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桜城
308
#恋愛
ばたっちゅ
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#ファンタジー
comi
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イザリオは結界の外で腰を沈め、双剣を低く構えた。クルサ・ガルヴァが、再び低く唸る。目尻の吊り上がった、鋭い赤黒い瞳が、まっすぐに王子を捉えた。イザリオの額に汗が滲む。
護る――。
その強い決意が、恐怖の色に少しずつ塗り替えられてゆく。それを象徴するかのように、双剣が小刻みに震えた。
恐ろしい ――。
そう思った瞬間だった。
『殿下。恐れとは、現象にすぎません』
イザリオの脳裏に、かつて聞いたラッセル大佐の声が蘇る。
『恐れは、まだ見ぬ未来を、心が先に作り出した“影”にございます』
『影は、光がなければ生まれません』
『ですが、影が現れたからといって、光が消えたわけではない』
『恐れを感じることは、弱さではございません』
『恐れを抱いたまま、それでも一歩を踏み出すこと。それこそが、真の強さにございます』
『宇宙の根に触れ続ける星々の光は、闇があるからこそ、深く、強く、そして、やさしく輝くのです』
その言葉が、今のイザリオの胸に重なった。胸の奥で、何かが静かに燃え上がる。
『試練は、殿下を挫くために現れるのではございませぬ』
『殿下の魂に宿る“本質”を、呼び覚ますためにこそ、試練という姿を取るのです』
『だからこそ、恐れから目を逸らしてはなりません』
『正面から試練を受け入れ、その先へ進むのです』
震えていた双剣が静かに止まった。
王子は、双剣を強く握り締めた。
(恐れに、飲まれない!)
『守るべき者が一人でもおられるなら、その想いは、星よりも強い力となりましょう』
(私は護るために立つ!!)
「……行くぞ! クルサ・ガルヴァ!!」
次の瞬間。
「うおおおおっ!!」
イザリオは地を蹴った。
稲妻のように駆け、双剣が十字に閃く。
『――《双星斬(そうせいざん)》!!』
『 ガキィィィィン――!! 』
双剣の刃が、クルサ・ガルヴァの巨大な骨角と激突した。刃が交差する。その瞬間、二振りの剣から放たれた光の線が幾重にも重なり、十字の軌跡を描いた。 激しい火花と爆音が炸裂し、森の静寂を切り裂く。クルサ・ガルヴァの巨体が、大きく揺らいだ。
だが,クルサ・ガルヴァは、その軌道を読んでいた。
巨体が、わずかに傾いた。
次の瞬間、双剣の斬撃が赤黒い霧を切り裂いた。
霧の表層が大きく裂け、赤黒い光が弾け飛ぶ。だが、赤黒い霧の奥に潜む本体の核を、捉えることはできなかった。イザリオの瞳が、大きく見開かれる。
「避けた……?」
クルサ・ガルヴァは、ゆっくりと頭をもたげた。
赤黒く濁った瞳が、再びイザリオを捉える。
その眼差しには、獣とは思えぬほどの戦闘の知性が宿っていた。
――次の瞬間。
クルサ・ガルヴァの巨大な前脚が地面を抉りながら振り抜かれる。
狙いは、イザリオただ一人。
「何!」
王子が反射的に身を構え前脚の動きに意識を奪われた、その刹那。
死角から、棘に覆われた尾が弧を描いて迫った。
「――なっ!」
避ける間もなかった。
――ドガァッ!!
