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第30話:波は続いていく
大会から三日後。
黄波地区の駅前は、冬の冷たい風と、ストリート屋台の温かい匂いが混じり合っていた。
拓真はジャージ姿で、改札前の香波カフェに入る。
ガラス張りの店内では、波感知フィルターが静かに作動しており、客同士の波色がふわりと浮かんで見える。
黄、緑、橙が混じる穏やかな空間——だが、赤は珍しい。大会シーズンを終えた街では、強波者は休養に入ることが多いからだ。
窓際の席で、陸が腕を組んで待っていた。
灰色のパーカーにジーンズ、髪は少し伸びて無造作に額へ落ちている。
もちろん、陸の周囲だけは波色が遮断されている。
「……で、落ち込んでる暇は終わったか?」
陸がコーヒーを置きながら言う。
拓真は笑って頷く。
「うん。あの試合で、まだ伸びしろがあるってわかったから」
その時、隣のテーブルの高校生二人がひそひそ声で話しているのが耳に入った。
「ほら、あの子だよ。黄波代表だった……緑波の」
「でも準決勝まで行ったんだろ?すげーよ」
以前なら、その“緑波”という言葉に胸が締め付けられた。
けれど今は——ただ、前を見られる。
波色が弱くても、読み合いで勝負できることを証明できたのだ。
「なあ、陸。次は都市大会だよな?」
「お前……もうエントリー考えてんのか」
「だって、このままじゃ終われないだろ」
笑顔で言う拓真の波が、静かに緑から橙へ変わっていく。
窓の外、駅前広場では子どもたちが香波遊具で遊んでいた。
淡い波色が交差し、まるで春を告げる光の粒のように揺れている。
——香波は続く。
自分の波も、この街も、まだ変われる。
拓真はそう確信し、次の一歩を踏み出すためカフェを出た。
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