翌朝、奈緒は腕によりをかけて美味しい弁当を作った。
省吾の胃に負担がかからないよう、和食中心の弁当にした。
煮物やきんぴら、焼き魚等の隙間には、ブロッコリーやプチトマトを散りばめる。
見た目が綺麗だと食欲も湧くかもしれない。
完成した弁当を見た奈緒は「よしっ、これでオッケー」と気合を入れた。
出社して九時になると、秘書三人はいつものように役員室へ向かう。
その時、奈緒が手にしている紙袋を見て恵子が奈緒に聞いた。
「奈緒ちゃん、それは何?」
「これは深山さんのお弁当です」
「えーっ? 奈緒ちゃんお弁当を作ってあげる事にしたの?」
「はい。あ、でも、深山さんが会社で食べる日だけですが」
「奈緒ちゃんありがとう~。これで省吾の体調管理もバッチリね!」
省吾の姉代わりでもあるさおりは、心からホッとしているようだ。
CEO室の前に行くと、奈緒はノックして中へ入る。
いつものように省吾の前で今日の予定を読み上げると、奈緒は紙袋を机の上に置いた。
「今日のお弁当です」
「おっ、早速作ってきてくれたのか、ありがとう」
省吾は嬉しそうに袋の中を覗き込む。
「うん、いい匂いがするな……」
「お弁当箱は使い捨てなので、そのまま捨てて下さいね」
「わかった。今日の昼休みが楽しみだなぁ~、奈緒、ありがとうな」
「はい……では失礼します」
奈緒はCEO室を後にした。
廊下を歩きながら、奈緒は省吾の嬉しそうな顔を思い出しフフッと微笑む。
(喜んでくれて良かった)
奈緒は弁当を作る事にして良かったと心から思った。
昼休み、秘書三人は丸テーブルで昼食を食べていた。
そこで恵子から井上と一緒にゴルフ練習に行く日が決まったと報告があったので、一気にその話で盛り上がる。
話に夢中になっていると、奈緒の携帯がブルブルと震える。
見ると省吾からメッセージが届いていた。
【美味すぎてあっという間に完食! すごく美味しかったよ。奈緒は料理上手だな、ご馳走様】
メッセージの後には、空になった弁当箱の写真が添えられている。
奈緒が嬉しくてニコニコしていると、二人がすぐに気付いて奈緒の携帯を取り上げた。
「あーっ! 写真までついてるー! あいつ美味し過ぎてペロッと食べたな?」
「空のお弁当箱の写真まで添えるなんて、よっぽど嬉しかったんですよ。あーなんかいい感じー♡」
「奈緒ちゃん、作った甲斐があったね」
「はい」
奈緒はニコニコして返事をした。
その日の仕事を終えた奈緒は、明日の弁当のメニューを何にしようか考えていた。
明日の昼も、省吾は社内にいる予定だ。
美味しいと言って食べてくれる人がいると、作り甲斐がある。
(明日は唐揚げ弁当にでもしようかな?)
そう思いながら奈緒が構内へ入ろうとした時、突然誰かと激しくぶつかった。
「あっ、すみませんっ」
「いえ、こちらこそぼーっとしててすみません。あれっ? 麻生さん?」
「あっ、新藤さんっ?」
奈緒がぶつかった相手は、前の会社で一緒だった新藤孝(しんどうたかし)だった。
孝は奈緒が営業推進本部にいた時の先輩で、徹の同期だ。
「こんな所で会うなんて凄い偶然だねぇ」
「はい、びっくりしました」
「今は仕事の帰り?」
「はい、職場はこの駅のすぐ近くなので」
「あ、確か今は CyberSpace.inc にいるんだよね?」
「そうです」
そこで新藤はチラッと腕時計を見てから言った。
「もしよかったら少しお茶でもしないか?」
「あ、はい」
「じゃあ、あそこのカフェに入ろうか」
そして二人はカフェへ向かった。
コメント
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あんさんの言う通り‼️ 喜んて貰えると嬉しいし、作り甲斐があるの😊 この愛、羨ましい〜🥰 元会社の方、うん、前に進ませてあげて下さい‼️
お弁当喜んでくれてよかったねー!😊 作ってくれた労力と気持ちが嬉しかったのもあるよね😉 前の会社の人は何を話すのかな。 もう蒸し返さないで欲しい…
kyonさん、お弁当外れましたね〜😅 手の込んだ和食中心のメニュー➕空の弁当箱の写真で省吾さんの胃袋ガッチリ掴んでまんざらでもない奈緒ちゃんのスマイル☺️💗 そして前会社の同僚男性とカフェへ☕️⁉️ 変な噂がたたないといいけど…シンパイ😫💦