それから久々のせいもあって、結局美咲の所でその後も長々と喋ってから自宅へ到着。
そして鍵を開けて中に入ろうとしたら。
ガチャッ。
それと同時に隣の部屋のドアが開く。
「あっ、今帰り?」
「あっ、うん・・」
たまたま隣の家から出てきた早瀬くんが声をかけてきた。
さっきまで美咲たちと早瀬くんの話をしてたばっかりで、不意打ちで会ってちょっと戸惑う。
なんかいろんなことを改めて今聞いたせいで、酒癖悪い自分知られた恥ずかしさとか、酔いつぶれた自分を優しく介抱してくれた照れくささとか、今更ながら意識してまってなぜか一人気まずい。
「遅かったね」
「あっ、美咲んとこ寄ってたから・・」
「そっ。だから遅かったんだ。訪ねた時、まだ帰ってなかったから」
早瀬くん、うち訪ねてくれたんだ・・。
「・・なんか用だった?」
「まぁ」
「どしたの・・?」
そっか、隣住んでるってことは、これからはこうやって偶然会うことも増えるってことか・・。
「手料理」
「えっ?」
「風邪のお詫びの手料理作ってくれるって約束」
「あぁ・・うん」
「今週の日曜、お願いしていい?」
早瀬くん、それ本気だったんだ・・。
「予定空いてる?」
「・・うん。大丈夫、だけど」
「よかった。じゃあそれで決まりね」
あの場の雰囲気とノリだけで言ってるだけかと思った。
だけど、ホントに自分の手料理なんかを望んでくれてるのが素直に嬉しくて。
「わかった・・」
「あと、作ってほしいモノもう少し考えてもいい?」
「あっ、うん。それはいいけど・・」
「じゃあ決まったら連絡する」
「了解。・・じゃあね」
話が終わったので中に入ろうとすると。
「あっ、でさ!」
早瀬くんが私が部屋に入るのを止めるように話を続ける。
「え、何?」
「連絡先」
「連絡先?」
「聞いていい・・?」
「隣住んでんじゃん・・」
「いや、それはそうなんだけど・・。こうやってお互い時間合わなかったらずっと捕まらないし」
「あっ、そっか。そうだね・・」
確かに私も前に会おうとして全然会えなかったっけ。
隣に住んでるからって、いちいち訪ねるのも面倒だよね。
「じゃあ・・・ハイ。これ私の連絡先」
自分の連絡先を見せて登録してもらう。
「あっ。じゃあ登録し返すわ」
そう言って私が伝えた連絡先に早瀬くんも返信。
「なら、決まったらまた連絡待ってるね・・」
「了解。また連絡する」
「じゃあ、ね」
早瀬くんと話が終わって自分の部屋へ入る。
正直、あの酔いつぶれた日から、早瀬くんの印象が変わって、前以上に意識し始めてる自分がいる。
美咲から早瀬くんの話聞いてからも、今さっき帰って来るまで、なんかずっと早瀬くんのこと考えちゃってたし。
だけど、早瀬くんは特に何も変わった素振りもないし、さっきも簡単に用件だけ。
それもホントにご飯食べたいだけかもだし。
意識してるのは自分だけ・・なのかな。
だけど、自分の手料理が食べたいって言ってくれて約束してくれたのも嬉しかった。
今更ながら連絡先交換したのもちょっとドキドキしたりして。
連絡先交換してなかっただけで、こんなにも今まですれ違いも多かったことにも改めて気付く。
だけど付き合ってるワケでもないし、仕事仲間としては仕事で会えば問題ないし、連絡先なんて特に必要ないっていえば必要ない。
ドキドキさせる関係なんて、所詮向こうがその気にならなければ続かない関係。
いつ向こうの気まぐれで飽きて、いつ終わるかもわからないような関係。
だから多分・・。
自分でも望まなかったのかもしない。
そういうことさえも、この関係ではなんか望んじゃいけない気がして。
だけど。
いつからか少しずつ早瀬くんに期待している自分がいる。
今まで同じ会社でも隣に住んでても全然会うことなかった人なのに。
そんなに近い距離で、きっと普通なら偶然会ってもおかしくないはずなのに。
もしあの時早瀬くんと出会わなければ、こんなに近い距離にお互いいても一生交わらないかもしれないんだ。
ずっとお互い平行線のまま、ずっと近くても交わらない別の世界を歩み続けていたかもしれない。
早瀬くんとのこの出会いは何か意味があったのだろうか。
このタイミングで出会った意味。
職場も同じで、修ちゃんの知り合いで、隣に住んでて。
だけど今まで出会わなくて交わらなかった時間。
こんなに近い距離でお互い存在してて、共通することも多くて。
だけど今出会って、しかもよくわからない関係で。
この先どうなっていくのかもわからない、そんな関係。
そしてその日の日付が変わった頃に届いた早瀬くんからのメール。
彼から届いた最初のメッセージは
『ハンバーグ』と『おやすみ』の二言だった。
用件のみであっさりだけど、なんか早瀬くんらしくて笑ってしまった最初のメッセージ。
そして、私も早瀬くんに返した言葉は。
『了解』と『おやすみ』の二言のメッセージ。
何気ないシンプルなやり取りだけど、それでもこんな風にやり取り出来るのが嬉しくて。
結局今もよくわからない関係のままだけど。
でも、初めての約束と初めて交わしたメッセージで。
ドキドキさせる関係なのに、なんか心が温かくなるような。
そんな満たされた気持ちになった。
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