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第六十四話 約束のプレゼント
「大切なものは、渡す瞬間よりも、渡すまでの時間に想いが詰まっている。」
四月最初の休日。
桜はまだ満開で、
街には春らしい暖かな空気が流れていた。
紬が帰国してから、数日。
久しぶりに同じ場所で過ごせることが嬉しくて、
二人は朝から桜並木を歩いていた。
「日本に帰ってきたって、まだ実感ないかも。」
紬が笑う。
「そのうち慣れるよ。」
「でも、神崎くんとこうやって歩いてるのは、なんか変な感じ。」
「一年ぶりだから?」
「うん。」
紬は少し照れながら笑った。
公園のベンチに座る。
湊はバッグの中を何度も確認した。
小さな箱。
去年のクリスマスから
ずっと持っていたプレゼントだった。
「どうしたの?」
紬が不思議そうに尋ねる。
「いや……。」
湊は少しだけ迷ってから、箱を取り出した。
「これ。」
「……私に?」
「うん。」
紬は驚いた顔をする。
「クリスマスに渡そうと思ってたんだけど。」
「帰国するまで、ずっと持ってた。」
「え……。」
紬は箱を受け取る。
「開けてもいい?」
「もちろん。」
リボンをほどき、箱を開ける。
中に入っていたのは、
小さなフォトフレームだった。
そこには、二人が初めて
一緒に撮った写真が入っている。
少しぎこちなく笑う二人。
まだ今より幼く見える。
紬は写真を見つめたまま、しばらく黙っていた。
「……覚えてる。」
「初めて一緒に撮った日。」
「うん。」
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
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湊は笑う。
「一年間、離れてたけど。」
「この写真を見るたび、また一緒に撮れたらいいなって思ってた。」
紬は写真をそっと指でなぞる。
「ありがとう。」
声が少し震えていた。
「私からもあるよ。」
紬がバッグから小さな封筒を取り出した。
「これ。」
「手紙?」
「うん。」
湊が封筒を開ける。
中には、一枚の写真。
海外で撮った街の景色だった。
写真の裏には短い言葉が書かれている。
『離れていた時間も、全部大切な思い出です。』
湊は何度もその言葉を読み返した。
「これ、いつ撮ったの?」
「留学してすぐ。」
「この写真を撮ったとき、神崎くんに見せたいって思ったの。」
「でも、帰るまで取っておこうって。」
湊は写真を大切そうにしまう。
「じゃあ、これでお互いプレゼント交換できたね。」
「うん。」
二人は再び桜並木を歩き始める。
風が吹く。
桜の花びらが、二人の前をひらひらと舞っていく。
紬が立ち止まった。
「ねぇ。」
「ん?」
「これから、もっといろんな写真撮ろうね。」
「うん。」
「日本だけじゃなくて。」
「いつか、海外も。」
湊は笑った。
「それ、紬の夢と一緒じゃん。」
「そうだね。」
二人は顔を見合わせる。
そして、桜の下でカメラを構えた。
カシャッ。
今度の写真には、二人の笑顔が写っていた。
一年前には想像できなかった景色。
離れていた時間があったからこそ、
今この瞬間が特別だった。
📷 Photo.064『約束を渡す日』
撮影日:4月7日
一年越しに渡したプレゼント。
そこに込められていたのは、
「これからも一緒に」という、
小さな約束だった。
コメント
1件
うわあ、もう冒頭の「大切なものは渡す瞬間よりも、渡すまでの時間に想いが詰まっている」って一文だけでやられました。湊が一年越しにクリスマスプレゼントを渡すところ、それに応えるように紬も写真を取っておいたっていう対称性が素敵すぎる。離れていた時間を「全部大切な思い出」って言える関係、いいなあ。最後の桜の下で撮る新しい写真、きっと今度はぎこちなくない笑顔だね。じんわり沁みる回でした。