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「もし圭ちゃんが…………私を嫌いになったら……すぐに振ってね。そしたら私は…………」
先ほどまでの寂しげな表情と打って変わって、圭は、美花の芯の通った眼差しに包まれる。
「DTMに…………人生を捧げていくから」
今まで聞いた事のない、美花の低い声色に、圭は胸の奥を強烈に突かれた。
なぜ、そんな事を言うのか。
昨日、互いの好意を寄せ合ったばかりだというのに。
だが昨日、彼も美花に弱音を吐いた。
『俺の前から…………突然消えたり……しないよな?』と。
彼女もまた、過去の恋愛で手痛い思いをしてきたのだろう、と予測する。
(それにしても、彼女の言葉は…………寂し過ぎないか?)
圭に振られる前提で話している口調は、まるで交際するための条件掲示をしているように感じる。
「美花。昨日、君に言われた事をそのまま返す。二人の気持ちを確かめ合ったばかりなのに、なぜ…………そんな事を言う?」
柔らかな圭の視線が、意思の強いものに変わった。
艶やかな唇が小刻みに震え、美花は、ぎこちない様子で、うっすらと口を開いていく。
「…………こっ……怖いんだ。好きな人と恋人同士になれて…………幸せ過ぎて…………怖いんだよ……」
「…………怖い?」
「…………うん」
美花が圭から顔を背けながら答えているが、彼には、彼女が核心を言い澱んでいるように感じた。
美花から、元彼と別れた原因を、圭は聞かされていない。
彼女の根底で蔓延る暗い影は、一体何なのか。
「美花。俺は君を振るつもりなんてない」
「…………」
彼女は、圭の胸元を凝視したまま、沈黙を貫いている。
(幸せ過ぎて怖い…………なんて……俺には考えもつかなかった。どうしたら彼女の不安を…………取り除けるだろうか?)
圭には女を喜ばせる方法が、ひとつしか思いつかない。
しかし、こんな事をしたら、美花は嫌がるかもしれないだろう。
「美花」
圭は、彼女の肩を抱き寄せながら、ベッドから身体を起こす。
「今から…………出掛けるぞ?」