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(考え事って……奏は何を考えてたんだ?)
怜はソファーの背もたれに身体を預け、顎に手を添えながら、バスルームにいる恋人の事を思う。
(真理子の事じゃないって言ってたが、なら何を考えているんだ?)
奏と想いを通わせ恋人同士になってから、そろそろ三週間ほどになる。
カレカノとなったその日、怜は奏の肌に触れたいという気持ちが先走り、彼女も触れられたいと答えた事をきっかけに、彼は無骨な手で初めて白い身体に触れ、赤黒い華を咲かせた。
それ以来、会う日は必ずと言っていいほど奏の肌に触れ、身体中を愛撫し、セックスの直前で止める。
まだ彼女の中には、身体を重ねる事に対するトラウマがあると考え、
『今日は、ここまでにしよう』
と必ず言葉をかけた。
奏は納得した様子を見せるが、不意に悲しげな面差しを覗かせる事もあった。
その憂いだ表情が心の中で引っかかり、忘れられない。
正直、奏をこのまま抱きたいと何度思った事か。
こんな事、奏には絶対に言えないが、彼女を自宅まで送り、帰宅してから奏の美しい裸体と官能的な表情、いやらしく喘ぐ声を思い出しながら、バスルームで何度自慰行為をした事か。
セックスができない代わりに、白磁の身体に、いくつ『俺だけの女』という証を付けたのか、もう分からない。
(俺から奏を抱きたいと、改めて正直に言った方がいいんだろうな……)
思いの外、長く逡巡していると、バスルームのドアが開く音が聞こえた。
髪を乾かし、先日町田のアウトレットで購入したボルドーのルームウェアを着た奏が、リビングへ戻ってきた。
「身体、暖まったか?」
「はい。気持ちよかったです」
「奏。そろそろ……敬語から普通に話して欲しいな」
「あっ……忘れてた……」
微笑を見せる奏が愛おしくて、怜は細い腰に腕を回して抱き寄せる。
小さな奏の後頭部に手を添え、上気して赤く染まった彼女の唇を塞いだ。
「んっ……」
奏の鼻にかかった吐息が零れ落ちる。
怜の舌が小さな唇に入り込み、妖しく蠢きながら奏の舌を絡め取り、水気を帯びた音がリビングに響き始めた。
歯列を這い、歯茎まで伝い続ける怜の舌は、既に彼とは別の意思を持った生き物だ。
ピチャピチャと濡れた音と時折混じるリップ音に、奏の身体の奥がキュッと疼く。
「んうっ…………うっ……」
ひとしきり互いの唇の感触を堪能し、怜が奏の上唇と下唇を甘く食んだ。
唇を離し、互いの瞳を絡ませると、やはりと言うべきか、奏は切なさを纏わせたような表情を滲ませている。
目力の強い瞳がしっとりと濡れて、真っ直ぐに怜を見つめていた。
目尻に雫が溜まっているのを感じ、怜の姿が朧気な輪郭で奏の揺らぐ瞳に映り込んでいる。
「奏? どうしたんだ?」
怜の問いかけに、彼女は顔を伏せると、太腿の辺りに雫の跡がポタリ、ポタリと増えていく。
「奏?」
怜は堪らず奏の繊麗な肩を引き寄せ、抱きしめると、彼女はおずおずと彼を見上げた。
唇を引き結び、緩める。
この一連の仕草を数度繰り返した後、奏は戸惑いながら、うっすらと花弁を開花させた。
「…………寂しい」