少し落ち着いたところで、和真は食器をキッチンへ運んでくれた後ソファーへ移動した。
そこへ雪子はデザートの果物とコーヒーを持って行く。
コーヒーを一口飲んだ和真がうんと頷き言った。
「お店のコーヒーみたいに美味しいね。修さんのスクールにはまだ通ってるの?」
「うん、まだ行ってるわ。なんかそこでお友達もいっぱいできたの」
母の話を聞いて和真は嬉しそうだった。
鬱々していた母の姿はもうそこにはなく、代わりに趣味を楽しみながら生き生きと輝いている母の姿があった。
「母さんね、ここでカフェを開こうかと思うの」
母親の突然の言葉に、和真は飲みかけのコーヒーを吹きそうになった。
「えっ?」
「なるべくお金はかけないで自分で出来る所は自分でやるようにしてね、それで小さなお店を作ろうと思うの」
「なんで急に?」
「母さんね、自分の店を持つのが昔からの夢だったの」
「そうなの? でもだからっていきなり素人がそんな事やって上手くいく訳ないじゃん」
「うん、失敗するかも。でもね、挑戦してみたいのよ。母さんの人生で最初で最後のチャレンジなの」
「………..」
「それともう一つね…….」
「まだあるのかよ! 今度は何だ?」
和真は更に驚いた顔をして言った。
「うん。あのね、母さん彼氏が出来た」
また和真はコーヒーを吹きそうになる。
「えっ? マジで?」
「うん。でもね、これに関しては和真の許可がないと踏み込みたくないんだ。和真がそういうのは嫌だって言うなら別れるつもり」
和真は母の顔を真剣に見つめた。
この人はいつもそうだ。何かあると常に息子の意見を尊重してくれる。
クソみたいな父親とは真逆で、自分を犠牲にしてでもいつも息子の事を最優先にしてくれるのだ。
そこで和真はフッと笑って言った。
「実はさ、俺も彼女が出来たんだ」
「えっ? 本当に? もしかして前に言っていた菜々ちゃん?」
「そう。まだつき合い始めたばかりだけれどね」
「えぇーっ、そうなんだぁ! なんか母さん嬉しい。素敵なお嬢さんみたいだもの」
雪子は心から嬉しそうにニコニコしている。
「うん、だからね、ちょうど母さんにも彼氏作りなよって言おうと思ってたんだ」
その言葉に雪子がまた涙ぐむ。
「ありがとう」
和真はティッシュを1枚手に取ると母親に渡した。
雪子はそれを受け取り再び涙を拭う。
「お母さんの相手はどんな人?」
「豊村悦司よ」
「えっ? 誰だよそれ」
「だからぁ、俳優の豊村悦司にそっくりの人よ! ほら、前に母さんを車で送ってくれた人」
「え? まさかのあのイケオジ? マジでっ? お母さんやったね凄いじゃん! 絶対金持ちだろう?」
「それはどうか知らないけれど、でも凄くいい人だよ」
和真はすぐにスマホで豊村悦司の写真を検索する。
「おおっ、本当にそっくりじゃん。で、名前何て言うの? 仕事は何をしている人?」
「名前は一ノ瀬俊さん。俊の字は、お父さんの俊之と同じ『俊』の字ね。で、仕事は飲食店プロデューサーっていう仕事なの」
すると和真はまたすぐに検索をかける。しばらく画面を見入っていた和真は興奮したように言った。
「うわっ、マジか、この店を作っている人? カッケー! 今さ、会社で話題になっているんだよこの店! うちの会社の近くに出来るみたいでさ、オープン前から凄く話題になってるんだ。すぐに予約は取れないだろうなーって昨日ちょうどみんなで話してたんだ」
「へぇー、どんな店?」
すると和真はスマホを雪子に見せた。
スマホに映し出された店の写真は、窓一面に東京の夜景が広がり中心にはオレンジ色の東京タワーが輝いている。
シンプルな店内は美術館のような洗練されたイメージで、少し落とし目の照明により窓の外の夜景がまるで絵画のように浮かび上がっていた。
写真と共に俊の写真とインタビュー記事が載っていた。
「マジでこの人がお母さんの彼氏とかヤバいだろう? 最高じゃん! お母さんこの人と結婚しちゃってもいいからね! そうしたらこの人俺の父親になるんだろう?」
和真はウキウキした様子で言った。その顔は満面の笑みだった。
雪子は調子に乗り過ぎている息子の頭を軽くごっつんとすると笑いながら言った。
「この人修さんの親友なのよ。大学の同期だったんだって」
「え? そんな繋がりなの? じゃあさらに安心じゃん! あー今度時間が出来たら修さんの所にも行かなくちゃなぁ」
「そうよ、修さんも優子も和真に会いたがってるよー! 今度菜々ちゃんを連れて行ってらっしゃい! 和真に彼女が出来たって知ったらあの2人泣いて喜ぶよー」
雪子はそう言って笑った。
それからしばらく親子の談笑が続いた。
まさか息子とお互いのパートナーについて話せる日が来るとは夢にも思っていなかった。
雪子はこの日、和真との親子の絆が一層深まったような気がした。
夜10時近くなると和真はそろそろ帰ると言ったので雪子は駅まで送って行った。
和真は母親に笑顔で手を振ってから駅構内へ姿を消した。
コメント
8件
元夫の手紙の件だけではなく 喫茶店オープン計画の話や お互いのパートナーのこと等 親子で本音を語り合い、さらに絆を深めることができて良かったね....🥺💖 今度は お互いのパートナーも交えて、皆で逢えると良いですね🍀✨
Wでラブラブ最高でしょ笑っ😙
和真くーん‼️そうなのよぉーっ‼️ 俊さんはイケオジでカッケーの😎🆒そしてお母さんのこと、とってもとーっても大切にしてる🕊 𓂃𓈒 𓂂𓏸🤍.。.:*♡ きっと和真くんのことも1人の大人の男として対等に接してくれて、良き相談相手になってくれること間違いなしദ്ദിˉ͈̀꒳ˉ͈́ )✧