こうやって全部つながってるから安心なんだよねぇ」
観光列車は都市を抜け、温室群が広がる「未来農業特区」の中を走り抜ける。
緑色の光に照らされた巨大ドームの中では、トマトやミライリンゴが人工光で育てられていた。
車内アナウンスが流れる。
「ご覧ください。こちらは大和国が誇る未来農園。安心のカナルーンで管理され、市民の食卓を守っています」
まひろはガラス越しに見える光景に目を丸くした。
「ほんとに全部、緑の光で育ってるんだね……」
終点の観光地に到着すると、駅前にはドットコード決済の屋台が並んでいた。
「メニュー → ヤマトソフト ヒトツ → カイケイ → ケッサイ → オワリ」
屋台のおじさんがにこやかに操作を見せる。
ミウはソフトクリームを受け取り、笑顔でまひろに差し出した。
「え〜♡ 休暇の日でも、カナルーン入力とアンズイで安心なの。これがヤマトの旅だよ」
暗い部屋。
緑のフーディを羽織ったゼイドは、観光列車の内部映像をモニターで眺めていた。
乗客が笑顔で入力し、アンズイで終わらせる様子が逐一記録されている。
「どこへ行っても480円。安心という名の均一。
観光も休暇も……すべては統制の線路の上で進んでいく」
モニターには、笑顔でソフトを食べるまひろとミウの姿が映っていた。