尾がイザリオの肩口を打ち抜く。
「ぐっ……!」
激しい衝撃とともに、肉が裂ける。
全身に痺れるような痛みが走った。
次の瞬間――
イザリオの身体が宙を舞った。
エルファーナは、凍りついたようにその光景を見つめていた。
「お兄様――!」 エルファーナの叫び声が響いた。
そして、イザリオの体はそのまま岩壁へ叩きつけられた。
「――ドォンッ!!」 重い衝撃音が洞内に響く。
エルファーナは震える足で駆け寄った。
崩れ落ちた兄の傍らに膝をつき、その手を強く握りしめる。
兄の呼吸は浅い。
脈も、弱い。
握った手から、少しずつ体温が失われていく。
その感触が、恐怖となってエルファーナの胸を締めつけた。
ルーネも駆け寄り、王子の状態を確認する。
呼吸の様子を見た瞬間、その表情が強張った。
(これは、死戦期呼吸だわ……)
ルーネは息を呑む。
「このままでは……」
その先の言葉を、口にすることができなかった。
「お兄様が死んじゃう……」
エルファーナの声が震える。
「そんなの……嫌……!」
涙が止めどなく頬を伝った。
それでも、兄の手だけは離さなかった。
「お願い……お兄様……」
そのとき、胸の奥が、かすかに熱を帯びた。エルファーナは、ふと顔を上げた。
「なに……?」
自分でも、何が起きているのかわからない。ただ、胸の奥で生まれた小さな熱だけが、消えることなく脈打っていた。
(なに……?)
ふと、幼い頃から何度も聞いた、母の声がよみがえった。
『祈りはね、必ずどこかで光になるのよ。
心を真っ直ぐにすれば……奇跡は、必ず応えてくれる』
エルファーナは、震える手で兄の胸に両手を重ねた。
肩で必死に“生きよう”と呼吸をしているイザリオ王子。
だが、その胸に触れる鼓動は、今にも消えてしまいそうだった。
背後で、闇に染まったクルサ・ガルヴァが再び迫る。
赤黒い双眸が二人を射抜き、低い唸りとともに地を蹴った。
だが、エルファーナは立ち上がらなかった。逃げるという選択肢は、もうなかった。両手を胸の前で組み目を閉じる。
「命の源よ……清き光よ……」
声は震えていた。それでも、祈りは真っ直ぐだった。
「どうか……どうか、兄を護って――!」
その瞬間、胸の奥で、“何か”がほどけた。
白い光が、内側から溢れ出す。意識するより早く、古い響きを持つ言葉が、喉を震わせていた。
「……ミ……コ……」
次の瞬間、確かな響きが空間を震わせる。
「ミコトノリ・ヒカリノミズ・ナオレ!!」
王家にのみ伝わる、古代の守護マントラ。
エルファーナ自身、一度も唱えたことのないはずの言葉。
だが、その声は迷いなく、完全だった。
そして、祈りは力となった。
パァァァァァァァッ!!
天の川のような光が、根の洞の一帯を包み込み、
イザリオの身体を優しく覆った。
イザリオに刺さった棘が、音もなく溶けだし血が光の粒となって消え、裂けた肉と砕けた骨が光の糸で縫われるように閉じていく。
四肢の冷たさは次第に薄れ、身体に温もりが戻っていく。
王子の呼吸は整ったが、意識は夢の中だった。
なお、光は、止まらず水紋のように広がっていった。
根の洞の結界魔方陣の中で横たわり、衰弱していたロスクにも、
白い粒子が降り注ぐ。
裂けた肩が塞がり、砕けた骨が静かに元へ戻る。
夢から覚めたように、ロスクが呟いた。
「私は……クルサ・ガルヴァと闘っていた。あれは……夢か……」
そして、最も強く光を浴びたのは、影化したクルサ・ガルヴァだった。黒い体表が焼かれるように震え、赤黒い霧の寄生核が剥がれ落ちていく。
「ガアァァァァッ!!」
クルサ・ガルヴァは咆哮し、身体をうねらせながら
暗闇が広がる森の手前まで、後退する。
白い光は、赤黒い穢れを削ぎながら、クルサ・ガルヴァ本来の魂核へと届こうとしていた。
エルファーナは、自分の手を見つめ、息を呑んだ。
「私の祈りが……魔法に……?」
ルーネが静かに頷いた。
「エルファーナ様。これは、王家の血筋に伝わる光の素質……白魔法です。エルファーナ様の祈りが、眠っていた魂核を目覚めさせたのです」
