テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第37.5話:買い物とカナルーン
昼下がりのスーパー。
ドアが開くと、淡く緑色の照明がふわりと揺れた。
この光の強さは“今日の安心指数”と言われ、客たちは何となくそれに従って歩く。
まひろは 水色パーカーに黄緑の短パン。
寝癖の残る髪を揺らしながら、小さなカートを押していた。
ミウは ラベンダーのブラウス、ベージュのスカート。
耳元のイヤリングが光にかすかに反射している。
🛒 イロハ段の棚と“安心の割引”
果物コーナーには、
同じミライリンゴが三つの棚に分かれて並んでいた。
ミライリンゴ イ段(推奨)
ミライリンゴ ロ段(標準)
ミライリンゴ ハ段(予備)
それぞれの札の下に、小さく光るマークがついている。
イ割(安心推奨)
ロ割(ふつう)
値段ではなく、
“どう選べば安心か”を示すためのマーク。
まひろは首を傾げる。
「ミウおねえちゃん、イ割って……やっぱりイイの?」
ミウはふんわり笑い、棚のリンゴを指差した。
「え〜♡ イ割は“今日はイ段をえらんでね”っていう意味なんだよぉ。
ロ割は、ふつうの日の安心ね」
「じゃあ、イ割がいいんだ!」
まひろは無垢にイ段のリンゴをカゴへ入れる。
客たちは値段ではなく、
色とイロハの響きで商品を選んでいた。
🥕 野菜売り場も“選ぶ安心”
協賛キャロットの前では、灰色のエプロンの店員が微笑んでいた。
「今日のキャロットはロ割だからね。ふつうの安心だよ」
値段ではない。
“安心の度合い”で品物が仕分けられている。
まひろも自然にロ割キャロットを手に取った。
🧾 カナルーンでの会計
レジ前の端末は翡翠色の光を脈動させている。
まひろは声を出しながら入力した。
「スーパー」(呼び出しカナルーン)
↓
「ミライリンゴ イ段 イ割 ヒトツ」
↓
「キョウサンキャロット ロ割 ミッツ」
↓
カイケイ
↓
ケッサイ(ドットコードでヤマトコイン自動引き落とし)
↓
オワリ(アンズイ)
画面には金額は一切表示されない。
代わりに浮かぶのはいつもの文章。
「今日も安心の買い物ができました」
「幸福度ポイント安心イチ 加算」
ミウは満足げに頷いた。
「え〜♡ こうやって安心で終わると、気持ちが軽いよねぇ」
まひろは無垢に笑った。
「うん! イ割があったから、安心イチも上がるかな!」
🎤 店内アナウンスが“安心の誘導”
「本日の協賛セールはイ段推奨日です。
イ割をご利用ください。
今日も協賛ありがとう。」
誰も“いくら得したか”は考えない。
市民全員が、ただ
「イ割=安心」
「ロ割=ふつう」
と理解しているだけ。
👁 天井のレンズ
天井の小型カメラが、
まひろの入力速度・表情・心拍を静かに測り続けていた。
ミウはそれを知りながらも柔らかく言う。
「見守られるって……安心なんだよぉ」
その言葉は優しいけれど、
レンズの光は無機質にまひろを追っていた。
🧺 帰り道
店を出ると、大きなポスターが揺れていた。
「イ割=安心の推奨
ロ割=今日のふつう」
まひろは袋を抱えて微笑む。
「イ割って、なんか気持ちいいね!」
ミウはふんわり笑った。
「え〜♡ 安心はね、感じるものなんだよ」
夕暮れの風の中、ふたりの買い物ログは
静かに翡翠核サーバーへ吸い込まれていった。