「光の素質……。白魔法……」
エルファーナは、自分に隠されていた能力を初めて認識した。白い光はなおも漂い兄妹の周囲で静かに揺れていた。
イザリオはゆっくりと身体を起こした。服は所々破れていたものの、傷はなかった。
「エルファーナ……。怖かっただろう……。それでも……君は、俺をここへ呼び戻してくれた。ありがとう。俺はもう大丈夫だ」
「お兄様……」
エルファーナは言葉を詰まらせ、兄イザリオに抱きついて泣き崩れた。淡い光は、まるで兄妹の絆を祝福するかのように、二人の周囲で柔らかく、静かに輝き続けていた。
「よかった……本当によかった……」 ルーネの声も震えていた。
しばらくして、近くから声がした。
「エルファーナ様、ありがとうございます。私も回復しました」
エルファーナが振り向くと、侍従ロスクが跪いていた。
「ロスクさん!」
エルファーナは驚きに目を見開いた。そして、改めて自分の手を見つめた。自分の祈りが、兄だけではなく、ロスクの命までも救った。
「これが……私の祈りに秘められた力……」
手には真っ白い光の粒子が優しく纏っていた。
同じ頃。ヒロノゼウスは、膝下まで水に浸かりながら、その影と正面から対峙していた。赤黒い霧に侵食された、巨大ノコギリガザミのような――ギガントクローザ。
本来は沿岸の守り神に近い存在だが、今は甲殻の隙間から黒い瘴気を噴き上げ、複眼は濁った赤に染まっていた。
「……来たか」
ヒロノゼウスは低く呟き、
肩に担いだエルフショットガンを構えた。
銃身に埋め込まれたエルフエナジー鉱石が淡く脈動し、
周囲の水面が微かに震える。
「ガガガガッ!!」
濁音じみた咆哮と共に、ギガントクローザが湿地を割って突進する。水柱が跳ね、鋭いノコギリ状の脚が空気を裂いた。
ヒロノゼウスは一歩も引かない。
「ドンッ! ドンッ!」
連続して放たれた光弾が、霧に覆われた甲羅へ叩き込まれる。
光分子が炸裂し、外殻の一部が白熱して弾け飛ぶ。
露わになった内部は、すでに赤黒く変質し、
再生するように蠢いていた。
「くそ……完全に“染まってやがる”」
引き金に指をかけ、静かに息を整える。
「ギガントクローザ……」
銃身の鉱石が、ひときわ強く輝いた。
「……せめて、眠れ」
轟音とともに放たれた渾身の一発は、赤黒い霧の核を正確に貫いた。内部から光が爆ぜ、霧は悲鳴のように散り、巨大な身体が、支えを失った殻のように崩れ落ちていく。
だが、霧は完全には消えなかった。影は形を失い、湿地の奥へと薄く溶けていく。湿地に残ったのは、静寂と、汚染がわずかに和らいだ空気だけだった。ヒロノゼウスは、静かに銃を下ろした。
しばし言葉を失ったまま、空になった“器”が光の粒子へと還っていく様を見届ける。やがて、胸の前でそっと手を合わせ、目を閉じて首を垂れた。
ヒロノゼウスが空を見上げた、その時だった。天へ伸びる白い光柱が、島の闇を裂くように立ちのぼった。同時に、セブンの声が響いた。
『観測! “光属性白魔力”の大規模発露を確認!』
「なっ……白光の魔法だと!? 場所はどこだ!」
『王家ヘリポート裏山、洞窟付近。神獣クルサ・ガルヴァと交戦中!』
『洞窟前に、白い光を放つ人物を確認! その付近に三名の人物を確認。獣と交戦中!』
「獣と交戦だと!! 王家のヘリポート裏の洞窟……王族?」
『可能性が高い!』
「まさか……王子と王女か!?」
『発動者の特定はできない。しかし、可能性は高い!』
「セブン!! すぐ向かうぞ!!」
『了解!』
セブンは翼をひるがえし、急降下してヒロノゼウスを掴み上げる。
次の瞬間、二人は夜空へと高く舞い上がった。
コメント
1件
うわ、この話めっちゃ熱かった…!エルファーナが自分の祈りで白魔法に目覚めるシーン、もう鳥肌立ったわ。ラッセル大佐の「恐れは影」って教えがイザリオを支えて、妹の祈りがそれに応える流れ、最高に美しかった。クルサ・ガルヴァ戦もヒロノゼウスの戦いも、それぞれの覚悟が伝わってきて泣きそうになった。兄妹の絆が光になる展開、めちゃくちゃ刺さりました!次回も楽しみにしてます🔥